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西洋美術史を深く知る やっぱり光が多くて柔らかいものがすき

ヨーロッパのアートに関しては、19世紀に葛飾北斎などの浮世絵メインに、ジャポニスムというのがフランスで流行っていたとか、留学先のフランス ナンシーが、アール・ヌーヴォーの発祥地だな、とか断片的に知っていたのですが、今一度、網羅的に知りたく、学んでみました。

下記の本と『西洋美術史』の2冊を参考に。歴代の絵画や建築写真などがカラーで満載で、すごくわかりやすいです。

そうすると

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エジプト
→ギリシャ(クラシック美術→ヘレニズム美術)
→イタリア(ローマ・フィレンツェ)=ルネサンス
ネーデルラント(現オランダ・ベルギー・ルクセンブルク)、ドイツ
=北方ルネサンス
→イタリア(ヴェネツィア)
→フランス(日本美術もMix)

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と時代ごとに美の都となる国・都市がどんどん変わっていくのがわかり、より美術が立体的に見えるようになりました。

本に沿って、時代区分を一覧化してみました。こうしてみると、よくわかります。目次も盛り沢山(長いので、一番最後に列挙します)

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絵画の見方

ジャンル・種類
主題としては、キリスト教など宗教や、神話にちなんだものが多いですが、階級社会のありさま(格差と現実、闇など)、様々な社会背景の描写、風景画、自画像、前の時代を否定するもの、権威を示すために、実際の情景と違う風に描かれている、など多様に富んでいます。

背景を理解することで、より親しみを持って過去の偉人たちの作品を、眺めることができるようになった気がします。

ちなみに、絵画にはヒエラルキーがあって、一番下位が静物画→風景画→風俗画→肖像画(自画像含む)→トップが歴史画となっているそうです。そもそも主題を理解し、歴史背景や、建築、その他散りばめる構成もふくめ高い技術が必要とされたからだとか。(他は、宗教画、神話画、風刺画、裸体画、寓意画)

技法と素材
モザイクで絵を描くのは高コストなので、必要に応じて安くするためにフレスコや、テンペラ+板、油彩+カンヴァスが使用されたり、版画やステンドグラスなども登場するようになります。

彫刻もブロンズ(青銅)だけでなく、大理石、象牙、テラコッタ(素焼き)、漆喰など、当時の美的追及と経済原理によって、描かれる素材が変化しています。

たとえば、ゴシック建築教会のステンドグラスがとてもきれいなのですが、文字を読み書きできない人のための聖書として詳細に描かれていたり、ロマネスク建築から、ゴシック建築方式になったからこそ、力が分散されるのでガラスを使えるようになったり、豪華な色合いにすることで権威を表しているなど、新たに学ぶことも多かったです。

また、ガラス窓は教会堂の内部を明るくするため、祭壇画がより容易に視認できるようになったり、ひとつの巨大な楽譜を読めるようになったことから、賛美歌の発達と普及にも貢献したそうです。

当時は神=光とされていたことからも、教会に入ること自体が、癒しの空間になっていたんだろうな、と思えます。

パリのサント・シャペル聖堂の動画です
(3分弱で見れます)


アトリビュート
文字が読めない人でも、パッとモチーフで意味が分かるようにし、描かれたアイコンのことを言います。例えば「蝶」は魂を意味したり、頭の上に輪っかがあって背中に翼があれば「天使」、キリストの第一の使徒である聖ペテロは「天国の鍵」をもっている、聖母マリアは「ユリ」や「とげのないバラの花」などです。

ヨーロッパの人は、絵画を「見る」のではなく「当時の時代背景も含め読む」ことが主流になっていたとか(だからこそ、絵の主題と背景を深く知らないと、理解できないことが多いんですね)


いくつかの時代の代表的なものを、簡単に取り上げたいと思います。

2.エーゲ文明・ギリシャ時代

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サモトラケのニケ》制作者不明 ルーヴル美術館にて
盛期ヘレニズム時代を代表する彫像。1863年にエーゲ海のサモトラケ島から無数の断片として発掘され、長い期間を経て有翼の勝利の女神が現れた。

