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助けたい気持ちと、出来ないジレンマ

数ヶ月前の仕事中、1本の相談電話。


声の調子から、相手は恐らく30代後半の女性。
開口一番「助けてください!!」と大号泣。


女性の気持ちを傾聴し、一度気持ちが落ちついたところで・・こんなにも余裕がなくなった経緯を聞いてみた。


「中学生の娘が友人トラブルで1年前から不登校。両親は仕事をしているため、日中は祖父母が様子を見ているが、数ヶ月前からリストカット、市販薬をオーバードーズするようになった。祖父母の言う事は聞いてくれない。学校へ相談しても『精神科へ行け』と言われるだけ。私はどうしたらいいんでしょう・・」



やばい。親として、電話の向こうに居る母親の気持ちが・・痛いほど分かる。苦しい気持ち、どうしていいか分からず、こんなに勇気を出して・・精神科という高いハードルの壁を乗り越えて電話して来てくれた。
本当に、よく電話してきてくれたと・・感謝の気持ちでいっぱいだった。

でも、私の勤務する病院では思春期外来は行ってなく、思春期向けのプログラムも充実していない。


思春期外来をやっている他の病院を勧めてみるも、予約は1年待ちだといわれたらしい・・
田舎だからな・・そもそも精神科病院が少ない。思春期外来や福祉サービスなども充実していない。


「なんとかしてあげたいんです!!祖父母の目を盗んで『死にたい』と薬を過剰に飲んだり腕を切ったりするんです。受診できませんか?お願いします!」


・・私はとても悩んだ。でも、当院には思春期外来はない。薬管理が出来ない状態で処方のリスクが大きい。本人に合ったプログラムがない・・いま辛さの渦中にいるその中学生をどうしても助けてあげたいけれど、今の私には出来る事が思いつかなかった。


「お母さんの心配なお気持ち、本当にわかります。そして本人が今一番つらいでいすよね。
でも、私たちに出来る事は症状に対して薬で改善させていくことなんです。そして薬の管理が出来ていない今の状態では処方も出せません。それよりも本人が日中誰かと会話したりする活動の場を設けたり、思春期外来をどこか探す等、もっともっと先生や福祉機関に協力してもらって、みんなで本人を支えていくことが大切な気がします」


お母さんは「そうですね、そうですね・・」と言いながら泣いていた。私も気付かれないように泣いていた。


何も役に立てなくてごめんなさいという気持ちでいっぱいだった。
だからせめて・・自分の知っている色んな機関の情報をおしえてあげた。それしか出来ない自分が何だか情けなかった。


最後に
「ご本人とお母さんに、少しでも早く過ごしやすい時間が訪れる事を願っています。何かあったらいつでもご連絡下さい」
と言うのが精いっぱいだった。


私の対応が合っていたのか、今でも良くわからない。もっともっと違った対応が出来たのではないかと、後悔すらしている。その中学生は、その後無事に支援に繋がれたのだろうか・・

でも、最後に「本当に本当に、ありがとうございました!」と言ってくれたお母さんの言葉に嘘が無かったことがせめてもの救いである。

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