マガジンのカバー画像

読書感想

13
これまで投稿した読書感想をまとめています。
運営しているクリエイター

#読書感想

読書感想「やさしいため息」

読書感想「やさしいため息」

「ノートを閉じている今、不思議と目に浮かぶのは、見知らぬ人々の生活を記した筆圧の弱い字より、その字を次の字へとつなぎあわせている余白の部分だった。」(本文114頁)

久しぶりに青山七恵さんの作品を読みました。

読んでみて思ったのは、やっぱり僕はこの人の小説が好きなんだなぁということでした。

独立した風景が淡々と連続するだけではあるものの、読み取るべきは登場人物の心情だけでなく、その風景と風景

もっとみる
読書感想「昨日星を探した言い訳」

読書感想「昨日星を探した言い訳」

いつのまにか今年もあと2ヶ月を切ってしまいました。

世間はコロナによって新しい社会の形を見直されつつも、なんとか一年間に幕を下ろそうとしています。

今年はいろいろあって、個人的に一番大きな出来事だったのは、仕事を辞めたことでした。

今もまだふらついた感じに生活していますが、その中でも本を読んだり小説を書いたりと、気長に生きながらえている次第です。

今日は久々に本の感想を書いていこうと思いま

もっとみる
読書感想「きみの世界に、青が鳴る」

読書感想「きみの世界に、青が鳴る」

私の物語はどうしようもなく、彼に出会ったときから始まった。私が大切なひとつを、捨てないまま階段を上る物語は。彼と出会ったときから始まり、今もまだ続いている。(本文257頁より)

 ついに完結してしまいました。

 2014年発売の「いなくなれ、群青」から始まった階段島シリーズの最新作であり完結巻、河野裕さんの「きみの世界に、青が鳴る」です。

 昨日の記事を読んだ人なら知っているかと思いますが、

もっとみる

読書感想「星に願いを、そして手を。」

夢というのは、ふわふわした、素敵なものなんかじゃない。(中略)大変なことばかりで、それが報われる保証なんてどこにもない。それでいて、いつまでも付きまとう。忘れられるのなら、それはきっと夢じゃない。(本文209頁より)

第二十九回小説すばる新人賞を受賞した、青羽悠さんの今作。

十六歳の若さで受賞した文章を読むのは、正直、抵抗がありました。

単純に言えば、嫉妬ですね。その気持ちは読み進めても変わ

もっとみる

読書感想「ニムロッド」

僕が言葉を紡いでいくことで、人々の精神に何かを書き込む。遺伝子に誰かが書いたコードみたいに、ビットコインのソースコードみたいに、僕が誰かの心に文字を通じて何かを記載することで、それが世界を支える力になる。そう思っていた。(本文131頁より)

 先日読み終わりました、上田岳弘さんの「ニムロッド」です。

 物語を支えるキーパーツとして「ビットコイン」という仮想通貨が頻繁に登場しました。時事問題とし

もっとみる
読書感想「アフターダーク」

読書感想「アフターダーク」



 椅子に深く身を沈め、目を閉じる。そしてそのまま眠りの中に入っていく。短いけれど深い眠り。それは彼女が長いあいだ求めていたものだ。(本文252頁より)

 年が明けてから最初の投稿です。

 正月ボケで色々と身の回りについておろそかになっていましたが、今後の創作のヒントを掴むため、今回は村上春樹さんの「アフターダーク」を読みました。

 村上春樹さんの小説はほとんど通らなかった自分でしたが

もっとみる
読書感想「犬も食わない」

読書感想「犬も食わない」

みんなさ、いろいろなものを愛とか好きとか口当たりのいい言葉でおおって、見ないふりしてるだけじゃないかな?(本文230頁より)

男女の恋愛をキャラクターそれぞれの視点で描くというのは、割とありがちな書き方かもしれません。

それでも、それぞれのキャラクターを別々の男女の作家が書くのは珍しいと思いました。

一方は直木賞候補作家、一方はミュージシャン。

ありえそうでありえない。この組み合わせが描く

もっとみる

読書感想「アオハル・ポイント」

「俺、ポイントにならない何かを信じてる」(本文292頁より)

まずは本編について。

あることをきっかけに、その人の価値を示す点数=ポイントが見えるようになった主人公・青木直人は、クラスメイトのポイントを細かくノートにまとめることを密かな日課にしていた。

青木は、ポイントの高いクラスの女子・成瀬に恋心を抱いていた。それを、クラスの中では低いポイントを持つ冴えない女子・春日にノートを見られたこと

もっとみる

読書感想「君の話」



読書感想です。今回は三秋縋さんの「君の話」です。

発売したのはおよそ二か月前ですが、その前に一冊読み途中だったものがあったので、今回ようやく読めました。その一冊の感想も、もしかしたらTwitterなどで上げるかもしれません。

三秋縋さんについては、今作以外ではデビュー作の「スターティング・オーヴァー」しか読んでいませんが、設定に拘る作風に強く惹かれました。

今回を含めて二作品しか読んだこ

もっとみる