マガジンのカバー画像

文庫本頭陀袋

18
運営しているクリエイター

#読書

巨悪は眠らせない 検事総長の回想 伊藤栄樹 朝日文庫



今年の春から初夏にかけて、新型コロナウィルスの感染拡大以外で一番世間を騒がせたのが、「黒川問題」だろう。

日本という国は三権分立のはずなのに、政治家が検察人事に、あからさまに首を突っ込み、自分たちの都合のいい人物をそのトップに据えようとする? そんなのアリなの? しかも、国家公務員法、さらに検察庁法を改正して? と、びっくりした。

「黒川問題」は、当の黒川拡氏が、緊急事態宣言下であるにも関

もっとみる

古都再見 葉室麟 新潮文庫



葉室麟という作家の名前は折に触れて目にしていた。
直木賞を『蜩ノ記』で受賞した頃、あまり時代小説、というよりエンタテインメントを読まなくなっていたので、書店で見かけても手に取ることはなかった。
小説には手が伸びなかったけれど、「幕が降りるその前に見るべきものは、やはりみておきたい」と京都に居を移した歴史作家が、古都を歩き綴った随筆という『古都再見』の紹介を目にして、読んでみたくなった。

京都

もっとみる

大江戸商売ばなし 興津要 中公文庫



時代小説を読んだり、歌舞伎を見たり、落語を聞いたりしていると、見慣れない、耳慣れない商売がしばしば登場する。
そういう商売について、当時の書物や川柳を引きながら解説してくれるのが、興津要『大江戸商売ばなし』だ。

もちろん、この本のネタ本である『守貞漫稿』や『絵本風俗案内』『東都歳時記』『武江年表』『明治商売往来』といった本に当たるに越したことはないだろう。
しかし、素人にとってはこれを調べる

もっとみる

文房具を買いに 片岡義男 角川文庫



若い頃、書店の角川文庫の棚には、ズラッと片岡義男が並んでいた。壮観だった。ただし、その棚のから本を抜き出して手にとってみたことはなかった、と思う。
アメリカのポップな音楽、映画、小説、そういうものに興味が向いていなかったから、それと同じような匂いがする片岡義男の作品にも興味を惹かれなかったのだろう。読みたい本はたくさんあって、でも、限られたお小遣いの中からそれらを手に入れるためには、寄り道をし

もっとみる

夏彦の影法師 手帳50冊の置土産 山本伊吾 新潮文庫



新刊文庫ではない、というか新刊書店では入手できないであろう一冊なのだけれど、最近読んだ文庫から、ジャンルや版元が被らない文庫本と考えていたら、この一冊が残ったので、今週はこちらを。

活字化された誰かの日記を読むのは、昔から、好きな方だったと思う。坪内さんと出会ってから、さらに日記読みの面白さを教えてもらった。そこから派生して、手帳本やWebで公開されている他人様の手帳をみるのも好きになった。

もっとみる

焼き鳥の丸かじり 東海林さだお 文春文庫



東海林さだおの「丸かじりシリーズ」第40弾!?(単行本はすでに第42弾まで刊行されている、と荻原浩の解説)
しかも、この巻(『焼き鳥の丸かじり』)の連載中に肝細胞癌の手術を受けるため、入院したことを、客観的にサラッと報告。そしてその入院中の病院食を見事にネタにしてしまう。
病院食に足りない塩気を、ある日出たパック納豆のタレで、久しぶりのたっぷり塩気に狂喜乱舞する。その描写は漫画と文章で微に入り

もっとみる

京都深掘りさんぽ グレゴリ青山 小学館文庫



著者の「グレゴリ青山」という名前と絵柄は、うっすら覚えていた。「ブンブン堂のグレちゃん」という古本屋を舞台にした漫画。「本の雑誌」だと思っていたら、「彷書月刊」の連載だったのか! 笑に「グレゴリ」というペンネームから、男性だと思い込んでいたが、女性だった。

