大江戸商売ばなし 興津要 中公文庫

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時代小説を読んだり、歌舞伎を見たり、落語を聞いたりしていると、見慣れない、耳慣れない商売がしばしば登場する。
そういう商売について、当時の書物や川柳を引きながら解説してくれるのが、興津要『大江戸商売ばなし』だ。

もちろん、この本のネタ本である『守貞漫稿』や『絵本風俗案内』『東都歳時記』『武江年表』『明治商売往来』といった本に当たるに越したことはないだろう。
しかし、素人にとってはこれを調べるには、どの資料に当たればいいのか、なんてすぐにはわからない。さらに資料を手にしても、旧仮名づかいだったり、文語文だったりという別のハードルが待っていたりする。
そんな時に、様々な資料を引用し、現代の言葉で解説を加え、図版を示してくれる、こういう本を一冊持っていたら、心強い。

例えば、落語「浮世床」や「無精床」の舞台となる髪結床。噺家さんが高座でいろいろな説明をしてくれるけれど、全体像はイマイチよくわからないな…と思っていたが、式亭三馬『浮世床』の図版を見れば「あー、こうなってるのか!」というのが一目でわかる。
銭湯の項目には、湯屋の二階の絵が載っている。

三遊亭圓朝の怪談噺、それを元に歌舞伎にもなっている「怪談乳房榎」に登場する、地紙売りという商売について、堅気の職人や商人とは違う、特殊な商売なんだろう、というのは雰囲気で感じていた。この本の目次を眺めていたら「日々の物売り」の章に「地紙売り」という項目があったので、読んでみた。山東京伝の黄表紙や、曲亭馬琴『燕石雑志』の引用を交えた説明のあと、結びの「道楽の果てに勘当された若旦那の職業になるケースも多かったらしい」という一文を読んで、なるほどね、と思った。

落語のマクラでは、川柳が引用されることも多いが、これまた慣れないとその場ではよくわからないこともある。著者の興津要は、『古典落語』シリーズ(講談社学術文庫)も手がけているから、要所要所で落語のマクラで引用される川柳についても、解説してくれる。

勉強する、というよりは、自分のアンテナに引っかかった言葉について、ちょっと知りたいな、と思った時に手元にあると便利だ。
ここからさらに興味を持ったことを探求していく、とっかかりを作ってくれる一冊でもある。


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