紀元前190年頃の作品で、船に降り立つ瞬間が描かれています。ルーヴル美術館で、ミロのヴィーナスと同じ区画に展示されていて、いつも大人気です。なにより、紀元前にこのような彫像をつくる技術があったことに驚きです。(147mあるエジプトのピラミッドや、ギリシャのパルテノン神殿もですが)


7.ルネサンス時代(ボッティチェリと3人の巨匠)

14世紀末ごろから、ギルド(同業者組合)が自分たちの権威を守るために、認めたものにだけ「親方(マエストロ)」の称号を与えて、新規参入ができないルールを作りました。

そして、代表者が都市国家を運営する「コムーネ(自治都市国家)」をつくったのですが、初めての試みだったので、かつての共和制ローマの成功に学ぼうとしたことからルネサンスが始まります。

ルネサンスは「再生」「復興」を意味するフランス語です。歴史に学ぶ、ということですね。

その中でも、ボッティチェリと3人の巨匠をご紹介。

サンドロ・ボッティチェッリ

彼は、パトロンであるメディチ家が主催する「人文主義思想」サークルに参加しており、哲学者や文学者などと、ネオ・プラトニスム(一神教であるキリスト教と、多神教である古代ギリシャ・ローマの文化の融合の試み)を学んでいたそうです。その結果生まれたものが、下記《ヴィーナスの誕生》や《》で、色使いがとてもきれいで鮮やかです。

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ヴィーナスの誕生》ウフィツィ美術館
画面左は西風ゼピュロスと微風アウラ、マントを掛けようとしている女性は時の女神ホーラ。
生まれたばかりで「恥じらいのヴィーナス」と呼ばれる古代ローマ彫刻を引用したポーズをとっている。

ウフィツィ美術館 ボッティチェリルームのバーチャルツアーができます


そして、ルネサンスの三大巨匠といえば、この3人。

1. レオナルド・ダ・ヴィンチ

フィレンツェで生まれた彼は、13歳頃からヴェロッキオの工房へと弟子入りし、美術全般の基礎を学び始めます。

「見たものしか信じない」という徹底した懐疑主義で、絵画表現に革命をもたらしたといわれています。自然界に輪郭線がないことを発見したレオナルドは、線を描かず、水に溶いた顔料を指の腹で何度も画面に重ねていく「スフマート」というぼかしの技術を開発します。

また、遠近法も研究し、遠くのものほど大気にかすんで面白く見える「空気遠近法」も発見しています。さらに!医学にも興味があり、三尖弁の機能や、心臓の構造、解剖学等でも様々な発見をしています。

好奇心が旺盛かつ、その後の世の中の発展にも多大に貢献していて、すごいとしか言いようがないです。

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最後の晩餐》 サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会
遠近法を活用。裏切者のユダをテーブルの手前に一人座らせる一般的な構図に対し、全員を同じく横に並べ、ユダにイエスを売った金の入った金袋をもたせることで暗示させている点が新しい。

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モナ・リザ》 ルーブル美術館
モデルは諸説あり、リザ・デル・ジョコンドもしくは、生き別れとなった母親の面影を重ねたと言われている。


2. ラファエッロ・サンツィオ

ウルビーノの宮廷画家の父のもとで、幼いころから工房でデッサンなどを学びます。その後わずか17歳で親方の資格を得て、工房を構えることになります。より高みをのぞみ、フィレンツェに移った後は、レオナルドとミケランジェロに刺激を受けて熱心に学んでいたそうです。

合理的なルネサンス芸術の精華と言える下記作品は、300年にわたって、西洋の美の規範(古典・手本)としてあり続けました。代表的な作品に、レオナルドとミケランジェロの二人がモデルとして入っていることで、敬愛が伝わってきます。

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アテナイの学堂》 ヴァチカン宮殿「署名の間」
画面中央に描かれたふたりは、向かって右側がアリストテレスで、左がレオナルドをモデルとしたプラトン。同じように、点前で机に肘をつき迷走しているのは、ミケランジェロをモデルとしたヘラクレイトス。

