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記事一覧

巨悪は眠らせない 検事総長の回想 伊藤栄樹 朝日文庫



今年の春から初夏にかけて、新型コロナウィルスの感染拡大以外で一番世間を騒がせたのが、「黒川問題」だろう。

日本という国は三権分立のはずなのに、政治家が検察人事に、あからさまに首を突っ込み、自分たちの都合のいい人物をそのトップに据えようとする? そんなのアリなの? しかも、国家公務員法、さらに検察庁法を改正して? と、びっくりした。

「黒川問題」は、当の黒川拡氏が、緊急事態宣言下であるにも関

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古都再見 葉室麟 新潮文庫



葉室麟という作家の名前は折に触れて目にしていた。
直木賞を『蜩ノ記』で受賞した頃、あまり時代小説、というよりエンタテインメントを読まなくなっていたので、書店で見かけても手に取ることはなかった。
小説には手が伸びなかったけれど、「幕が降りるその前に見るべきものは、やはりみておきたい」と京都に居を移した歴史作家が、古都を歩き綴った随筆という『古都再見』の紹介を目にして、読んでみたくなった。

京都

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大江戸商売ばなし 興津要 中公文庫



時代小説を読んだり、歌舞伎を見たり、落語を聞いたりしていると、見慣れない、耳慣れない商売がしばしば登場する。
そういう商売について、当時の書物や川柳を引きながら解説してくれるのが、興津要『大江戸商売ばなし』だ。

もちろん、この本のネタ本である『守貞漫稿』や『絵本風俗案内』『東都歳時記』『武江年表』『明治商売往来』といった本に当たるに越したことはないだろう。
しかし、素人にとってはこれを調べる

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文房具を買いに 片岡義男 角川文庫



若い頃、書店の角川文庫の棚には、ズラッと片岡義男が並んでいた。壮観だった。ただし、その棚のから本を抜き出して手にとってみたことはなかった、と思う。
アメリカのポップな音楽、映画、小説、そういうものに興味が向いていなかったから、それと同じような匂いがする片岡義男の作品にも興味を惹かれなかったのだろう。読みたい本はたくさんあって、でも、限られたお小遣いの中からそれらを手に入れるためには、寄り道をし

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町子かぶき迷作集 長谷川町子 朝日文庫



Twitterに100日サザエさんというアカウントが登場、という記事を見かけて、「へぇ〜」と思った。なんで「100日サザエさん」?と思ったら、今年が長谷川町子生誕100周年にあたるからだそうだ。

「100日サザエさん」のツイートは、今年1月に復刊した幻のオリジナル漫画『サザエさん』全68巻の中から、アップする日と同じ月日を選んで毎日公開します。100日目は11月14日。その日に特別プレゼント

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夏彦の影法師 手帳50冊の置土産 山本伊吾 新潮文庫



新刊文庫ではない、というか新刊書店では入手できないであろう一冊なのだけれど、最近読んだ文庫から、ジャンルや版元が被らない文庫本と考えていたら、この一冊が残ったので、今週はこちらを。

活字化された誰かの日記を読むのは、昔から、好きな方だったと思う。坪内さんと出会ってから、さらに日記読みの面白さを教えてもらった。そこから派生して、手帳本やWebで公開されている他人様の手帳をみるのも好きになった。

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焼き鳥の丸かじり 東海林さだお 文春文庫



東海林さだおの「丸かじりシリーズ」第40弾!?(単行本はすでに第42弾まで刊行されている、と荻原浩の解説)
しかも、この巻(『焼き鳥の丸かじり』)の連載中に肝細胞癌の手術を受けるため、入院したことを、客観的にサラッと報告。そしてその入院中の病院食を見事にネタにしてしまう。
病院食に足りない塩気を、ある日出たパック納豆のタレで、久しぶりのたっぷり塩気に狂喜乱舞する。その描写は漫画と文章で微に入り

