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詩集 ことばすくい

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私家版第二詩集『ことばすくい』を編みました|詩集とは、「詩の座」という星座のようなもの、と思います。詩という星々を結んでできる一つの物語|また、第一詩集『こころね』と双子の星のよ…
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記事一覧

伏す者 祈る者
睡る者 黙す者
何者でもなく
かけがえのない者へ

つつしみつつむ
ささやかなささやき
このはことのは
こはくのこくはく
あまたのあまおと
みちみちて
きせききらめき

(詩集『ことばすくい』小見出し)

百合

一生をかけ
一篇の詩を書きおくる

いまわにもあたいする詩であるように
百年ののちにも生ける詩であるように

舟

葉舟にも
花筏にも 託されて
魂は おくられる
うなぞこの妣へ還るまで
はるか沖までゆくように

妣へ

妣へ

あのひとの魂が
あなたへ還りますように
わたしに帰りますように

ボトルメール

ボトルメール

遠く遠く旅してきました
記憶がなくて戸惑いますが
このなりを見ればすぐ
それだけはわかります
しおあじがしますから 涙に
溺れていたのかもしれません
けれども浮かばされました
おもいを心にあずかって
毀れずにいて良かったです
こうしてあなたに会えたから
読まれたときには 形なく
あなたへ消えてゆけるから

含気骨

含気骨

冥いうなぞこ
何者かに
握らされるように拾ったのは
ひとひとり浮かばせるに足る
含気骨だった
深く生き
深く死んだ者の骨だった

舎利

舎利

骨を拾うように 一つずつ
砕けたかけらを拾い集めて
金継ぎの如 繕えば

知るよりも
はるかに無二の たからだった
牟尼のあなたの こころだった

飛べない鳥
しかし いつかは翔けたのだ
鳴かない鳥
とはいえ ときに哭いているのだ

光十字

光十字

ひとり涙をながす夜には
ろうそくの火を見つめるといい
涙でうるむ眼に 光は
十字に映る

なにを見ても
青めき遠のいて見えるとき
眼がつねに
涙でおおわれていることに気づく

さいごまであずけられた
ひとしずくのために ひとは
いまわにも
十字の光芒をみるだろう

不死鳥

不死鳥

炎をなくし
くすぶっている魂の
かすかな吐息と拍動を
じっと見つめる

そっと息を吹きかければ
じわりと赫くこたえる火種に
いつか 自ら息を吹きこむ
いまは燃え尽き 伏したおまえも

天籟の響もせ 灯れ
夜な夜なに
祈り果てては
睡るあなたに

風コトバ

風コトバ

風は
未来から吹いてきます

風が吹き抜け
言の葉もそよぎます

過去は
風のなかに吹いています

こもれびに 風紋に
言の葉はひそみます