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【読書】モチベーション3.0

こんにちは、みずのです。
ダニエル・ピンク著の「モチベーション3.0」を読んだのでまとめておきます。

この本ではデシとライアンによる自己決定理論を中心にその他いくつかの有名な心理学の研究を踏まえながら過去から現代にいたるまでの人間のモチベーションの在り方を整理し、学問の世界で立証されている内容とビジネスの現場で採用されている考え方のギャップについて明らかにしています。

私は学生の時にモチベーションの研究を行っていたので自己決定理論は原著を読んだことがあるのですが、この「モチベーション3.0」の考え方は自己決定理論をベースとしつつもより現代(特にビジネス環境)に当てはめてわかりやすくアレンジ、アップデートされたものだなと感じました。私なりの理解も含めて整理していきたいと思います。

1.3種類のモチベーション

人間を行動に駆り立てるモチベーションは大きく分けて以下の3つがあります。

モチベーション1.0:空腹を満たすなど生存本能に基づくもの
モチベーション2.0:アメとムチのような成果主義
モチベーション3.0:学びたい、創造したいといった「内発的動機付け」

学問の世界では広範な実験でこのモチベーション3.0の有効性が繰り返し証明されているのですが、ビジネスの現場ではいまだにモチベーション2.0の考え方が主流となっています。
以下で、モチベーション3.0が発見された経緯、現代のビジネス環境においてモチベーション2.0が上手く行かない理由、モチベーション3.0を活かすために必要な3つの要素についてまとめていきます。

2.モチベーション3.0(内発的動機付け)の発見

ハーロウの実験

心理学者のハーロウは猿の問題解決能力についてのテストをする中で外的なインセンティブがなくても熱心に学習し、実験に使った仕掛けの仕組みを理解するようになったことから
「課題に取り組むこと自体が内発的報酬にあたる」という内発的動機付けに思い至りました。
さらに、この実験でエサを与えた場合はそうでない場合と比べて結果は芳しくないことが分かり、活動に対する外的な報酬を用いる場合その活動自体への本心からの興味が失われるということが示唆されたのです。
しかし、当時の科学の世界では生理的欲求(モチベーション1.0)やアメとムチ(モチベーション2.0)が主流でハーロウの考えは認められませんでした。

デシとライアンによる「自己決定理論(SDT)」

ハーロウの研究から20年後にデシとライアンが再びこの「内発的動機付け」に着目して、「自己決定理論」をまとめました。

自己決定理論は普遍的な人間の願望を起点としており、人には生来以下の3つの心理的欲求が備わっていると考えます。

1.(能力を発揮したいという)有能感
2.(自分でやりたいという)自律性
3.(ほかの人と関連を持ちたいという)関係性

これらの欲求が満たされているとき、人は動機付けられて生産的になり幸福を感じるが、これらが満たされないとモチベーションや生産性、幸福感は急落すると提唱しました。

3.モチベーション2.0の盛衰

モチベーション2.0の成功

人間には報酬を求める一方、罰を避けたいという動機づけ(モチベーション2.0)があります。過去200年の間、この動機づけを利用することが世界経済の発展にとって必要不可欠でした。テイラーが「科学的管理法」という方法を編み出し、作業の標準化やアメとムチを用いた管理体制の構築を通して労働者の生産性を向上させることに成功しました。この方法は幅広く採用され、現代にいたるまで非常に長期にわたって稼働してきました。

実際、この考え方は今や私たちの生活にしっかりと組み込まれており、ほとんどの人が当たり前に思っているでしょう。生産性を上げて優れた点を伸ばすには、優秀な者に見返りを与えて成績の良くない者には罰を与えればよいとされてきました。

モチベーション2.0の現代における問題点

しかしながら現代社会においては経済が著しく複雑化し、新しい高度な能力が必要になっており、モチベーション2.0のアプローチでは上手く行かなくなってきました。問題点は主に以下の3つです。

①行動目的の変化
報酬を必要としない非従業員によって開発を行うオープンソースというビジネスモデルが台頭しており(例えばLinuxやWikipedia)、これは利益の最大化だけでなく内発的に動機づけられた目的も重視しているので、外発的な動機付けのみを扱うモチベーション2.0とは一致しない。

人間の「不合理な行動」
モチベーション2.0では、「人は外的なインセンティブに対して必ず合理的に反応する」という前提に基づいているが、21世紀の経済学においては、すでに人間は不合理な行動をすることも多々あることが認められている。
『予想通りに不合理』参照