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京都深掘りさんぽ グレゴリ青山 小学館文庫



著者の「グレゴリ青山」という名前と絵柄は、うっすら覚えていた。「ブンブン堂のグレちゃん」という古本屋を舞台にした漫画。「本の雑誌」だと思っていたら、「彷書月刊」の連載だったのか! 笑に「グレゴリ」というペンネームから、男性だと思い込んでいたが、女性だった。

先月、丸善日本橋本店で、文庫新刊チェックをしていた時に出会ったのが、グレゴリ青山『京都深掘りさんぽ』(小学館文庫)。普段、コミックコーナ

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装丁物語 和田誠 中公文庫



振り返ってみると、本については文字通りの「ジャケ買い」というのはほぼしたことがない。好きな著者の本の装丁が素敵だった、ということはあるし、本屋さんでパッと見て「あ、この本は面白そう」「気になる」と思うことも、よくある。
だが、全く見ず知らずの著者の本を、装丁だけで買った、という記憶はない。

和田誠『装丁物語』(中公文庫)を書店で手にとって、パラパラとページをめくっていると、見覚えのある書影が

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すき焼きを浅草で 平松洋子 画・下田昌克  文春文庫



ある一時期、平松洋子のエッセイを熱心に読んでいた。
いわば「趣味の自炊」にはまっていた頃、レシピ本を探していた本屋さんの料理書の棚で出会ったのが、平松洋子だった。

『忙しい日でもおなかは空く』、『世の中で一番おいしいのはつまみ食いである』『おいしい日常』『夜中にジャムを煮る』『おとなの味』『平松洋子の台所』『買い物71番勝負』『買えない味』『おんなのひとりごはん』『おもたせ暦』など。結構読ん

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「文庫本を狙え!」星取表〜『文庫本宝船』以後の



『文庫本宝船』を読み終えたのが4月30日。この後の分の「文庫本を狙え!」は、緊急事態宣言が解除されたら、図書館で「週刊文春」のバックナンバーに当たろう、と思った。

それまでに、せめて、お題本をチェックする方法はないだろうか?と考える。
週刊文春のWebサイトで目次だけでも読めるのでは? と見てみたが、目次にお題までは記載されていなかった。
次に、Dマガジンで「週刊文春」のバックナンバーを調べ

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上方落語ノート 第三集 桂米朝 岩波現代文庫



昨年、青蛙房から出ていた元本の第一集と第三集をゾッキで入手した。
例によって積ん読しているうちに、岩波現代文庫化が決定してしまった(汗)。
元本と比べてみたが、巻頭グラビアも、本文中の資料写真なども全て文庫版にも入っている。
文庫版にはカバーに米朝さんの写真が使われていて、解説(第三集は廓正子氏)がついている、というのが違いだ。とはいえ、文庫本好きなので、結局ダブりを承知で、全巻購入(第四集は

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あのころ、早稲田で 中野翠 文春文庫



仕事の師匠から、昭和史をテーマにした仕事をすることになって、打ち合わせをしていると、学生運動や安保闘争について、よく「そんなことも知らないのか?」と言われた。

私はちょっと特殊な単科大学で学生時代を送った。だからか、大学の教職員も含めた周囲に、学生運動や安保闘争に携わったことのある人(少なくとも、そう公言する人)はいなかった。

あさま山荘事件は、テレビ中継の映像を覚えている。叔父が警察官で

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喫茶店の時代 林哲夫 ちくま文庫



喫茶店という言葉からまず思い出すお店は、表参道にあった大坊珈琲店だ。記憶をさかのぼっていくと、建て替え前の東銀座の文明堂、アリス、移転する前のYOU。学生時代に入り浸っていた名前が思い出せないけれど店の内装やオーナーの顔は思い出せる2軒の店。
これらの店には、そこへよく一緒に行った人との思い出の場所という面、店のマスターやママさん、常連さんと行った人との思い出の2種類がある。いずれにしても、人

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