[1分小説] 愛|#気づかなかった愛
新幹線で2時間。
遠いと思っていた東京は、思っていたよりずっと近かった。
『いよいよ、俺の東京生活が始まるんだ』
周りをうろちょろする、目障りな女もいない。
流行が周回遅れでやってくるようなパッとしない
田舎から出て、一花咲かせてやる。
俺はそう決めていた。
外見の良さに恵まれたことは、親に感謝している。
このルックスがあれば、華やかで楽しいキャンパスライフも約束されようなものだ。
死ぬほどバイトして、―運が良けりゃ事務所でも入ってモデルでもして―
都会の女をはべらせるんだ。
・
実際のところ、
都内に住み始めた俺を、女たちの方が放っておかなかった。
「英司ク~ン」って、下心丸出しな声を出して、
まるで密に吸い寄せられるように。
東京の女なんて、甘い甘い。
目の前の女に飽きれば、次の女がそこにいる。
その優越感と言ったら!
そういう時、俺はまぁ正直いうと、自分の冷酷さを直視せずにはいられなかった。悪いヤツだ。
それでも、
やっぱり思うのは『さすが、俺』。
・
―そう思っていたのだが。
いざ付き合ってみると、
東京の女は、どうしてこんなにも見栄とプライドが高いのか?
しかも奢られることが当たり前、男を財布のように扱い、ロクに「ありがとう」も言えない。
ついでに俺の容姿の良さに惹かれてやってくる女たちは、やたらと俺を自分の隣に歩かせたがる。
俺をアクセサリーか何かだと思ってるのだろうか?
なんなんだ、
彼女たちのドライすぎる思考回路は...。
「男は、自分の価値を上げるために利用するものである」
そんな触れ書きでも、東京の女たちには通達されているのだろうか?
楽しいはずなのに、何かが、全然違った。
・
東京に出て3ヶ月も経つ頃、
俺は淋しさに我慢がならなくなった。
女を抱いても、残るのは出ていくホテル代と満たされない虚しさだけ。
俺の東京生活はこんなはずではなかったはずだ…。
『なんていうか、もっと素朴でホッとする女。
そんな女の横にいたい』
素直にそう思った。強烈にそう思った。
しばらく女とは寝たくない、そう思って一人で夜を過ごしている時だった。
マンション裏の教会の鐘が鳴った。
・
ふいに、地元の近所の幼馴染・里穂の顔が浮かんだ。
『...なんであんな芋女が』
困惑した。でもこの3ヶ月東京の女と遊びまくって、「何かが違う」そう感じたすべてを、アイツなら埋められる気がした。
俺のことを下心なく褒めてくれること。
俺に見返りを求めてこないこと。
俺に存在を否定されてもいなくならないこと―。
「英司くん」
アイツは頼んでもいないのにいつも俺の隣にいた。
だから、ひたすらウザいと思っていたけれど、
ひょっとしたら、それって凄いことなんじゃ...
「私、好きな人ができたから」
東京に出てくる前、里穂は教会の中でそう言っていた。
学校のヤツだろうか?
そういえば、
キスの仕方なんていつ覚えたんだろう。
「ぬいぐるみには綿じゃなくて癒しが詰まってるの」
高校生になってもそんなこと言ってるから、
永遠に子どもだと思っていたけれど。
アイツももう、ひとりの女なのかもしれない。
しかも、実はわりと凄くいい女―。
『週末、里穂は実家にいるだろうか?』
そう思って、
俺はスマホを取り出して新幹線のチケットを探した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?