みずのほ

物語や詩を書いています|なべてすべてよ、うつくしくあれ

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足跡

(好きな詩を自分なりに訳してみました。誤訳や掲載に問題等があれば教えてください。) ∞ 足跡 マーガレット・フィッシュバック・パワーズ ある夜、わたしは夢をみました。 わたしは神さまと共に渚を歩いていました。 暗い空に、わたしの人生の場面場面が、映し出されていました。 どの場面でも、砂の上に、二人分の足跡があることに、わたしは気づきました。 一つはわたしの足跡であり、もう一つは神さまの足跡でした。 わたしの人生の最後の場面に差しかかったとき、わたしは砂の上の足跡を振り

    • 狼煙

      深く生きることを志した者たちは 引き合い 結びつけられても 馴れ合うことはない 心を貫け 沈黙と孤独のうちの友愛を見くびるな 熾火を絶やすな 荒野にあってめいめい己の狼煙を上げよ

      • なないろの日

        帰ってきていたご先祖さまたち帰っていく 帰るところたくさんあって うらやましい 死んでも一緒に生きるのに わざわざ帰ってきていたの より深く死んでこい より深く生き抜けよ 無言のうちにかわしたコトバ 忘れられても消えないコトバ

        • 時々

          ときどきに 落ちぶれて生きてきた ときどきに 落っこちてみなければ 生きることにはならなかった ときどきに 懸命に生きてきた ときどきに 命を懸けなければ 生きることはできなかった

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        マガジン

        • 詩集 ことばすくい
          35本
        • 詩集 こころね
          32本

        記事

          届く言葉

          とがる言葉は届かない ひとの生身はやわらかいから 冷えた言葉は届かない ひとの深部はあたたかいから あらい言葉は届かない こころの肌理はこまやかだから かたい言葉は届かない こころの襞はさざなみだから 届く言葉は沁みとおる 息吹のように賦活する 届く言葉は響き合い だれの言葉かわからない

          明滅する星たち

          信じるということは 静かに 確かに 強いのに 危うく揺らぐ 星影の如 見失い また探し 届かない 掴めないのに 泣きながら握りしめ 明滅する星たちは 小さく祈る 離ればなれに呼応する 一人佇み 透明な手をつなごう 弱いまま生き延びよう

          明滅する星たち

          トキオ

          意識を取り戻して目を開けたとき、瞬時に、「隣を見るな」と覆いかぶさられた。先輩の服のにおいがした。煙草と泥と血のにおいだ。良い気分とは言えない。 「見るな」とは言われたが、見えていた。 隣と、先輩と、ぼんやりとした薄暗さのみならず、頭に包帯を巻かれ、首を固定されている我が身も、重苦しい空気も、異様なにおいも、ただならぬ痛みも、感じ分けていた。 隣には、同僚の遺体がある。しかも、遺体の状態は良くない。「一名死亡、一名重体」の私たちは、異例だが、並んで措かれ、搬送されている

          アンデルセンの娘

          一篇の詩があらわれると 安堵して眠れる 最後のマッチを擦るように 身を焚いても 円やかに ともしたい いまわにもあたいする 夢の続きを

          アンデルセンの娘

          メメント・モリ

          メメント・モリとは、ラテン語で、「死を想え」という意味なのだという。 藤原新也著『メメント・モリ』は、大学の詩学の先生(授業は、ほとんどタルコフスキーの映画を流すだけだった)から勧められた本、と記憶している。 紹介されたとき、「これは、借りるより、買う本だ」と直観し、大学の売店には置かれていなかったので、大学の向かいの、青山ブックセンターで手にしたのだった。 写真集コーナーで見つけた、その本は、思いの外、ツルツル、テカテカの、ゴールドの表紙だった。 (ゴールド、黄金は、

          メメント・モリ

          なぜ書くのか

          記 なぜ書くのか 何度でも新しく 幾重にも懐かしく あなたを識るためである 大切なものを大切にするためである 大切なものを大切にするのは自由である 大切なものを大切にするのは愛である 誰もが 一人ひとり 大切なものをもっている 一人の大切なものは その一人にしか書けない だから書く 書かねばならない 手紙か 手記か あるいは詩か 手ずから書いていくよりない あなたを大切におもうのは わたしだから どこまでも深く おもいたいから 【手紙】 なぜ書くのか  こうして、あな

          なぜ書くのか

          土竜

          言葉の礫が飛んでくる 言葉は一つの暴力なのだ 何を話しても 何も話さなくても 袋叩きだ かそけき声は 潰される 小さな 小さくされたあなたの声は どうか超えてきてほしい 土竜は聴くのだ 拾うのだ 享けるのだ あなたのなべてすべても

          だれかくんとあなたさん

          だれかくんには、〈だれか〉という名がありました。 けれども、だれかは、だれかです。 ここにいても、だれでもないようでした。 あなたさんにも、〈あなた〉という名がありました。 けれども、あなたは、あなたです。 ここにいても、ここにはいないようでした。 ですから、だれかくんも、あなたさんも、一人さびしく生きていました。 だれかくんと、あなたさんが、出逢ったとき、出逢うなり、互いに静かに驚き、互いにそっと歩み寄り、抱擁し合い、長いこと、そうしていました。 だれかくんと、あな

          だれかくんとあなたさん

          降りた星

          星は墜ち こころに降りた 無二なる星は いまなお 瞬きを続ける いつでも 道しるべの極星であり 道を照らす月だった 遠くとうとい光だった いまや 不二の光 心の臓に 青く震える 焔

          羽ばたきは歌

          歌えぬ鳥は 羽ばたきつづけ 飛べない鳥は 歌いつづける あなたへと かなたへと 見えない羽根が 散り落ちて 聞こえぬ歌が ながれゆく あまつちへ かたわらへ 羽ばたきは 歌 歌は 羽ばたく

          羽ばたきは歌

          手が憶えている

          手が憶えている きみに そっと ふれたことを 心が憶えている 熱と熱とが 通い合ったことを 繰り返され 積み重ねられた日々は 心を貫いている 忘れたくなくても 忘れてゆくばかり でも 忘れたくないものは もう からだじゅうが 憶えている

          手が憶えている

          喪失は邂逅だった

          花の頃、最愛の、敬愛する先生を亡くした。まだ、ふとした瞬間に涙が出る。 訃報を聞いてから十日余りは、文字通り、泣き暮らした。 けれども、そのさなか、先生から学んだことや、先生の思い出を書き始め、毎日数千字、書き続けた。それが、慰めになった。 先生の言葉は、次々と思い起こされた。尽きることはなかった。 また、本を開けば、先生の朗読の声が聞こえてくるようだった。そうして、また泣いて泣いて泣いた。 これまで、わたしにとって、過去とは、忌まわしいものでしかなかった。思い出したくない

          喪失は邂逅だった