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#小説
終わり、あるいは始まり
目が醒めて雨の音が聞こえると、かえってわたしの心は晴れやかな気持ちになった。寿命が一年延びるような、感謝の思いでいっぱいになる。
ピアノを弾くのが許されたのは、雨が降った日か、親がいない日のどちらかだった。前者は親が決めたこと、後者はわたしが決めたことだ。
雨が降った日は気分がいい。親がいなければ尚良かった。わたしは今にも踊り出してしまいそうな気持ちを抑えつつ、ピアノカバーを払い退け、椅子の
掌編小説「シューゲイザー」
「じゃあ君はシューゲイザーが好きなんだね」
バイト先の飲み会でフリーター二年目の先輩はわたしにそう言った。居酒屋の喧騒と薄っすらと回り始めた酔いの中に取り残されないよう、わたしはテーブル一つ挟んだ彼にほんの少し身を乗り出して、声を張り上げた。
「なんですかそれ」
「シューゲイザー。ロックのひとつだよ」
手に持っていた煙草を灰皿に押し潰しながら、先輩もまた声を大にする。ちょうどわたしたちは音楽の
掌編小説「エンド・ロール」
最近、わたしはネットフリックスに加入した。定額で映画やドラマが見放題になったこのご時世、わざわざレンタルビデオ店に行って作品を借りることは少ない。昔は、テレビで放映されたドラマや映画をディスクに録画していた。新聞のテレビ欄を切り抜いてケースに入れるのが好きだった。音楽もそうで、ストリーミングで聴き放題の今と違い、レンタルしてウォークマンなどに落として聴いていた。
ツイッターやラインみたいに手軽
短編創作「いつも考えていること」
最寄り駅からわたしが通っている高校までの道のりには、マンションがいくつか建っていた。薄く切って平らに伸ばしたみたいに小綺麗な住宅街で、マンションはどれも似通った高さで待ち構えている。この辺りには割かし裕福な部類の人たちが暮らしているので、建ち並ぶ家々と同じくマンションも、配色の少ない整然としたフォルムでたたずんでいる。
ときおり、その白さを汚してやりたくなった。特に、駅を出て南に続く住宅街の道