サヨ

脚本業界からのはぐれ野良作家。 漫画原作がやりたくて初めてnoteに参加しました。 2…

サヨ

脚本業界からのはぐれ野良作家。 漫画原作がやりたくて初めてnoteに参加しました。 2023年創作大賞中間選考通過、ありがとうございました。 一年ぶりの2024年創作大賞はオーソドックスなファンタジー小説で狙います。

最近の記事

創作大賞「ドラゴン・シード」#23

終章  一年後───  セントラルから珍しく電導トラックを何台か引っ張り出して、ジンは今、亜種の討伐チームを率いて第一セクターの砂漠地帯に来ている。久しぶりにゴッシュのチームと一緒だ。ケイトも喜ぶと思ったが、彼女は後から合流することになっている。  砂漠とは言ってもこの辺りはオアシスが近く、乾いた大地には硬くて大きな岩がゴロゴロ転がり、まばらに潅木も茂っている。砂漠というより、荒地と言った方がいいかも知れない。  ターゲットは鋼鉄蛇。  ニシキヘビに似ているが、胴体の直径

    • 創作大賞「ドラゴン・シード」#22

      22話  「ジン……ジン、そろそろ起きて。そして、お姉ちゃんに伝えて……」    懐かしいあのリビングで、サシャに揺り起こされてハッと目を覚ますと、そこはなぜか深海の底で、ジンは遥か遠くの海面からしんしんと降り注ぐ白骨の雪に殆ど埋もれていた。起き上がろうとするが、身体がピクリとも動かない。仕方なしに、かなたの海面から降り注ぐ柔らかい光を見上げるしかない。しかし──  ここは案外心地いい……。  静謐で穏やかで永遠が約束された安寧の地。  もう間もなく全身が雪に覆いつくされ

      • 創作大賞「ドラゴン・シード」#21

        #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 21話  ふと目を醒ましたジンの目の前に広がるのは、広大な瓦礫の山だった。  ビルが倒壊し、高速道路が支柱ごと折れてぐにゃりと倒れ、まるでおもちゃのように折り重なって潰れた自動車があちこちに転がっている。  街の至る所で黒い煙が立ち登り、火の手が上がり、電線の垂れ下がった電柱は、バチバチと放電しながらうねっている。どこかで何かが爆発したような音が響き、何か大きなものが今もまだガラガラと崩れていく音がする。何もかもめちゃくちゃに倒

        • 創作大賞「ドラゴン・シード」#20

          20話  ケイトは娼館の中庭に飛び出し、庭の隅にある古井戸にまっすぐ走っていった。そして、井戸を塞いでいる板切れを次々に剥がし始めた。古ぼけているように見えて、その板は案外しっかりしていた。腐ってもいない。やがて真っ暗な穴が、まっすぐ地下に向かって開いている井戸口が露わになった。「何も見えないな。なんで井戸なんだ?」  ジンがモバイルの灯りを穴に向けるが、底の水が反射で光ることもない。  ケイトが足元に落ちていた小石を投げ込みながら言った。 「前にフレーネが、嫌なことがあ

        創作大賞「ドラゴン・シード」#23

          創作大賞「ドラゴン・シード」#19

          19話  母のソフィに関するフレーネの最後の記憶は、まるで奇妙な果実みたいだというものだった。七歳の時のことだ。  小さな鉱山街の場末の娼婦だった母は、粗悪なドラッグと酒でラリったよそ者の客に、めちゃくちゃに殴り殺された。棺の中で白い包帯からわずかにのぞいた頬や目元は、元がわからなくなるほど赤黒く腫れ上がっていた。  そして、娼館で女房に客を取らせていたフレーネの父親は、飲んだくれのろくでなしで、フレーネはこの男がいやでいやで仕方なかった。何かというと、おまえなんか俺の子

          創作大賞「ドラゴン・シード」#19

          創作大賞「ドラゴン・シード」#18

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 18話  それからケイトとジンは、カーラから預かった鍵で老魔術師の家の中の様子を見て回った。古びた家具はどれも埃除けの布が掛けられていたが、殆ど人が住んでいた時のままになっている。老魔術師が死んだのは一年ほど前だということだったので、空き家になってからまだそれほど経っていないはずだが、人が住まなくなると、家は途端に荒んでゆく。カーラがマメに空気を入れ替えているにもかかわらず、荒廃の気配はすでに濃厚に漂っていた。  古い農家は陰鬱

          創作大賞「ドラゴン・シード」#18

          創作大賞「ドラゴン・シード」#17

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 17話  それから、二人はフレーネの手掛かりを探して、まずは魔石協会の裏にあるフレーネの魔法道具屋を確認した。思った通り、ドアにはクローズの札がかかり、鍵がかかっていて人の気配がない。ウィンドウから見える店内の様子は、古ぼけた魔法道具や魔法薬の瓶が並んでいる、田舎によくあるごく平凡な魔法道具屋だった。カウンターに年寄りが座っていそうなくすんだ色合いだったので、先代の名残がまだ色濃く残っているのだろう。ここにはなにもなさそうだ。

          創作大賞「ドラゴン・シード」#17

          創作大賞「ドラゴン・シード」二章 #16

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 二章 16話  早朝、海のど真ん中にぽっかりと開いた巨大なチューブから、ぬっと滑り出したフェリーに乗って、ケイトとジンはフレーネの故郷である十二セクターにやってきた。  ここはもともと、薄い表土と砂ばかりが広がる痩せた土地で、耕作にも牧畜にも適さず長年放置されてきた土地だった。ところが、ビッグクラッシュによって魔石鉱山とつながるチューブが開き、大勢の人々が流れ込んだ。チューブが炭酸ガスの多い山中に繋がっていたのも幸いし、オゾン

