マガジンのカバー画像

幻想小説 幻視世界の天使たち

15
遥かな時を超えて、歴史上の謎の解明に挑む者たちの物語です。物語の主な舞台は現代の日本と中央アジアですが、まずは 千年ほど昔の出来事から始まります。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

幻視世界

ミッキー・イナゲヤ

00:00 | 00:00

公開中の動画「古のパワースポット北鎌倉のお寺」のBGMとして使われています。フラメンコギター楽曲の音階や不協和音を用いて深く不思議な世界を表現してみました。

幻想小説 幻視世界の天使たち 第14話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第14話

命の恩人?そうかあのスーパーセルが起こった時、父が身を挺して助けたイギリス人の子供はボイドだったのだ。きっとボイドはスーパーセルのことを知っていたのだ。父がユースフに話しかけた。
「本当にあのスーパーセルは大変なものだった。ユースフ、お前は今それを研究しているのだってな」
父がスーパーセルという言葉など知っている訳がないが、まだ自分が若いころ亡くなった父が、ユースフの仕事について話しかけてくるのは

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第13話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第13話

ユースフは話を戻して続けた。
「ピジョンのメールには触れられていなかったが、私が調べた古文書の中には、鏡を見る事によって幻視が始まり、加速させ、また鏡を見ることによって現実に戻るということが書いてあった。何故だかよくわからないのだが、右と左が反対の自分の姿を見ることで、感覚が研ぎ澄まされた脳に何らかの影響があるのかもしれません。ボイドさん、いずれにしても道具立てをそろえて頂き感謝します」
そう言う

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第12話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第12話

この篠原ミカからのメールを読み終えると、ユースフは両腕を頭の後ろに回し、研究室の天井をじっと睨んだ。ボイドが推してくる女性だけあって、その立てた仮説は説得力がある。ユースフは彼が幼い時に見た強烈なスーパーセルに固執しすぎたかも知れない。ボイドもこのミカの説には賛同しているようだ。しかしこの説を採るにしても、それを実証するのはどうすれば良いのだろうか。彼はまたしばし考え込んでしまった。そしてやがて独

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第11話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第11話

ユースフは考えた。息子のジンに先進医療技術のある海外の病院で治療を受けさせるためには、あの賞金百万ドルは何としても手に入れたい。この際、モンゴル帝国軍の船団の消失に関しての研究を継続できるなら、日本の女子大生が誰にせよその教えを受けよう。それが今、大金を手にするために彼に残された唯一の方法だと思われるのだから。
その時、ユースフのパソコンにテキストだけのメールが送られて来た。差出人はミカ・ピジョン

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第10話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第10話

ミカはロジャーに会った日の夜に送られて来たファルコンの研究資料に目を通し、また思い立ってミカの祖父が住職をしている鎌倉時代から続く寺に残されていた元寇についての古文書にも目を通した。それは祖父が現代語にしていたもので、ミカが鎌倉研究会での研究のネタとして借りて来たものであった。その古文書には次のような意味の記述があった。
「蒙古軍の兵士たちは、日本に渡った時の恐怖の体験が忘れられない。その日、日本

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第9話 

幻想小説 幻視世界の天使たち 第9話 

「あくまでも、謎解きの主体はあなたです。そして……」
ボイドは続けた。
「謎解きが完成した時の賞金百万ドルもすべてあなたのものですよ。ファルコン」
それを聞いてユースフは、安堵で口元をほころばせ、ボイドの前では言うまいと思っていた言葉がつい出てしまった。
「ああ、よかった。これでジンに治療を受けさせることが出来る」
ボイドはそれを聞いて静かに頷いた。
「それでは、おっつけピジョンから連絡をしてもら

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第8話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第8話

ユースフがボイドと約束したスーパーセルの実証実験の日が来た。ユースフの実験室には大型の水槽にテープで目張りをしたいかにも急ごしらえの感のある実験用の透明アクリル製のチューブが備え付けられた。チューブの中には電極がいくつも貼り巡らされており、空気の流れを作るための管が繋げられている。チューブの下部は博多湾を模した小型のジオラマが作られており、その模型の博多湾にはモンゴル帝国軍の高麗船が浮かべられてい

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第7話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第7話

厳しいスケジュールで準備を進めながらもユースフが毎日訪れる場所があった。それは彼の息子ジンが入院している大学付属病院で、研究室から歩いて十分程の距離にあった。ジンは体が麻痺しベッドに寝たきりとなってはいるが、幸いにも意識はしっかりしていて、会話はできる状態であった。ユースフは九歳の息子に、その年齢の子供に必要な知識をつけさせようとジンが入院して以来、どんなに忙しくても毎日病院に通い、ベッドサイドで

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第6話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第6話

ユースフはボイドの提案を受けてから四週間というもの、大学で講義がある時以外、研究室に来なくなった。その間、彼はウリグシクの地方都市に僅かに残るモンゴル帝国時代の遺跡や資料館を訪れ、ある現象のことが書かれた古文書などが現存していないか捜し歩いた。
ユースフは一つの仮説を持っていた。元寇に於けるモンゴル帝国軍の敗走は何か異次元のものと言っても良いような圧倒的な力を伴った自然現象が起こったためではないか

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第5話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第5話

コンバイの設立は今から十年ほど遡る。ロンドン在住のインド系イギリス人ミック・マースによって、オンラインのコンピュータゲームの運用を行う会社としてスタートした。当初は参加者になぞなぞのような簡単なクイズを出していたが、やがて世界の歴史、文化、科学などに関する詳細な質問や暗号解読など、回答に深い知識と鋭い推理力が求められる出題に変化して行き、同時に国際的な大手企業がスポンサーとなる多額な賞金を伴ったチ

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第4話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第4話

「それなら話は早い、モンゴル帝国軍は海を渡っての戦いでは、二回目には十万を超える兵力を持って日本に攻め入ったと言われています。既に火器も持っていたモンゴル軍に比べ、日本は武者が戦いのつど名乗りを上げて、騎馬で戦うという前時代的な戦い方をしていたようです。それなのに二度ともモンゴル軍は博多湾より突如姿を消してしまいました。壮大な戦いのあっけない幕切れについてその理由は良くわかっていないのが不思議でし

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち  第3話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第3話

ユースフ・アリシェロフ教授は中央アジアに位置するウリグシク共和国の国立ウリグシク大学に研究室をもつ歴史学者である。もうすぐ四十歳になる。彼の専門は世界史に於ける征服と征服の過程での戦いの歴史だ。
その中でも、ユースフが数年に亘って研究しているのは絶対的に有利な戦力、戦略を持った軍が、弱小でこれと言った強みのない、勝ち目のない軍に敗退してしまったケースだ。有史以来の戦争の歴史の中では、士気の上がらな

もっとみる
幻想小説 幻視世界の天使たち 第2話

幻想小説 幻視世界の天使たち 第2話

 マイラムの治療にも拘らずアイの意識は戻ることなく、その日も夕方近くになった。マイラムも疲れたように椅子にへたりこんでいた。リョウとマイラムは殆ど口を聞かなくなっていた。やがてマイラムは日が暮れ始めた窓の外を覗きリョウに言った。
「これ以上私にはどうすることもできない」
リョウは半分泣きながら言った。
「何でもします。母さんを助けてください。何とか、何とかお願いします」
マイラムは暫く黙っていて考

もっとみる