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今を生きる私マガジン

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大人になってからの思い出を書いています
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記事一覧

キンタマを舐める猫

キンタマを舐める猫

照りつける日差しが肌を刺す8月。
パンパンに詰まった買い物袋を両肩にかけヒィヒィと帰路に着く。こんな荷物じゃ日傘もさせやしない。日焼けする前に家に帰ろうと足を早めた私は、駐車場の前で見慣れぬ柄の猫を見かけた。

白地にオレンジがかった茶色の毛。しっかりした体つき。ここら辺の野良猫では無さそうだ。
「新顔か?」と私が挨拶するために歩み寄ると、猫は途端に足をガバッと左右に広げて、キンタマを舐め始めた。

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ハト戦記

ハト戦記

ハトがいる。私の隣に1羽。

長い長い、直線の歩道橋。商業施設へつながるその道で、私の隣を1羽のハトが伴走している。

私はハトが嫌いだ。
単純そうな顔をしているのに、何を考えているか分からないところが特に不気味で感じが悪い。
ただでさえ暑くて気が滅入る夏日。こんな日はハトも飛ぶより歩く方が楽なのかもしれないが、わざわざ私の隣で歩かないでほしい。側から見れば、なんだか私とお前が種族を超えた特別な関

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妹になんか生まれなければよかった

妹になんか生まれなければよかった

私は我が家の第2子としてこの世に生を受けた。

先に姉が生まれていたから、後に生まれた私は妹ということになる。
そして、たまたま私たちが生まれた家は『そこそこちゃんとした人間にならなければいけない』家だった。ゆるふわにしか言えないので後はご想像にお任せするが、この世にはそういうしょうもない家があるのだ。

物心つくかつかないかの頃に『女の子はお姉ちゃんが居るんだから、次の子は男の子だったら良かった

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井上雄彦のバスケ愛は全ての人間を明るく照らす

井上雄彦のバスケ愛は全ての人間を明るく照らす

THE FIRST SLAM DUNKを10回観た。

何回観ても飽きない。もっともっと、ずっとずっと観ていたい。そういう気持ちにさせてくれるのは、観るたびに得る感想が変化するからなのかもしれない。10回目を鑑賞し、劇場を出た瞬間にこれまで私の心の中に蓄積された想いがパッと弾けた。

「これは光だ」

そう思った。

スラムダンクは大人になってから読んだ。確か25歳くらいだったはずだ。スポーツにも

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切ってつながる

切ってつながる

4月1日に30回目の誕生日を迎えた。

子どもの頃思い描いていた「大人になった自分」のイメージは何故か20代までで、子どもの頃の私は自分が30歳を迎える日が来るなんて想像さえできなかった。一桁数字が階段を登るだけというささやかな変化なのに、どうしようもない焦燥感に駆られてしまうのは不思議である。「大人」というステージに無理やり立たされて「もう大人なんだから言い訳はするなよ」と後ろから銃口を突きつけ

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Storyを味わう食べ物

Storyを味わう食べ物

「好きな食べ物は?」と聞かれた時に即答できる人がうらやましい。

この世に好きな食べ物がありすぎて、咄嗟に1つに絞って名を挙げるなど、とてもじゃないが私にはできない。即答できる人は幾多の修行を乗り越えて悟りにたどり着いた仏様か何かだと思っている。

しかし「背の高いグラスの中にアイスやフルーツ、クリームといった甘い具を組み合わせて創造したスイーツの中で好きなものは?」と聞かれたら、間違いなくパフェ

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全てが最高の店に2度と行けなくなった話

全てが最高の店に2度と行けなくなった話

結婚してから初めて迎えた私の誕生日。

お祝いに晩御飯をご馳走してくれるというオットからリクエストを聞かれた私は、前々から行きたかったイタリアンの名を挙げた。上品だがカジュアルな佇まいのその店は、私が大好きなチーズをメインとした料理が評判だった。
専用の機械でトロトロに溶かされた4次元ポケットみたいな形のでっかいチーズが、温野菜の上にデローンとかけられている様をテレビで見て以来「これを食うまで死

