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【最近は、こんな感じ】 お笑い好きは“愛”。

上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai

28 陳野馬

<Profile>
陳野馬(チェン・イエマー)
生まれ年:2000年
出身:浙江省寧波市
職業:大学院生
小紅書 @野馬
Ins @wildhorseccx

熟肉(字幕付き)の『M-1』を観てるような子に
会ってみたいとずっと思っていたら、
偶然知り合えてしまった。
待ち合わせはこの前、
日本のお笑いライブがあった
『蘭心大戯院』の前。


――話したいことがたくさんあります。お笑い好きの中国人女子に初めて会ったので。
陳野馬 私も! でも、和牛が解散しちゃいましたね。第一報を聞いて泣いてしまった。

――和牛が好きなのは何でですか?
陳野馬 日本ならではのギャグは正直わからないんですが、和牛の漫才はコントっぽくてわかりやすいからです。ドライブデートとか、旅館のネタとかは私の母でも笑えるくらい。ストーリーがあって演技もうまくて。特に川西さんは、ボケをただいじるのではなく演技をしながら突っ込む。そこがすごいと思います。彼らのネタはもう何回も見ているので、セリフも全部覚えてるんですが、見るたびに細かな動作や表情のつくり方がすごいなと思っています。川西さんは今後、天竺鼠の川原と何かやったらいいのにな。

――川原、そうですね。日本のお笑いに興味を持ったきっかけを教えてください。
陳野馬 もともと日本のドラマが好きで、菅田将暉が好きだったんですが、彼がバラエティ番組に出ていたときに芸人さんのネタで爆笑したのを見たのがきっかけです。『火花』や『浅草キッド』も観ました。その後『bilibili』で、という感じですね。でも、私は日本語がそんなにできないので字幕が必要なんです。その字幕は「字幕組」という人たちが翻訳してアップしてるんですが、やっても全然彼らの収入にはならない。自分が好きなものでみんなに笑ってほしいというだけでやっているんです。お笑いが好きだっていう、愛だけでやっている。そんな「字幕組」の存在を知ったのも、お笑い好きになった理由かもしれません。

――2023年11月に上海で日本のお笑いライブがありました。
陳野馬 すごく得難いこと、というか。「中国で見られるなんて……」と思いました。でも、主催の吉本はちょっと観客の設定を間違ってましたよね? 中国の普通の観客を想定したライブだった感じ。でも、一般の中国人は知らないから誰も観に来なかった(笑)。来たのは全員ディープなファンだった。戦略としては、中国の一般層にお笑いを知ってもらおうという感じだったんだろうと思いますが、それは難しいと思いますね。

“大衆的なものに興味ないかも”

――会場周辺は現地のお笑い好きたちのオフ会の場になってましたよね。
陳野馬 ハンドルネームは知っててもみんな初めて会う人ばかりでした。自作のグッズを交換したり、グッズをつくっていない子は地元のお土産と交換したり。地方から来てた人も多かったです。ダイアンの津田のお面してた人、見ましたか? 彼はポッドキャストの番組『搞笑談』のMCをやってる人。

ポッドキャストやSNSにディープなお笑い好きが集まっている。
中国のファンが描いた、ハイツ友の会、ウエストランド、かが屋、ランジャタイ、真空ジェシカなど。右下の和牛は陳さんの作。印刷したイラストを交換する文化、独特。

――初めて会う人ばかりということは、普段はまわりにお笑い好きが全然いないということですか?
陳野馬 はい。いないです。和牛の解散のニュースを見たときも、私、情緒が大変だったんです。微博に「悲しい」ということをつぶやいても、つながっている友達はみんな「何が?」という感じで。お笑いのことは誰も知らない。

――誰も知らないから、小衆(ニッチ)だから応援したいという気持ち?
陳野馬 それは違うかな。有名で、みんなで良さを分かち合えるほうがいいと思います。

――和牛以外では誰が好きですか?
陳野馬 バカリズムです。生活上の細かいことを観察する視点がすごいと思う。彼の脚本のドラマもすごくおもしろいし、大喜利の回答が絵なので、言葉がわからなくてもおもしろいから。ほかは、オードリーも好きです。若林がきっかけで星野源の良さを知ったり。