画面上部の両脇に描かれた2体の彫刻は、ミネルヴァ(右)とアポロン(左)という異教の神々であり、ネオ・プラトニスムの思想が表れている。


3. ミケランジェロ・ブオナローティ

13歳で入ったギルランダーイオの工房で修行中、メディチ家に才能を見いだされ、フィレンツェのメディチ家宮殿で暮らすようになります。
(そして、当時最先端の知的サークルであるプラトン・アカデミーで知的な会話や議論に囲まれながら英才教育をうけます)

ミケランジェロ自身は常々「わたしは彫刻家であって画家ではない」と言い張っていたそうですが、、彫刻家、画家、建築家、空間デザイナーと一人の人間なのか?と思うぐらい幅広く才能を開花させます。(うらやましい・・)

彫刻技術はほぼ独学で身に着けたそうで、3年かけて《ダヴィデ像》を完成させたときには、「大理石のなかの声を聞いた」そうです。(石とも会話ができている・・)

ヴァチカンの中にある下記作品は、4年の歳月をかけて1人で完成させます。

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天地創造》システィーナ礼拝堂 
柱などを描き込んで巧みに画面を区分けし、『旧約聖書』の「創世記」の9画面を展開させた。総勢300人が登場する圧巻の天井画。

同じく有名な《最後の審判》も、60歳の時からほぼ一人で6年かけて描かれたとのこと。

さらに、《サン・ピエトロ大聖堂》の設計を手掛けているときは72歳だというから、一生涯ずっと才能にあふれていたんですね。


14.印象派時代(モネ・ルノワール・シスレー)

19世紀後半のフランスでは、王立美術アカデミーが権威を持ち、芸術家たちの唯一の発表の場だった国家主催の大規模公募展(サロン)の審査基準も、アカデミスムに沿っていたそうです。その審査基準や制度に疑問を持った画家たちが集まって、独自の展覧会を開いたことから、印象派の時代はスタートしています。

ただ、印象派画家たちの指導者的存在である、エドゥアール・マネは、あくまでもサロンの評価にこだわっていたということで、世間の評価と自分が表現したい作風とのギャップに悩んでいたのだろうな、と感じます。

日本でも人気なため、この時代の有名な人はたくさんいますが、私が好きなモネ、ルノワール、シスレーのご紹介。

クロード・モネ

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ジヴェルニーの家の前にて オランジュリー美術館HPより

彼が着目したのは、モチーフの造形そのものではなく、外光によってもたらされる光の移り変わりです。この微妙なニュアンスを表現するのが難しかったため、「筆触分割(色彩分割)」という技法を生み出します。

自然界は赤・青・黄の3つの色からなるという光学理論に基づき、本来は存在しない"絶対黒"を禁止し、原色かそれに近い色を使用する。そして、色を重ねるのではなく、細かな筆で隣同士に配置する、という方法です。


結果、緑や青など自然中心の柔らかい雰囲気が、作品から伝わってきます。

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睡蓮》 オランジュリー美術館「睡蓮の部屋」にて

下記から、バーチャルツアーも出来ます


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《ジヴェルニーの日本の橋と睡蓮の池》 オルセー美術館にて

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《日傘を差す女性》 オルセー美術館にて


ピエール=オーギュスト・ルノワール

彼は、風景画を中心に据えたモネとは違い、人物の描写を追求した画家です。木洩れ日が柔らかく、人々の楽しそうな様子が見てとれます。

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ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》 オルセー美術館

人物表現は立体感を意識しているうえ、画面右奥の帽子をかぶった男性像に、印象派のタブーであるはずの"黒"が使われています。

一度伝統に立ち返り、印象派の革新性を加えることで、独自の人物表現を試みています。

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舟遊びをする人々の昼食》 フィリップス・コレクション


アルフレッド・シスレー

彼は、風俗や静物はあまり描かず、パリ郊外の穏やかな自然を主題とした作品が多いのが特徴です。

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《モンビュイソンからルヴシエンヌへの道》 オランジュリー美術館にて
本作はなだらかな丘の上から遥かにセーヌ河を望む風景。明るく広い空のもとで、馬車や人々が道を行き交うのどかな田園の情景が、優しい色彩で描かれています。


