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詩『アルコールランプ』

ねむるたびに、ちいさなわたし、のはかが、ふりつもってゆく、とけることのない、ふみしめられた、かたいこおりのように、はいいろのいしが、ひかっている、あさいちばんに、さゆをかけても、せんたんから、ふゆのひかげで、こおりついてゆく、つめたい、つめたい、つきのかげの、なごりがしみこんだ、いしだたみのみちで、まいごのなきごえが、とおくひびいている、はんぶんめをとじた、あおざめたさかなのこえで、まいごのたましいを、ゆうどうする、かえるばしょをうしなって、くちてゆくしかない、ていりゅうじょのとじょうにて、まっすぐに、はなびらがちりぢりになるひを、みつめて、みつめつづけている、よていびより、いっかげつはやくうまれてしまった、ふらいんぐのひびは、みえないじゅうせいに、おびえていた、こえをうつ、はっせいをうつ、のどぼとけにめいちゅうした、わたし、は、うまれるまえに、のどぼとけをわすれてきたから、つみとられることはない、かじつのつみぶかいきずあと、をたどって、のどにつかえたことばを、あなた、は、まるめたしょるいのなかに、はきだした、いいえ、わたし、は、あなた、ではありません、いっそあなた、のだいやくに、なれたらよかった、よかったのに、ふつかよいのボールペンに、くたびれてしまったふたをする、

なみだがあたたかい、あたたかいから、白髪をかくした帽子を脱いで、静粛に抱きしめてやりたい、胸の谷間に入りこんだ白ワインを煮沸して、アルコール分を飛ばす、きのうが羽ばたいてゆく、記憶にないきのうを弔ってやる、残留したきょうの芳しい香りに、ふやかしたゼラチンを投入して、冷蔵庫で透明なあしたがかたまる、きのうは同席したあなた、たちの、ポケットに染みこんでゆく、なにも知らないのは、酔った鳥だったわたし、だけだ、羽根が散って、ふるえるように散って、錆びた血液反応、私を殺すのは、いつだってわたし、だから、記憶は抜き取られて、心臓に刺さった針の痛みだけが、かすかな遺留品、しずかな墓が無彩色の列をつくる、連なって、列なって、さらさら、と砂のように、角と角がお互いにぶつかりあって、ほころびてゆく、

朽ちてゆくまでのかりそめの宿で
あさい眠りの端と端を繕ってゆく
年を重ねる度に川底から浮上する
まだ沈没してはならないと告げて
古びた船底の大きな穴に栓をする

安らかな深い眠りはもう望まない
血のにおいがする旗を振りながら
私はわたし、というあなたたちと
片方の目を瞑り片方の目を開けて
たたかいつづける、と決めたのだ

押し花の傘を開栓してゆく果てに
太陽は宿り雨は炙られるのだらう
つめたい指先に明かりをともして
濡れた足の裏は水を搔くのだらう
みずから水を回収してゆけばいい

流れつづけるみずの上澄みを吸う
みずたまりにささやかな口づけを
穢れて穢れながらもきよめられて
相反するものの狭間で揺れ動いて
一歩、一歩、雨の中を歩いてゆく


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、安永明日香さん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

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