茂木秀之

人文知と生活を再接続するためにトークイベントなどを行う「人文と生活おしゃべり会」主宰。…

茂木秀之

人文知と生活を再接続するためにトークイベントなどを行う「人文と生活おしゃべり会」主宰。アルコール依存症者の回復を支援する団体の職員。3児の父、妻の夫。自主制作本『介助/赤ちゃん/神と死者』が全国10店の独立系書店さんで発売中。

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  • 介助/赤ちゃん/神と死者

    自主制作本『介助/赤ちゃん/神と死者』の全文を掲載します。 本のサイトはこちら。 https://mogikenomise.base.shop/items/8802176 《推薦コメント》 介護の仕事、子育てなどの日常から立ち上がった思考と、様々な時代・分野の人文知を類い稀なセンスでまとめ上げた傑作。繊細な筆致だが中身はラディカル。読み切れる分量も丁度いい - 宗教社会学者 白波瀬達也

  • 監獄社会のしなやかなサイボーグ

    いま私たちが暮らす社会は、様々な思想家や作家が予見した監視社会・監獄社会そのものになっていると私には思えます。 地球上、およそ人の暮らすところには隅々までコントロールが行き渡り、誰の目も気にせずにのびのびとしていられる余地、余白は、もはやどこにもないように見えます。 しかし人文学はまた、私たちが豊かに生きるためには余地、余白が必要であることも語ってきました。それらは社会から姿を消し、世界から永遠に失われたのでしょうか。それとも姿を変えて存在しているのでしょうか。失われたのだとして、私たちはそれを回復することができるのでしょうか。 このような問いを抱き、自ら回答したいと思って、この連載を始めることにしました。

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#01 消費社会の子どもたち、その生命の欲動 (茂木秀之)

消費社会は評判が悪い。 もともと批判のために作られた概念という面もあると思うが、いよいよ近代の次を構想しないとにっちもさっちもいかなくなってきた感のある昨今においてはますます、消費社会を肯定するような知的な言辞はまず聞くことがないと言っていい思う。そして、批判の多くに私は共感する。だけど、その消費社会のまっただ中を生きてきて、それほど悪いことばかりだったとも思わない。特に子どもだった頃を振り返ると、なかなか良い思いをしてきたと思うのだ。 誰もが大量供給される規格化された商品

    • #08 自分の声で、現実の話をしよう(茂木秀之)

      僕が生まれ育った熊谷市は、15万ほどの人口を抱える、埼玉県北部の中核都市である。夏の祇園祭と花火大会が周辺地域では有名だ。花火大会は実に40万人を動員する。 高校三年のとき、一年間だけ塾に通った。お隣の群馬県で、難関大合格者が多いと言われる桐生市で成功して、この年に熊谷に進出してきた塾だ。しかし広報に失敗したらしく、僕が通った英語のクラスは生徒が三人しかいなかった。講師は一人だけで、彼が全クラスを担当していた。 東大出身のその講師は、よく桐生のクラスの生

      • #07 わたしたちは空間をつくり続ける (茂木美月)

        今回は私の妻の茂木美月さんです。2013年に書かれたものですが、この企画のテーマへのすばらしい回答になっていると思い、掲載させてもらうことにしました。 もともと、当時小沢健二さんが運営されていたozkn.netで、最後を飾る文章として掲載されたものです。 ・゜゚・*:.。..。.:’・*:.。. .。.:*・゜゚・* 例えば、 子どもを寝かせるときに、おはなしをつくりながら、その空間に連れて行くこと。その魔法。 それは、眠りへと、夢の中へ、その間をつなぐ空間。 それぞ

        • #06憶えてないから、一から始めよう(梅木春幸)

          奈良市の漢國神社の神主(禰宜)である梅木春幸さんにインタビューしました。私とは同世代であり、共に二児の父で家族ぐるみの付き合いですが、普段は与太話しかしない仲。東京のベッドタウンのサラリーマン家庭の子である私や青木真兵君とはある種対照的な、奈良の神社の子である彼は、何を感じて同時代を生きてきたのでしょうか。 網戸越しに見る 茂木 梅さんは1981年生まれで、生まれも育ちも奈良市ですね。いちばん古い記憶ってなんでしょう? 梅木 なんかこう、家に網戸があって、その網越しに見

