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人生とは『好き』を探す旅 (木工・只木芳明編)

私の敬愛する木工作家…いや、木を彫るひとに
只木芳明さんという方がいる。


この方、あまり取材を受けないのにInstagramで取材されてこの本に掲載されていると発表したので
すぐ買って読む。
なんちゅうマニア心をくすぐる素晴らしい特集なんだよ…と思う。

只木さんをかいつまんで説明すると、
本当は美人漫画家なのに下ネタ全開のおもしろネタを書いて人前には決して出ず、世間にはゲス女と思われているような漫画家っていますよね。
たまに流出した写真で「思てたんと違う!」とア然となるやつ。


それに似てると私個人的には思ってるんです。
男前なのにこじらせていて、おもしろ太宰と私は呼んでいる。
とにかく文章が上手い。
作品のことは後ほど触れるが、本当なのか嘘なのか冗談なのかがわからない。近くに寄ったと思ったらするりと逃げる狡猾な文章力。


木を彫って生活が大変なら文筆家になれば良い…と思うほどに文章力がある。時々胸がぎゅっとして切なくなるのに、オイ!あたしの純情返してくれよ!…という日もある。


ブログとInstagramの文章から好きになって、本人に逢いたくなる…という不思議な出逢い方であったけど乳がんの手術後に来るクラフトフェアには絶対に実物を見てやりたい!…という鼻息の荒さで痛み止めを飲むことなく術後の痛みを全く感じることなく退院した。あれは脳から「只木氏に逢いたい」
一心で特別な物質が出ていたのだ。
そうなのだきっと。


退院直後のクラフトフェアには、夫が仕事だったので一人で行ったのだが夫に「絶対に無理しないこと」「重たい荷物を持たないこと」など「止めても行くやろ」の妻に厳重注意だけして送り出してもらった。妻を熟知した実によく出来た夫である。


退院して1週間後くらいだったかと思う。
11月のよく晴れた日だった。


その時は少しだけ買った。
膨大な作品数を携えてやってくる他作家の中で「初日に買っちゃっても大丈夫っすか?」の作品数で参戦している。要するに棚がスカスカ。
クラフトフェアの中ではそこそこ有名で厳選された作家集団が一堂に会する場所である。
私は心の中で「やるなぁ…」と思ってますます好きになってしまう。


何しろ只木さんを見てみたいが一番の目的だったし
只木さんの作品数の少なさは量産できない手彫りで木の中からカタチを彫り出す(うまく表現できないけど木、本来の姿からカタチを彫り出すことによって木材自身を救出しているようにも思える)手法でしか生まれない…ということも熟知していた。

それに、ライバルは多い方が燃えるやん。
数少なかったらなんとか入手するのに努力するやん。そんな私の変態性にも合致する作家である。

その時に私のものにしたのはこの作品。
この器がとんでもなく優秀でイマジネーションが湧き出る器。

なんでもないようなものを、たいそう美しく
引き立ててくれる。
只木さんの器に含まれる揺らぎは心を安らかにしてくれて旋盤で彫りだしたものとは一線を画している。病後、見て愛でて心静かにいかほど落ち着いたかは本人にしかわかるまい。

おもしろ太宰は、
Instagramでちゃんと予言してくれる。
「作品数、すごく少ないです」と。
それで良いのだ。
ジャニーズアイドルが「今回の新曲すごく短いです」って言って「ハア?」なりますか?
なりませんよね。
私たち只木芳明氏のファンは只木氏の作品の成り立ちを知っているのでそれで良いのである。
いや、それも含めて良いのである。

年が明けて天神橋筋六丁目で個展をするということを早々に知っていた自分は「がんでもらった保険金」を只木作品に替えよう…と考えた。
怪我の功名。転んだって禿げたジジイの毛髪をも鷲掴みにしてむしりとって立ち上がってやる。

お金を生きる力に替えるのだ。
昔からガッツだけはある女…気合い入れて個展初日オープンに参戦した。

この時は、この作品群を自分のものにする。

ああ、只木作品が並んでいる。
その時も只木さんご本人にもお逢いできた。
実際に会うと全方向好青年でしかないのに、
文章の中の只木氏は別モノ。これもマニア心をくすぐるではないか。
(なんでも簡単に手に入っちゃダメなんだよ!作家を追いかける者は多少の変態性は必要だと自負している)


やりたかったコラボ。
クラフトフェアで入手したものと個展で入手したもの…。おおう。興奮である。
良い器というのはイマジネーションとやる気を引き出してくれる。
あれに乗せたらどんなに素敵かしら…と考えるに背筋がぞわぞわっとして作らずにいられない。

個展に出てくるタダキブレンドというコーヒー。

これがまた美味しくて、
豆がなくなるときに「あああああ」という気分にさせられる。次、いつ会えるのかしら…という約束のない明日に希望を繋げて待ってしまう味。

私自身、若い時に料理の世界に身を置きながら
早々に結婚、出産してしまい自分で何かを興すことより安パイを取ってしまった人間だ。
夫もそうだ。2人でなんとか息子2人を教育していくことが人生の目標だった。


今だって遅くないじゃない…と言う人もいるが、
闘うこともできない…タイムカードをガチャンと押して時間給をもらって好きなことをして暮らす…というぬるさ1000%の人間からすると、「作家業を生業にして生きる」方々へのリスペクトは止まらない。

自分には絶対にできないからだ。


今、こうして作家さんの器や木工を買っているのも
好きなものに囲まれながら過ごす夫婦2人の時間を夢見ているからだ。
子どもが巣立って夫婦2人になりたくない…という人が多い中、私は「早く2人にしてくれよ」と思っている。この辺の変態性についてはまた今度、噛み砕いて文章にしたいと思います。


私などというものは、
ひとの魂のこもったものをお金で買うことで
しあわせを味わうだけである。
「好き」って人々は言うけど私にとって、

人生とは自分の「好き」を探す旅。
「好き」を見つけたら全力で追いかけろ!


そうして、私は今日も本を読み、文章を書き、映画を見、作家作品を愛で、靴下を編み、縫い物をして、お菓子を作り、花を乾かす。


自分自身で作家業を生業として闘えなかったけど、それなりに充実した日々である。


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