          創作大賞「ドラゴン・シード」二章 #16

          創作大賞「ドラゴン・シード」#15

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 15話  ケイトとジンはセントラルの中央区医療研究施設に場所を移した。 「説明してくれ」  ケイトの言葉に、ショーン博士とジンが順番にミミックワーム改めドラゴンワームのことを説明した。  新種の寄生虫型の亜種であること、宿主の臓器に擬態しながら血管から養分を吸収し、最終的には宿主を死に至らしめること。 「イヴの小鳥たちが元になって、女たちが中間宿主になってるんだ」 「いや、ジン、それがちょっと風向きが変わってきたんだ」

          創作大賞「ドラゴン・シード」#15

          創作大賞「ドラゴン・シード」#14

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 14話  亜種絡みの死人騒ぎで一時期客足が減ったものの、ナイチンゲールではまだそこここで、密やかで隠微な男と女の気配がある。客や女たちの要望に沿って複雑な館内を行き来する従業員たちは、気配を殺しながら行儀よく控えめにあちこちを巡る。  政府からの娼館通り閉鎖の緊急事態宣言は、この時点でまだ発令されていない。 「こっちだ、こっち……さ、おいで……」  ケイトが鳥籠を持って、白い小鳥に手を差し出している。  建物の奥、目立たない二

          創作大賞「ドラゴン・シード」#14

          創作大賞「ドラゴン・シード」#13

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 13話  ジンはフレーネと別れると中央区へと向かった。すぐに取り掛かっているなら、そろそろモリソンの検死解剖が終わっているはずだ。詳しい検査結果はまだとしても、死因のおおよその特定はできているだろう。  高層ビルの庁舎を中心に様々な複合施設や高級居住区が周囲を囲み、そこは雑多なバザールとは全く違う世界が広がっている。  どこもかも整然と整い、無駄がなく生活感がない。花壇に植えられた草花さえ、それが規則なのでそこに植わっていますと

          創作大賞「ドラゴン・シード」#13

          創作大賞「ドラゴン・シード」#12

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 12話  ジンは、バザール近くのビルの廃墟にあるいつものチューブを飛び出すと、一旦大きく息を吐き出し、両手でバシバシと顔を叩いた。頭を切り替えるためだ。  それからモバイルのGPSを開き、ストーカー被害にあっているマリーの居場所がマークされている場所を確認した。バザールの真ん中あたりだ。彼女の住むアパートとも近い。  買い物にでも出たタイミングでストーカーのモリソンに遭遇したのだろう。一度は説得に応じ、異常な付きまとい行為がやめ

          創作大賞「ドラゴン・シード」#12

          創作大賞「ドラゴン・シード」#11

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 11話 「お姉ちゃんを助けて‼」  今にして思えば、あの距離で、あの状況で、サシャの声がなぜ聞こえたのかわからない。  しかしとにかく、雑居ビルの前にいたジンは、ふいに聞こえたサシャの声で、公園の地面に這いつくばって奈落に落ちかけているケイトの身体に間一髪で飛びついた。その瞬間、穴の向こう側にグイと強く引っ張られる感覚がして、ケイトが死に物狂いで何を掴んでいたのかを知った。 「サシャ‼」  気づいた時には遅かった。  血だら

          創作大賞「ドラゴン・シード」#11

          創作大賞「ドラゴン・シード」#10

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 十話  ──デカい……。  ケイトは目の前にヌッと現れた巨大な蟻の化け物を見上げながら思った。  ゴッシュとともに、作戦本部がある雑居ビル前の公園で、列を離れて紛れ込んできたバケモノ蟻三匹と対峙していた。  蟻の体長は約三メートル。頭部の半分ほどもある頑丈そうな牙をガチガチと打ち鳴らしながら、感情のない昆虫の顔がこちらに迫ってくる。  巨大軍隊蟻。  軍隊アリに極めて近い性質を持つその亜種は、半月前、第八セクターの辺縁部に突然開

          創作大賞「ドラゴン・シード」#10

          創作大賞「ドラゴン・シード」#9

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 九話  ジンがケイトに初めて出会って間もなく、バザールの裏通りで営業している小さな魔法道具屋で、半年待たされた挙句やっと万能薬を手に入れた。この魔法薬はジンの五回分のギャラが軽く飛ぶ。しかし、これにはそれだけの価値があった。  エメラルドグリーンのその薬を見ながら、出会ったばかりのあの赤毛の瞳の色みたいだと思った。  ジンはそれを懐に、ほくほくの気分でバザールの外れに建つアパートに向かった。次の幽霊猫討伐で使う支給品を赤毛に届け

          創作大賞「ドラゴン・シード」#9

          創作大賞「ドラゴン・シード」#8

          #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 八話  ジンの目の前ではシュアンが、店じまいした屋台に背中をもたせかけたまま死んでいた。  まだ十八になったばかりだというのに、小柄で痩せこけた青白い顔には、目の下にくすんだ濃いクマが浮いている。細い顎と華奢な肩を見ながら、この子が少年だなんて嘘みたいだと思った。  人相の悪いケバブ屋のオヤジが、顔に似合わない小さな白い野花を摘んで、シュアンの荒れた手にそっと握らせてやっていた。割れた爪が痛々しい。 「今日は珍しく、夜半過ぎに

          創作大賞「ドラゴン・シード」#8