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        #01 消費社会の子どもたち、その生命の欲動 (茂木秀之)

        マガジン

        • 介助/赤ちゃん/神と死者
          6本
        • 監獄社会のしなやかなサイボーグ
          10本

        記事

          #05 1990年 前夜 (小山潤)

          小山潤 1983年生まれ、埼玉県深谷市出身。主婦。大学院進学を期に関西へ。在学中、身体障害者の主催する劇団の裏方に携わる。介護職、非常勤講師などの職を経て、結婚・出産を機に退職。今は奈良の山の中で育児と介護中。ほぼ週末note更新。 https://note.com/kiwiiiii 我が家は、ちょっとした山の中にあって、子どもの足で通える範囲に学校というものがない。なので、この春上の子が小学生になっても、あいかわらず朝は上の子と下の子を車に押し込んで慌ただしく送っ

          #05 1990年 前夜 (小山潤)

          #03 土着する―資本主義との距離感を掴む(青木真兵)

          青木真兵 1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークにしている。2016年より奈良県東吉野村在住。現在は障害者の就労支援を行いながら、大学等で講師を務めている。著書に『手づくりのアジール』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』

          #03 土着する―資本主義との距離感を掴む(青木真兵)

          #04 われら骨盤ニュータイプ (茂木秀之)

          身体はなくなったのか 「身体の時代であります。」 野口整体の継承者である片山洋次郎は、『整体から見る気と身体』文庫版をこの一文で始めている。 養老孟司は、現代人は身体がなく、脳だけになっているという趣旨のことを繰り返し語っている。これはよく知られており、身体がないとか身体感覚がないという言説はよく見られるようになった。しかし片山が見ている身体は少し様子が違うようである。『整体から見る気と身体』の原著は1989年に書かれた。ここから続く90年代、私たちの身体に何が起きていた

          #04 われら骨盤ニュータイプ (茂木秀之)

          丁寧に言葉を積み重ねる、その手付きが現実を変える ー 『資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す』光文社新書

          冷静で丁寧な議論を重ねていった結果、胸が熱くなるような詩的な情動がもたらされてしまうのが良い人文書だと思う。予想に反して(失礼)友人の高橋真矢が書いた『資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す』もそんな本だった。 一般向けの本も多く出している著名な経済学者の松尾匡さん、井上智洋さんと高橋との共著なのだが、それぞれの議論を包括する視座を提供しているのは高橋だと思う。 3人に共通する主張は、民間銀行が無から貨幣をつくり出す(信用創造)現在の制度を廃止して、政府が貨幣を

          丁寧に言葉を積み重ねる、その手付きが現実を変える ー 『資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す』光文社新書

          #02【後編】総中流に花束を - 青木真兵×茂木秀之 90年代B面史

          自宅で人文系私設図書館ルチャ・リブロを運営し『彼岸の図書館』などの著作のある青木真兵君。彼と茂木は共に1983年生まれで埼玉県出身、なおかつ現在は奈良県に住んでいます。さらに人文書にまつわる活動をしているわりに最も愛読してきたのは『ファミ通』であったり、伊集院光氏のラジオを偏愛していたりと共通点が多数。よく似ているように見える二人が個人史を語り合うことで、むしろ同じ時代状況に対するスタンスの違いが浮かび上がり、そこからまだ語られていない90年代史を記述できるのではないか?その

          #02【後編】総中流に花束を - 青木真兵×茂木秀之 90年代B面史

          #02【前編】総中流に花束を - 青木真兵×茂木秀之 90年代史B面史

          自宅で人文系私設図書館ルチャ・リブロを運営し『彼岸の図書館』などの著作のある青木真兵君。彼と茂木は共に1983年生まれで埼玉県出身、なおかつ現在は奈良県に住んでいます。さらに人文書にまつわる活動をしているわりに最も愛読してきたのは『ファミ通』であったり、伊集院光氏のラジオを偏愛していたりと共通点が多数。よく似ているように見える二人が個人史を語り合うことで、むしろ同じ時代状況に対するスタンスの違いが浮かび上がり、そこからまだ語られていない90年代史を記述できるのではないか?その

