見出し画像

芥川賞受賞作「破局」を読んで

芥川賞受賞作、遠野遥さんの「破局」を読んだ。あらすじは以下のようで、amazonから抜粋。

私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。
【第163回芥川賞受賞作】
2019年文藝賞でデビューした新鋭による第2作。

面白くないとかそういう領域で語れないのが芥川賞作品なのかと感じざるを得ないのだが、この小説はなんとも読んでいて独特の不快感がある。
「信頼できない語り手」という言葉があるらしい。この本の語り手は主人公の大学4年生、陽介。彼の一人称は「私」だ。彼からは独特の不穏さというかできれば現実では出会いたくない人間の匂いがする気がする。

時々本文とは全く関係がないような描写があるがそれがまた(良い意味で?)不気味だ。少し残念なのは性的描写がストレート。。これは私の捉え方だと思うが正直直接的な表現すぎて読んでいて不快になるレベル。書名通りラストは「破局」(主人公陽介と灯[あかり]という女の子の)で終わるわけだが、一応ラストはすっきり終わっているのにも関わらず後味がなんだかイマイチだ。

作者の方の言葉を引用しておく。

「全然、自分ではそんな変なキャラクターにしようとか思ってなくて、逆に、もう人によってはけっこう、気持ち悪いとか、共感できないとか、怖いとかおっしゃるんですけど、そんなふうに書いたんじゃないのになって思いますね。もう少し親しみを持っていただけたらと思います」

第163回芥川賞受賞者記者会見より

作者は主人公に親しみを持ってほしいとおっしゃっているようだがなかなかにそれは難しいだろう。なんというか感情の起伏がないというわけではないのだが欲望に忠実すぎるのがまた少し薄気味悪い。欲望はすごいけど感情が欠如している(?)みたいな。相手の感情を読み取ろうとする気持ちはあるけれど、自分の感情には無頓着な感じのする主人公だった。常識や理性はあるけど欲望に忠実。なんというか独特の不気味さがあるのだ。(←しつこい笑)誰かからの言葉をそのまま"言葉通り"にしか受け取れないというちょっとした歪みを主人公からは感じたのだ。


ちなみに「欲望」というのはもちろん性欲だけではなくて食欲も睡眠欲にも忠実だ。彼の家族はなぜか登場せず、ラグビー部に所属する主人公は部活の顧問の先生の家で優勝後にたらふく肉を食べているのだ。顧問の先生(男)とその奥さんと共に。
ラストシーンでは(ここまでに色々な過程があるが長くなるので省略するが)彼は警察官の手の温かさに触れながら眠ろうとする。眠りたい時はすぐに寝付くことができるという彼は、これから警察に連れていかれるだろうという状況下でも警察官の前で眠りにつこうとするのだ。
彼の彼女である灯は、彼との行為を続けるうちに彼以上に性欲に忠実になる。やがて彼女は「別に彼でなくても抱かれたい」という自分の欲望の恐ろしさに気づき、彼に別れを告げる。(別れの理由は他にもあるが省略)


🔁


最後に、主人公陽介の友達で「膝」という名前の男の人の印象的だったセリフを1つ。(ちなみに「膝」は変わった名前だと思うがこの名前の理由はよくわからなかったのが残念)

ベランダから地面を見下ろしてるときみたいな気持ちになる。やろうとしたことがあるからわかるんだ。あのときにすごく似て流。俺はあのとき、飛ばなくてよかった。今回も飛ばずに終わって、それであの時飛ばなくてよかったって思うんだろうか?喋りすぎたな。これは俺が自分で決めなきゃいけないことだ。

122ページより


🔁


本の感想を書くときに本を5点満点で(amazonの星の評価のように)点数をつけることはしたくないが、この本を人に勧めるかと言われれば答えはNOだろう。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,330件