先月、丸善日本橋本店で、文庫新刊チェックをしていた時に出会ったのが、グレゴリ青山『京都深掘りさんぽ』(小学館文庫)。普段、コミックコーナ

もっとみる

装丁物語 和田誠 中公文庫



振り返ってみると、本については文字通りの「ジャケ買い」というのはほぼしたことがない。好きな著者の本の装丁が素敵だった、ということはあるし、本屋さんでパッと見て「あ、この本は面白そう」「気になる」と思うことも、よくある。
だが、全く見ず知らずの著者の本を、装丁だけで買った、という記憶はない。

和田誠『装丁物語』(中公文庫)を書店で手にとって、パラパラとページをめくっていると、見覚えのある書影が

もっとみる

すき焼きを浅草で 平松洋子 画・下田昌克  文春文庫



ある一時期、平松洋子のエッセイを熱心に読んでいた。
いわば「趣味の自炊」にはまっていた頃、レシピ本を探していた本屋さんの料理書の棚で出会ったのが、平松洋子だった。

『忙しい日でもおなかは空く』、『世の中で一番おいしいのはつまみ食いである』『おいしい日常』『夜中にジャムを煮る』『おとなの味』『平松洋子の台所』『買い物71番勝負』『買えない味』『おんなのひとりごはん』『おもたせ暦』など。結構読ん

もっとみる

上方落語ノート 第三集 桂米朝 岩波現代文庫



昨年、青蛙房から出ていた元本の第一集と第三集をゾッキで入手した。
例によって積ん読しているうちに、岩波現代文庫化が決定してしまった(汗)。
元本と比べてみたが、巻頭グラビアも、本文中の資料写真なども全て文庫版にも入っている。
文庫版にはカバーに米朝さんの写真が使われていて、解説(第三集は廓正子氏)がついている、というのが違いだ。とはいえ、文庫本好きなので、結局ダブりを承知で、全巻購入(第四集は

もっとみる

喫茶店の時代 林哲夫 ちくま文庫



喫茶店という言葉からまず思い出すお店は、表参道にあった大坊珈琲店だ。記憶をさかのぼっていくと、建て替え前の東銀座の文明堂、アリス、移転する前のYOU。学生時代に入り浸っていた名前が思い出せないけれど店の内装やオーナーの顔は思い出せる2軒の店。
これらの店には、そこへよく一緒に行った人との思い出の場所という面、店のマスターやママさん、常連さんと行った人との思い出の2種類がある。いずれにしても、人

もっとみる

つげ義春日記 つげ義春 講談社文芸文庫



3月31日、紀伊國屋ホールで開催された紀伊國屋寄席を聞きに行った。
会場がある4階に上がる前に、2階の文庫と新書の売り場の棚をぐるぐるとみて回った。
その時に買ったのは、ちくま学芸文庫の『東京の昔』、『表徴の帝国』と岩波新書の『老人読書録』。講談社文芸文庫の棚も、新刊コーナーもチェックしたはずなのだけれど、講談社文芸文庫の表紙カバー、タイトル部分が銀の箔押しになっているのには気づかなかった。

もっとみる

シェイクスピア&カンパニー書店のやさしき日々 ジェレミー・マーサー 河出文庫

Twitterで河出書房さんの新刊案内を見て「あ!」と思った。
『シェイクスピア&カンパニー書店』というのは、雑誌「鳩よ!」2001年12月号「僕の滋養となった100冊の本」坪内祐三に確かあったぞ!と。

で、自分でScrapboxに作った、その100冊のリストを確認したら、やっぱりあった!!ということで、ネットでポチした。

届いたところで、Scrapboxに書誌データを登録したが、著者名も署名

もっとみる

文庫本頭陀袋

坪内祐三さんが「週刊文春」で連載していた「文庫本を狙え!」。
毎週1冊、直近で刊行された文庫本を選んで紹介する書評コラムだ。
取次から出る1ヶ月分の刊行予定をチェックしつつ、出版社・著者の絶妙なバランスで組まれたラインナップは、誰にも真似できないものだった。

毎週、熱心にこの連載を読んでいた頃は、書店の新刊文庫コーナーに行って、来週のお題本はどれだろう?と予想するのが楽しかった。
毎週、この連載

もっとみる