          #02【前編】総中流に花束を - 青木真兵×茂木秀之 90年代史B面史

          熱を出して彼女は熊を見る - 遠野物語と子ども

          (2017年頃に書いたものです) 昨年の春、1歳の娘が熱を出した。たいていの子が経験する突発性発疹というやつで、一週間ほど発熱が続いた。いつも底なしの元気で私と妻を少々困らせる娘も、さすがに力ない様子でおとなしく過ごしていた。 元気がなくても退屈はする。退屈すると「クマみる」と言う。クマみる、熊見る。 その頃よく見ていた『クルテク』というチェコのアニメーションに、クマが出てくるエピソードがある。十分ほどの短い話。これを繰り返し、繰り返し、見たいという。 こんな話だ。モグ

          熱を出して彼女は熊を見る - 遠野物語と子ども

          3-2.汐月陽子メールインタビュー

          1.「現代魔女」を名乗る理由を教えてください。  いろんな語り方ができると思っているのですが。発端は八年前にあって、その頃には「現代呪術家」と名乗っていました(笑)。今で言う、「地域アートプロジェクト」のディレクター見習いみたいなことをやっていまして。わたしはもともと美術系の出身ではなかったので、すごく不思議がられたと言うか、地域にも「アート」にもそんなに関心があった訳じゃなくて、それまでどちらかと言うと、社会学の、エスノグラフィと呼ばれる領域に近いことをやっていたんですね

          3-2.汐月陽子メールインタビュー

          3-1.応答①汐月陽子 - 権力と物語、そこから逸脱する現実の身体

          「現代魔女」を名乗る汐月陽子さん。その活動についてはとても簡潔に説明できないので、後半のインタビューでご本人からお話しいただいています。汐月さんとは、アートNPO「ココルーム」(※)で出会いました。私がスタッフ、汐月さんが助成金を出す企業の担当者という関係でしたが、それから公とも私ともつかない交流が続いています。私と関心が重なる部分も多くありながら、来歴や現在の活動のしかたはかなり異なる汐月さんをゲストに招いて、当日はプレゼンに関係する本や事柄を話してもらい、事後にメールイン

          3-1.応答①汐月陽子 - 権力と物語、そこから逸脱する現実の身体

          4.応答② 椎名保友 — 障害福祉の突端から見る社会

          本書制作時の私の職場であるパーティパーティ(NPO法人日常生活支援ネットワーク)の椎名保友さんに、プレゼンを聞いていただいてからお話を伺いました。椎名さんは、大阪の障害福祉の中枢を成す団体のひとつであるパーティパーティで長年活躍しながら、各地の行政や市民団体から依頼を受けて、福祉を中心に防災やまちづくりやアートなど様々な話題で講演をされています。僕にとっては職場の大先輩であり、演劇の経験が活動のベースのひとつになっているという点が共通している方でもあります。さらに「父」という

          4.応答② 椎名保友 — 障害福祉の突端から見る社会

          2.プレゼンテーション「物語/マイノリティ/神と死者」

          人文と生活おしゃべり会での、茂木のプレゼンの内容をまとめました。いろいろなおしゃべりのきっかけになるように、あえて散漫な内容にしています。  去年子どもが生まれて、障害者支援の仕事も変わらずしながら目がまわるような毎日なのですが、長い通勤時間のおかげで良質な本をたくさん読むことができています。その中のいくつかを紹介しながら、僕の最近の関心ごとについ話していこうと思います。あまりまとまった内容ではありませんが、ひとまずつけてみた「物語/マイノリティ/神と死者」というタイトルに

          2.プレゼンテーション「物語/マイノリティ/神と死者」

          1.肛門の感触、あなたを信じてる

          摘便という言葉を知ったのは、重度の脳性麻痺であるAさんの介助に入るようになってからだ。 摘便とは、自力での排泄が困難な人へ行う介助であり、介助者が肛門に直接手を入れて便を掻き出す行為を指す。要するにうんこをほじくり出すのだ。 初めて介助に入った日にこれを行うと聞いたときは心の底から「ホンマかいな」と思ったが、先輩が行う摘便の手際のよさと、この行為からみなぎる迫力に、なにか感心してしまい、それほどの抵抗もなく実践に移っていった。 Aさんをうつ伏せに寝かせてパンツを下ろす。

          1.肛門の感触、あなたを信じてる