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『星をつなぐ手』 村山早紀 作 #感想

これは『桜風堂ものがたり』という物語の続編。
ほんとうに心温まる、やさしいやさしい物語である。
切なくて綺麗で、小さな勇気とその一歩に感動できる、そんな物語である。

主人公は桜風堂書店の書店員、月原一整である。桜風堂はほんとうに小さな本屋で、地方の山間に存在する。この書店を守っていきたい月原と、彼を取り巻く人々のお話である。

書店の数というのは年々減ってきている。Amazonなど通販で本を買う人が増えたり、そもそも電子書籍の状態で本を読む人が増えたりしている今の状況から容易に分かるだろう。

特に地方の小さな書店には新刊が発売されてすぐに流れて来ず....なんていう苦難も描かれている。書店には「生き残りをかけた戦い」があるのかもしれない。

97ページより

今の時代、ものを買うということは、「物語」を買うことと=(イコール)だからね。日本中どこにでもある品物である本、どこで買っても同じ価格の本を、あえてこの店で買いたいと思わせる動機、それが今度のことでひとつ生まれるんだよ。

「特定のこの本屋で、新刊を手にしたい」と思わせることは難しい。
「この書店員さんから、新刊を買いたい」と思わせることも難しい。

208ページより

すべての良い本は消えて行かず、その本を必要とする読み手の下へ届き、街角で愛されてきた書店たちは、変わらず商いを続け、本と書店を愛する街の人々は、お気に入りの書店で、変わらずに本を買うことができるーいつまでも、変わらずに。

この本に描かれている理想を引用してみた。「良い本」は案外 表舞台に出なかったり....本屋さんに入ってすぐに目に入る正面に置かれてなかったり....するものだよなぁ、というのは比較的自分が幼い頃から感じていることである。

誰かにとっての「良い本」が、誰かの元へ届くと良いなぁ、と思う。あわよくば、その本だけではなくてその本が置かれている空間も好きになってほしい。その本をすすめてくれた人の価値観も好きになってほしい。



私の中で特別な「書店」はないけれど、特別な「図書館」ならある。小さい頃の記憶というのは不思議で、突然ハッと思い出されることあるのだ。
本に囲まれた児童書のコーナーで、よく紙芝居を読んでもらっていた。端から端まで本を全部読もうと思っても、全然端に辿り着かなくて、そこにある物語全てと出会うことができないという事実に泣いていたことさえあった。

小さい頃の記憶と経験と環境がなければ、今私はこんなに本を好きでいられていないだろう。本に囲まれて育ってきたからこそ、物語に浸る時間というのを特別に大切に感じることができたのだろう。

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