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介護施設が上場して業績アップを重視することで利用者が不利益を被る現実について。

パートで働いているデイサービスを運営する会社が最近、上場した。
それにともない、さまざまな「改革」が行われているらしく、
人事異動があり、これまでの管理者が降格となって飛ばされ、
その代わりにやり手の新しい若い管理者が着任した。
これからその「やり手」の管理者のもと、わがデイサービス内でも「業績アップ」のためにメスが入るらしい。

業績アップをカッコ書きにしたのには私なりの考えがある。
そもそも、介護施設で「業績アップ」ということをそこまであからさまにしてよいのか?という疑念がある。
業績アップというのは売り上げを伸ばすということであり、そのためには経費削減、人件費削減というところがすぐにやり玉にあげられる。
それが何を意味するのか?
今日は、その辺の事情について、レポートしてみる。

送迎車のスタッフをドライバーと介護スタッフ2名体制からドライバー1人体制へ変更

デイサービスでは朝のお迎えと夕方の送りの2回、ご自宅からデイサービスへの往復の送迎がある。
送迎の車種は8~9名乗りのハイエースか、軽自動車かどちらかが使われる。
ハイエースの方は本来、ドライバーさんと介護スタッフの2名体制で送迎が行われていたが、今後はハイエースの送迎をドライバーさん一人でやってもらうことにする、とのこと。
今までも管理者が一人でハイエースを運転して送迎することはたまにあった。
でも、それは管理者だからだし、自分で自分の責任を取る形なのだから仕方がない、気を付けてね、という感じだった。
でも、ドライバーさん一人というのは話が違う。
まず、ドライバーさんは介護の資格を何も持っていない。
いくら介護が慣れているとはいえ、無資格だ。
そして、管理者と違い、正社員ではない。
もし送迎中に転倒などしてケガをさせてしまった場合、誰がどういう責任を取るのだろうか?
ドライバーさんたちは、「会社は守ってくれず、自分たちが責任の矢面に立たされるのではないか?」と不安がっている。

デイサービス内での1日のスタッフの人数をもっと減らすという改革案

次の改革案としては、デイサービス内で働くスタッフの人数を減らす方向で検討中だということだ。すでに、今までいたスタッフの一人が別のデイサービスへと異動になり、一人少なくなっている。
おそらくもっとスタッフの人数を減らしていくことになるだろう。
それで何がどう変わるか?

利用者さんへのサービスの回数が減ることになるだろう。

私の看護師の仕事としては、たとえば爪切りなどのプラスアルファの仕事はまずできなくなる。
「今日は時間がないからこんどね」が、ずっと続く。
あとは、介助が必要な利用者さんをトイレに連れていく回数が減る、ということもあるだろう。
今まで1日4回行ってたのが、3回になる、とか。
帰り際は必ずトイレに行ってパンツが濡れていないかチェックしていたのが、濡れたまま帰すことになる、とか。そういうことが起こる。

1日の入浴人数を増やしていくという改革案

デイサービス内で行われていた入浴介助はこれまでスタッフ3人でやっていたことが多かったが、それを2名体制にして、さらに1日の入浴人数を増やすことになった。
それにともない、当然入浴介助にかかる時間が伸びることになる。
早めに入れる利用者さんはよいが、最後の方の人は、帰る時間の直前の入浴となる。
今後は、帰る間際に入浴する人を誰にするか?それを毎日議論することになりそうだ。

業績アップは誰のため?

勘のいい人なら気づいたかもしれないが、これらの「改革」は利用者さんには何の利益も生み出さない。
とくにこれまで継続して利用してきた利用者さんにはむしろ今までよりもサービスの質が低下するだけの話である。

◎送迎スタッフがドライバーさんだけになれば、送迎にかかる時間は増え、車と自宅の移動は危険が伴う。
◎デイサービス内のスタッフの人数が減れば、対応する回数が物理的に低下するわけなので、利用者さんの希望を聞く機会が減る。
◎トイレに連れて行ってほしいと思っても、今まで3回行っていたのが、そのうちの1回は我慢する、ということが起こる。
◎入浴サービスに関しても、スタッフの人数が減り、入浴する人数が増えれば、一人当たりの入浴にかける時間は減るか、希望した時間に入れないか、入浴で介助が必要な人は濡れたまま、裸のまま、待たされることが増えるか、そういう場面が増えることになる。

または、スタッフが足りない状態で複数の人数の入浴介助を行うことになるので、転倒などの危険が伴うことが増える。

介護施設が業績を重視するとどうなるか?

要するに、介護施設が上場したり、業績を上げようとすれば、それは利用者さんへはもはや還元されない方向へと向かうことになる。
業績アップとサービス向上はどうしても相容れないからだ。
商品を売って売り上げを上げている会社と違い、介護施設は利用者さん一人頭から得られる利益というのが一定であるため、あとは利用者の人数を増やすか、人件費などの経費を削減するかしか、売り上げを上げる方法はない。
そして、利用者を増やすことも人件費を削減することも、どちらも、すでに利用している人にとってはまったく得にならない。
「今までは〇〇だったのに、今は〇〇してもらえない」そんなことばかり起こるだろう。
すでに、送迎に時間がかかりすぎているというクレームはよく聞く。
でも、それもはっきり言って、クレームは本気では聞き入れられない。
なぜなら、利用したい人はいくらでもいるので、クレームを言ってくる人は基本的にやめてもらって結構、という姿勢だからだ。
むしろ、わがままな利用者はそうやって淘汰されていく方が好都合くらいに思っているところがある。

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このような会社の現状について記事にすると、どうしても書き手として批判めいた論調になってしまうが、個人的には中立な立場で俯瞰的に思考していきたいと考えている。
私自身、この会社を個人攻撃したいわけではなく、これが資本主義の原理であり、自然な流れだというほかないからである。

だから私はいま、介護の現場で何が起こているのか、それを注意深く観察して、その問題を抽象化したり、解像度を上げたりしながら一つ一つの出来事から日本全体の高齢化問題へと切り込んでいくことが、いまの私のポジションでしか語れないことかもしれないなと考えている。

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これを可能にしているのは、私がフリーランス看護師という立場で毎日様々な現場で働き続けていることにある。
上記で紹介した会社一つだけで働いているなら、私もその会社の中での現状しかわからないし、そこで働き続けなければならないという弱い立場に置かれるため、現状を打破しようとしたり、職を変えたいと思ったり、日々の労働だけで疲弊してこのような記事に書き起こす余力はないだろう。

だが、私はこの組織で働くのは週に1~2回であり、それ以外にも複数の会社組織、もっと大手の福利厚生のしっかりした組織の社員としても働いているし、フリーランスという働き方で在宅や介護施設などで働いている。
それゆえ、上記の会社と別の職場を比較してここはおかしい、ここはいい、という比較ができるし、この会社に依存せずに、淡々と働き続けることができるのである。

本当にもう働きたくないなと思ったらすぐに転職するけれど、なんだかんだ言っても、私は基本的にデイサービスという施設形態で働くことが好きだし、この会社の行く末をもう少しウォッチしたいな、という興味もあり、細々と働きながら、記事を発信しようと思う。






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