――若林経由で星野源。
陳野馬 あとは、空気階段、男性ブランコ、ワーティンも好き。

――ワーティン……?
陳野馬 蛙亭(中国語読み:Wating)です。あと、インパルスの板倉も。中国はランジャタイ好きが多いけど、私はちょっとわからないな(笑)。日本の音楽も好きです。秋山羊子とか、KAN SANOとか。

――やっぱりちょっと、好きなものが小衆な気がする……。
陳野馬 でも、藤井風とかも好きですよ。Youtubeでやってる頃から見てて。……というか、うーん、確かに、藤井風はメジャーになってから「違うかも」って思い始めたかも……。確かに、大衆的なものに興味ないかもしれない。私、そうなんですね。初めて自分でそう思いました。

――中国のお笑いについても聞きたいです。漫才師の肉食動物や、胖達人のコント『進化論』くらいしか見たことなくて。
陳野馬 肉食動物はちょっとNON STYLEっぽい。

――笑い待ちの間が気になりますよね。
陳野馬 そうそう(笑)。日本の漫才みたいなスピード感がない。あとは、ピン芸人の周奇墨や楊笠もお勧め。双子の女性芸人・顔怡顔悦もおもしろいですよ。でも、日本と違って芸人さんは売れても番組のMCにはなれない。賞レースもないので、あんまり夢はない世界かなと思います。

日本人的に入りやすいのは肉食動物(左上)。”相声(中国の伝統的なコンビ話芸)”ではなく、中国のお笑い界に”漫才(マンツァイ)”を取り入れたコンビ。

“勉強や生活の支えになってた”

――ではちょっと、お笑い以外のことについて。陳さんは大学院生ですよね? 専攻は何ですか?
陳野馬 工業デザインです。もののデザインというより、ユーザーインターフェースデザインなどを学んでいる人が多い学部です。2025年に卒業なんですが、まだ全然将来何をやりたいとか決まってなくて。目標がある同年代の子たちがうらやましいです。不景気なので就職できるかどうかも不安です。でも、いまはこのもやもや感を楽しみたいという気持ちもありますね。

――大学の友達間で流行っていることはありますか?
陳野馬 MBTI(性格診断)です。初めて会う人に自分の診断結果を見せるとスムーズに仲良くなれたり。私はけっこう内向的なので役立ちます。あとはコーヒー。いま、寮暮らしなんですが、友達がハンドドリップで淹れてくれたりします。緑豆ラテとかにアレンジしたりして。

――大学は杭州市内とのこと。お休みの日はどこに行くことが多いですか?
陳野馬 『天目里』かな。お勧めはやっぱり西湖。どの季節に行ってもきれいです。買い物とかは、洋服は無印やユニクロが多いです。あとは『MAO』。ライブにもよく行きます。あ、音楽についてはさっきちょっと言いましたけど、でもいちばん好きなのはサニーデイ・サービスかもしれない。

――サニーデイ・サービス。年代、全然違うけど。
陳野馬 スマホのお勧めに出てきて偶然聞いて好きになりました。あと、母がすごいゲーマーなんです。毎日『ゼルダの伝説』やってる。最近出た2のほうも、もう2回目をやってる。

――聞きたいことありすぎで終われない……。なので最後に、陳さんが思う「日本のお笑いの魅力」を教えてください。
陳野馬 設定が豊富で、一本のネタのなかに出てくる内容やワードがすごく多いこと。それらを一つずつ調べるとまた違う世界を知ることができて、いろいろなこととつながっていくことです。でも、一度は生で見てみたいと思っていた和牛の漫才はもう見られないんですよね。スケジュールもバラしてますよね……。彼らの漫才はほんと、私の日々の勉強や普段の生活の支えになっていました。
(取材日:2023年12月19日 撮影地:進賢路〜茂名南路『蘭心大戯院』)


<彼女のお勧め>

『18号酒館』(杭州市西湖区天目山路398号9号楼1階102-103)
☆おいしくてリーズナブル。春や秋は外席がお勧め。周辺の風景もとてもきれい。

『観夏西渓客廳』(杭州市西湖区天目山路398号16号楼1階101)
☆フレグランスショップ。インテリアや雰囲気、香りなど、プロデュースがとてもいいと思う。


text
萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。
カルチャー誌『Ketchup.』(上海と東京で販売)など。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06

photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe

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