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本屋にくる人たち②

新刊の中身を想像しながらミホが品出しをしていると、店長がひたすら謝る声がする。
クレーム対応をしているようだ。

ミホが恐る恐るレジまで行ってみると、60代後半くらいのおばあさんがレジに立っていて、店長はそのおばあさんに謝っているようだった。

「こんな本、小さい子の母親に買わせちゃいけないでしょう。どうしてそのまま売っちゃうのよ。」
「申し訳ございません…」
「教育に悪いわよ、うちの孫はね、パパ

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本屋にくる人たち

朝7時50分。
街の本屋の前に、1人のおじいさんが立っていた。本屋が空くのを待っているのだ。

彼は今月で1歳になる初孫のために、プレゼントの本を選びに来た。孫娘は、彼の娘と一緒に隣町に住んでいる。遠く離れた自分の娘と、その娘の愛する子のために、彼はいつもより30分早く起きて本屋の開店を待っている。

朝7時55分。
本屋の中では朝礼が始まった。
「今日は新刊発売の日。いつもよりお客様が多くご来店

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想い出 episode.1

僕は大学生の時、工場の短期アルバイトでたまに働いていた。
一人暮らしだった僕は毎月両親が仕送りをしてくれていて、生きていくためのお金はそれで何とかなっていた。働かないといけない時は旅行に出かける資金を集める時だった。工場のアルバイトは僕にとって効率良く資金集めができるので、毎年長期休暇に入ると、数日工場で働いては1人でバイク旅に出かけるのが僕の楽しみだった。

それはある年の春先のことだった。
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招き猫体質の話

ある日の夜、仕事終わり。
夕飯を食べに、ずっと気になっていた洋食屋さんにふらりと立ち寄った。
時間はもうラストオーダー間際だったのだが、A氏が注文を終えるとすぐに2,3組ほどお客様が来た。それも大人数の。

「またか…」

苦笑いで急いで食事をかきこみ、店を出た。

たまにはゆっくり外食でも…と思う日に限って、必ずこうなる。招き猫体質のA氏にとってはいつものことだが、お店のスタッフからすれば、いつ

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