町子かぶき迷作集 長谷川町子 朝日文庫

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Twitterに100日サザエさんというアカウントが登場、という記事を見かけて、「へぇ〜」と思った。なんで「100日サザエさん」?と思ったら、今年が長谷川町子生誕100周年にあたるからだそうだ。

「100日サザエさん」のツイートは、今年1月に復刊した幻のオリジナル漫画『サザエさん』全68巻の中から、アップする日と同じ月日を選んで毎日公開します。100日目は11月14日。その日に特別プレゼントの発表も予定しています。楽しみにお待ちください!

とプロフィール欄に書かれていた。

そんなことが、記憶の片隅に残っていたのだろう。銀座にある教文館の2Fをうろうろしていて、歌舞伎のコーナーの棚でふと目についたのが、『町子かぶき迷作集』(朝日文庫)だ。
カバーの見返し部分を読むと、姉妹社版『町子かぶき迷作集』の配列内容はそのままで、文庫化したとある。
収録されているのは、「切られ与三郎」「身替座禅」「三人吉三巴白浪」「怪談 劇作餘話」「文七元結」「忠臣蔵」「藤十郎の恋」「銭形平次捕物帖」の8本。

昭和27年9月5日号から昭和31年8月10日号まで、「週刊朝日」に連載されたものです。

とあった。

読んでみて、最初に思ったのは、週刊誌に掲載された頃は、歌舞伎のストーリーは広く知られていたのだろう、ということだ。そうでなければ、こんな芝居のパロディーは一般週刊誌の題材として成立しないからだ。
長谷川町子は、元の芝居を知っていれば誰でも楽しめるように、当時の世相や風俗もうまく取り入れつつ、洒落のめしている。まさに「町子かぶき」だ。うまいポイントをついてるなぁ、と感心する。
と同時に、こういうパロディーはいつ頃まで通じたのだろう?と気になってくる。

たとえば「切られ与三郎」。春日八郎の「お富さん」が昭和29(1954)年8月に発売されて、その年に大ヒットしたという。懐メロ番組などで時折、耳にすることがあったが、「粋な黒塀」「見越しの松」なんていう言葉の意味がわかったのは、歌舞伎を見るようになってからだ。逆に「お富さん」を知っていたから「与話情浮名横櫛」の源氏店の場を初めてみたときに「あー、これか!」と思ったぐらいだ。

「劇作餘話」では鶴屋南北が主人公になっている。「東海道四谷怪談」を書くのに苦心する南北を、長谷川町子は洒落のめして面白がっている。

「銭形平次」では、平次が探偵小説マニアという設定で、子分のがらっ八が親分の思いつきをなんとか形にしようと、苦心する。なんともバカバカしいオチに気持ちよく脱力できる。
ちなみに、銭形平次は戦前に嵐寛寿郎で、戦後は長谷川一夫などで映画化され、その後テレビドラマ化もされている。テレビ版の初代銭形平次が若山富三郎、二代目が安井昌二、というのは驚いた。平次といえば大川橋蔵。こちらは、通算18年888本制作されたのか! 若山富三郎版は見てみたかった。
そういえば、ドリフターズのコントの元ネタに歌舞伎が使われていた、というのを4年前の納涼歌舞伎を見て、思い出した。

シネマ歌舞伎になり、今年、ブルーレイボックスも発売された「東海道中膝栗毛」の弥次郎兵衛・喜多八を演じた松本幸四郎(掃除は市川染五郎)・市川猿之助が志村けんのコントが好きで、演出も担当した猿之助が、逆輸入したのだ。茶とけんの「吉野山」を発端のエピソードに取り入れ、伊勢参りの道中にもドリフのコントが散りばめられていた。ということは80年代後半ぐらいまでは、ある程度、歌舞伎の演目や演出が視聴者に認知されていた、ということなのかもしれない。

我が家は朝日新聞をとっていなかったので、リアルタイムで「サザエさん」を読んだことはなかった。
ただ、『町子のかぶき迷作集』を読んでいて、単行本の「サザエさん」や「いじわるばあさん」を、小学生の頃、母の実家のずいぶん年上の従姉妹の部屋で読んだことを思い出した。
白黒の四コマ漫画がたくさん載っていたその本は、小学生にとってとても面白い、というものではなかったけれど、退屈しのぎにはなった。
そして、『町子のかぶき迷作集」で初めてアニメ以外のカラーで描かれた長谷川町子の漫画に触れて新鮮に感じた。

7月に『サザエさん』や『いじわるばあさん』をはじめとした長谷川町子の作品展示を中心とした、長谷川町子記念館も開館したという。
もう少し気候が穏やかになったら、行ってみようかな?


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