行動の質の変化
かつては仕事の大半は面白くない単純作業から成り立っており、従業員に仕事をさせるには適切なインセンティブや監視が必要とされていたが、現代においては仕事は複雑化し、クリエイティブで主体性を発揮できるものとなってきた。

アメとムチがもたらす副作用

アメとムチを使って人を動機づけようとした際には、いくつかの大きな副作用を伴います。そのうちの主要なものを以下にまとめます。

①内発的動機付けを失わせる
ある行動やふるまいに対して報酬を与えることで、「やらなくてはいけないこと」になってしまう。

②思考の幅が狭まる
報酬など条件付きの動機づけに意識が向くことで、発想や創造性が求められる作業は功を焦って成績が下がってしまうことが知られている。
※単純な作業であれば成績は上がる

③ごまかしや倫理に反する行為を助長する
外的な数値だけを目標として報酬とリンクさせると、たとえ倫理にもとる道であってもそこに至る最短ルートを選ぶものが現れる。

④依存性がある
金銭的な報酬やトロフィーは最初は満足感をもたらす快い刺激を与えるが、その感覚はすぐに消えてしまい、快い感覚を保ち続けるためにもっと大量に頻繁に報酬を求めるようになる。

4.モチベーション3.0を活性化させるために必要な要素

モチベーション3.0に基づく人(内発的に動機づけられた人)は、モチベーション2.0に基づく人(報酬などの外発的な動機で行動している人)よりもより大きな成果を出し、目的を達する可能性が高く、総じて大きな幸福感を抱いていることが多いとされています。
このモチベーション3.0を活かすためにはふさわしい環境が必要となります。
そのカギとなるのが「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」です。

自律性

「自分で選択して行動すること」を意味します。自己決定理論でも最も重要とされてきた要素です。
本書では課題(何をするか)、時間(いつするか)、手法(どのようにするか)、チーム(誰とするか)という4つの観点に関して自分で選択できることがポイントとされています。
ただし、何をコントロールしたいと感じるかは人によって異なるため、組織運営の際には一人ひとりにとって何が大事なのか理解することが大切です。

マスタリー(熟達)

「何か価値あることを上達させたい」という欲求です。
組織運営においては個人のマスタリーの追及を妨げずに積極的に取り組めるよう環境を整えていくことが大切です。
モチベーション2.0を前提とする、「特定の事項を特定の方法で実行するよう促す」ようなやり方は、自律性を損なうだけでなくマスタリーの妨げにもなりかねない方法です。

目的

自律性とマスタリー(熟達)に背景を与え、それらの効果を最大限に発揮させるために必要なのが「目的」です。
何かを熟達させようと自律的に取り組むとき、その行動に高邁な目的や意味づけがあるのであればさらに強く動機づけられて高い成果を上げることができます。

5.まとめと感想

自分の専門領域ということもあってついついまとめが長くなってしまいました。本書ではモチベーション3.0(内発的動機付け)を活かすための要素として「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」の3つを挙げています。
それに対し、おそらくベースとしているだろう自己決定理論では、内発的動機付けを発現させるためには「自律性」「有能感」「関係性」が必要としています。
「マスタリー」は自己決定理論の「有能感」に近い要素だと思いますが、「有能感」は能力の発揮に主眼が置かれているのに対して、「マスタリー」は能力の習得の方に軸足があると理解しました。
また、「目的」に関しては自己決定理論ではあまり触れられていませんでしたが、現代のビジネス環境においてはとても重要な要素だと個人的にも考えていたので、この本を読んでその思いが強まりました。組織運営上では目的の共有によってメンバーの絆が深まることもあると思います。

臨床心理に携わると人の思考や行動の個人差がとても大きいことも改めて感じますが、一方で社会心理学などで明らかにされているように一定の傾向があることもまた事実です。
私はその両面が面白いと感じていて、一定の傾向がわかっていることは職場など生活の場にもどんどん生かしていけるといいなと思っています。
部下の評価をつける際のバイアスなんかは前職でも現職でも留意点に挙げられていて一般的な知識になりつつあるようです。
このモチベーションの話も含めて他にも組織運営に役立つtipsはいろいろあると思いますが、
どうもビジネス現場の多くのマネージャーにとっては、心理学の知見や学問的な話は実生活とは遠い話だと感じてしまいやすいようです。
心理専門職を経験した人事担当として、専門家の抽象的な話として終わってしまわないように、かみ砕いたりうまく現場になじむような形で心理学の知見を活用していけると良いなと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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