16.世紀末芸術

アール・ヌーヴォーとは、フランスで新しい芸術という意味で、十九世紀末から二十世紀初頭にかけてヨーロッパに流行した装飾様式で、植物をモチーフにした、流れるような曲線が特徴です。

留学先のナンシーが発祥地だったので、街中にこういったモチーフが。ちなみに、パリのメトロ入口もそうです。

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家の玄関と小窓 

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《脚付杯「フランスの薔薇」》 エミール・ガレ ナンシー美術館にて

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《ベッドや椅子などアール・ヌーヴォー式家財道具》 オルセー美術館にて


以上、絵が描かれた時代背景や、作家の思いなどもまとめて学ぶことができ、とてもよかったです。

改めて、私自身は、ボッティチェリや印象派の描く柔らかい作風が好きだなあ(黒メインの色彩ではなく光が表現されることが多い)とわかりました。

アール・ヌーヴォーに代表される自然とミックスされたアート作品も好き。

なぜ好きかというと、宗教画よりニュートラルに楽しめるというのと、ふんわりとした色合いは、優しい気持ちになるからなのかな、と思います。

葛飾北斎の絵が良いと感じるののも、風景画と綺麗な色彩が、丁寧に描かれているかもしれません。


では、素敵な休日をお過ごしください。


目次
1.エジプト・メソポタミア

来世思想・ネフェルティティとツタンカーメン
2.エーゲ文明・ギリシャ
壺絵ー黒像式と赤像式・アルカイックとクラシック・ヘレニズム美術
3.エトルリア・ローマ
ネクロポリス(死の街)・巨大建築とアーチ・帝国と騎馬像・ポンペイの壁画群
4.初期キリスト教・ビザンティン
ビザンティンとイコン・ケルト美術・聖堂建築の始まり・ラヴィンナのモザイク
5.ロマネスク・ゴシック
ロマネスク教会・柱頭彫刻とタンパン・ゴシック教会・ステンドグラス・修道院と写本
6.プロト・ルネサンス
キリストの磔刑像・ジョット・シエナ派と国際ゴシック
7.ルネサンス
古典復興・ブルネッレスキと遠近法・マザッチョ・ボッティチェリとメディチ家・レオナルド ダ ヴィンチ・ラファエロ・ミケランジェロとマニエリスム・ティツィアーノとヴェネツィア派・ルネサンスの終わり
8.北方ルネサンス
ヤン ファン エイクと油性画・ボスと幻想世界・デューラー・ブリューゲル一族
9.マニエリスム
絵画とアレゴリー・フォンテーヌブロー派
10.バロック(伊・仏・西)
ベルリーニと劇場型バロック・カラバッチョ・カラッチ・ベラスケスとルーベンス
11.バロック(蘭)
風景画の成立・静物画とヴァニタス・大航海時代とフェルメール・レンブラントと自画像
12.ロココ
雅宴画とヴァトー・ブーシェとフラゴナール・シャルダンと市民生活13.新古典主義・ロマン主義
ダヴィッドと新古典主義・ジェリコーとロマン主義・アングルとドラクロワ・グラン ツアー・アカデミスム・シノワズリー・オリエンタリスム
印象派にいたる先駆者たち
ターナーとコンスタブル・ミレーとコロー・クールベと「レアリスム宣言」・社会問題に目を向けた画家たち
14.印象派
モネの実験・ジャポニスム・ルノワール
15.後期印象派・新印象派
セザンヌ・点描画・ポスター芸術・内省的な視点・ロダンと近代彫刻
16.世紀末芸術
ラファエル前派・分離派とクリムト・アーツ アンド クラフツ運動・アール ヌーヴォーとアール デコ・ナビ派・ガウディ
17.現代美術
キュビズム 未来派・エコール ド パリ・ルソーと素朴派・ダダイスムとデュシャン・バウハウス・美術とプロパガンダ・シュルレアリスム

【再掲】



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