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面白い本・好きな本|魅惑のカフェインとアルコール[至高の嗜好と人類史]

暇と退屈は同じ?

哲学者 國分さんの著書にあった言葉。このふたつはしばしば混同して使われる。暇だなぁと言っても、退屈だなぁと言っても、なんとなく意味は伝わってしまう。でも、よくよく考えると同じではない。

は何もすることのない、何もする必要のない時間を指す。その時なにを思っているかは関係ない。客観的なこと。対して、退屈は何かしたいのにできない状態を指す。感情や気分の問題。主観的なこと。

暇 = 退屈 ではない

暇で退屈することもあれば、暇じゃないけど退屈することもある。暇なんだけど退屈と感じないこともあれば、暇じゃないので退屈と感じないこともある。

ということで、暇と退屈を考えるにはもってこいのカフェインアルコール。人類が農耕をはじめて獲得した暇と退屈を、至高の嗜好で思考する。

魅惑のカフェインとアルコール
至高の嗜好と人類史

余暇に桜

先史|ビール

農耕の歴史がビールの歴史

ビールは人類が初めて口にしたアルコールではない。ワインも当時からあったが、果物は腐りやすく,ワインも長期保存できなかった。一方、ビールの原料の穀物は豊富で保存も簡単、欲しい時にほしい量を確実につくることができた。

農耕の開始と深く結びつくビール

ビールは労働の対価として分配され、エジプト人とメソポタミア人の生活の隅々にまでビールが浸透していった。

古代|ワイン

野蛮なビールから洗練されたワインへ

古代ギリシアは、政治、哲学、科学、法律の基盤を築いた時代。文明の競争が、西洋と東洋という概念を生み出し、ギリシアのワインとペルシアのビールの区別へ繋がる。

フォーマルで知的な西洋ワイン
洗練されていない野蛮なビール

ワインが普及して一般化すると、ビールとの比較からワイン同士の比較に移行する。原産地、生産年、葡萄の種類。古代ローマでは、社会階層に応じてワインの種類が明確にわけられ、富、権力、地位と密接に結びつく。

中世|茶

ワインの洗練から茶の湯の総合芸術へ

臨済宗の開祖 栄西が中国から伝え、茶栽培と抹茶の製法が日本に広まる。ストレスの抑制や抗菌作用、リラックス効果がある万能薬なお茶。

千利休が侘茶を大成させる

陶芸、工芸、建築、造園、文学、花、思想。無駄な装飾を削ぎ落とした美の境地。野蛮なビール、洗練されたワインを経て、茶の湯は総合芸術へ。

近世|蒸留酒

小さくて腐らない蒸留酒は大航海時代の貨幣へ

蒸留酒はアルコール度数が高いので、少しの量で酔えてしまう。コンパクトで長持ち。その上、度数が高いほど腐らない。長距離、長時間の移動に蒸留酒はとっても都合かいい。

大航海時代に発展を遂げる蒸留酒

同時代に発明された印刷技術で、蒸留のノウハウも書き残すことが可能となる。蒸留酒と蒸留技術が船に乗って世界中へ広がる。さらに、奴隷貿易と結びつき、貨幣がわりにも活用される。

限られた地域で交易されるビールとワイン
世界中の物資と交換される蒸留酒

近代|コーヒー

酩酊のアルコールから、覚醒のカフェインへ

不衛生な水の代わりにビールとワインが飲まれていた時代。コーヒーの登場で状況が一変する。感覚を鈍らせるアルコールから知覚を鋭敏にするコーヒーへ、近代合理主義の思想とともにヨーロッパを席巻する。

コーヒーハウスは現代のインターネット

イギリスで発展を遂げたコーヒーハウスは、知識人に愛用される。社交的、知的、商業的、政治的会話のための、新しい場になった。現代のインターネット。

現代|コーラ

大人のカフェインから、みんなのカフェインへ

コーラの登場により、コーヒーやお茶ではアプローチできなかった子供にも広がる。いつでも、どこでも、だれとでも。世界中で飲まれる最強の嗜好品が登場する。

アメリカの台頭と結びつくコーラ

グローバル資本主義、消費主義、ブランド支配の始まり。サンタクロースの赤と白のイメージはコカコーラがつくりだしたもの。アメリカのエッセンスの極み。

参考文献

歴史を変えた6つの飲物

エジプトのピラミッド、ギリシャ哲学、ローマ帝国、アメリカ独立、フランス革命……。歴史に残る文化・大事件の影には、つねに“飲物"の存在があった!6つの飲料を主人公として描かれる、人と飲物の1万年史。

世界史を大きく動かした植物

一粒の小麦から文明が生まれ、茶の魔力がアヘン戦争を起こした――。
歴史は、人々の営みによって紡がれてきた。しかし、その営みには植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ。さあ、人類と植物が紡いだ壮大なドラマの始まりである

大地の5億年

河合隼雄賞受賞・異色の土研究者が語る土と人類の驚異の歴史。
土に残された多くの謎を掘り起こし、土と生き物の歩みを追った5億年のドキュメンタリー。

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