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走れ!たとえ痴女と思われようとも

走れ!たとえ痴女と思われようとも

『風呂はデカければデカいほど気持ちがいい』、が私の持論である。

以前住んでいた所から徒歩5分程度の場所にスーパー銭湯があったので、月に1度の贅沢としてオットと一緒に通っていた。岩盤浴で老廃物をブリブリに炙り出した後、大浴場の露天風呂に浸かりながら夜空を眺める。そして風呂から上がった後は食事処でキンキンに冷えたドリンクで喉を潤し、お金のことは一切考えず好きな食べ物を頼みまくりささやかな宴をするのだ

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これってさぁ!誕生日のお祝い…ってコト?!

これってさぁ!誕生日のお祝い…ってコト?!

先日我が家に1つの段ボール箱が届いた。

送り主は既に分かっている。友人のマミとミクだ。彼女たちは高校の同級生で、かれこれ15年近い付き合いになる私の心の友だ。転職したり結婚したり、各々が新たな人生を歩む中でもこうして変わらず縁が続いているのはありがたい。

この小包の中にはどうやら彼女たちから私への誕生日プレゼントが入っているらしい。私の性分に従うのであれば、届いてすぐクリスマスツリーの下でプレ

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この思いは決して剥がれない

この思いは決して剥がれない

慣れほど恐ろしいものはない。

数年前、過去に例を見ないほどの巨大な台風が上陸するとのニュースでメディアもSNSも大騒ぎになった。我が家の地域にも直撃の予報が出ていたが、私は大した危機感も感じず、家でボリボリ尻を掻きながら慌ただしいニュースを他人事のように眺めていた。私の住んでいる地域は何故か毎度のごとく台風の直撃を免れていたので、アナウンサーの切迫した注意喚起も、私にとってはオオカミ少年のそれに

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31日間毎日サーティワンアイスクリームを食べてみた

31日間毎日サーティワンアイスクリームを食べてみた

バート・バスキン、アーヴァン・ロビンス。
アイスクリームを愛する2人の男が出会い、生まれた世界最大のアイスクリームチェーンとは?

そう、バスキンロビンスですね。
日本ではサーティワンアイスクリームの名称で親しまれています。1ヶ月(31日)間、毎日違ったフレーバーのアイスクリームをお客様に楽しんでいただきたいとの願いから、サーティワンアイスクリームと名付けられたそうです。

いや、31日間もアイス

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動物園でないた日

動物園でないた日

このご時世になってからというもの、人の密集する場所への出入りはすっかりご無沙汰になってしまった。ようやくワクチンの接種が進んで感染者数の増加が抑えられてきた頃、万全の対策を整えながら我が家のレジャーも徐々に解禁することにした。

オットも私も動物がだいすきなので、いちばんに動物園に行こうという話になった。屋外なので感染のリスクも少ないし、時間帯によって混雑を避けることもできる。私たちはマスクを装着

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10年ぶりに息子に会った話

10年ぶりに息子に会った話

女子高生の私が学生結婚した話。

こちらで私を知ってくださった方も多いのではないだろうか。私の人生のターニングポイントのようなこのエッセイは大変多くの方にご覧いただき、未だにうれしいご感想が届く幸せものな作品である。おい大介、見てるか?

それは昨年のこと。上記のnoteにコメントをいただいたことから始まった。

「私は中高一貫校で教師をしています。演劇部の顧問をしているのですが、こちらのエッセイ

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無印良品の品質を疑った話

無印良品の品質を疑った話

「乳液が欲しいんよね」

無印良品に来るなり、棚に並んだ白いボトルたちをしげしげと眺めながら友達が言った。

「もうすぐ夏だからさっぱりがいいな」

無印良品のスキンケアは使い心地によって名称が違う。さっぱり、しっとり、高保湿。自分の好みの質感によって選べるようになっている。
真剣に悩む彼女の姿に飽きてきた私はふと思った。もしかしたらこのさっぱりも「(商品開発部のスタッフ的には)さっぱり」なだけで

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