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随筆

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#結婚

3分クッキングに命を救われた

3分クッキングに命を救われた

家の中を整理しようと、クローゼットを開けた。規則正しく積み重ねられたバンカーズボックスには、小説や参考書など大量の本が眠っている。一番奥に保管している重めの箱を取り出した。

そこには、暗闇から私を救い出してくれた月刊誌『3分クッキング』が綺麗に並んでいる。

心が折れた日忘れもしない、2019年4月1日。私は働いていた会社から裏切られた。詳細は割愛するが、簡単にまとめると「同僚から不当な告発をさ

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幼なじみが結婚する(3)

幼なじみが結婚する(3)

「実はさ、報告しなきゃいけないことがあるんだよね。私ーー」

「ーーもしかして、入籍!?」

椿が言い終わるより先に、わたしは食い気味に反応してから後悔した。今は話を聞くべきタイミングなのに、また自分勝手に突っ込んでしまった。最近、周りから結婚報告を耳にすることが多くなっていたし、彼女には同棲している彼氏がいたので、そろそろプロポーズされるのではないかという気持ちから早まってしまったのだ。

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幼なじみが結婚する(2)

幼なじみが結婚する(2)

空白の5年間20歳の冬。大学生活にも慣れ、それなりに充実した毎日を過ごしていた頃、実家から成人式の案内が届いた。中学の同窓会も行われると知り、ふと椿の顔が頭をよぎった。彼女とまともに会わなくなってから、5年の月日が流れていた。

ーー今、何をしているのだろう。確かめたい気持ちが募る。元々行く気はなかったが、どうしようかと悩み始めた。でも、直接話せなくていいから、元気な姿が見れればいい。そう心の中で

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幼なじみが結婚する(1)

幼なじみが結婚する(1)

26歳の冬。幼なじみに会った。彼女の名前は椿。よく晴れた日曜日の午後、駅前の待ち合わせ場所に、彼女は浮かない表情でやってきた。いつもなら「よっ!」とか「お待たせ!」などといった軽快な挨拶をしてくるはずなのに。一体何かあったのだろうか。

疑問に思いながらもなんとなく聞けない空気のまま、目的の店に辿り着く。上着を脱ぎ、店員に注文を終えたところで、椿は少し俯きながら、遠慮がちに口を開いた。

「実はさ

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