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逆噴射小説大賞

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逆噴射小説大賞応募作品です。
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#小説

聖女、血の魔法、勇者。

聖女、血の魔法、勇者。

『……市内の中学校に通うKさんは全身の血液が抜かれた状態で発見され……』

「随分老けたね」
「は?」

 悪口でしかないそのセリフが自分宛てだと理解したのは、少女が泣きそうな笑顔で俺に抱きついて来たからだった。俺は妙なニュースを表示していたスマホを取り落としそうになって慌てる。

「ユキ……! ユキアキ……! やっと……!」
「だ、誰!? 俺は雪秋だけど……誰!?」
「12年も……かかったけど…

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レザレク

レザレク

 時間が無い。早く殺してあげなければ。
 俺の全身を包む特殊作業服を、その思いと熱気とが満たしていた。

 満島六郎。79歳。推定、ベッドで急死。
 満島栄子。74歳。同、転倒し頭部を強打、死亡。

 問題なのは、寄り添う様に死んだ彼らに隣人が気付くまで半日要したことだった。

「白化、始まってますね」
「ああ。マズい」

 俺は六郎氏の頭部にスキャナを当てる。死後17時間。危険域だ。頭全体を白い

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ヤクザの鉄砲玉は悪魔を撃ち抜けるか?

ヤクザの鉄砲玉は悪魔を撃ち抜けるか?

「コータ、こいつ消せ。報酬二千万。半分は前払い。サポートも出してやる」
「ヤスさん、すみません、素顔じゃないと本人確認がちょっと……」

 俺の任されてる古本屋にわざわざ現れた真伐組若頭 富康二……さんが前置きも無しに差し出したのは滅茶苦茶気合の入った特殊メイク姿の女? の写真だった。
 バチっとスーツこそ着ているが、肌は青。白目が黒くて瞳孔は赤。遅めの中二病か?

「いや、それが素顔だよ」
「え

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勝ち負けのない世界

勝ち負けのない世界

「今日、栗野さんが農業委員会にいらっしゃったんです」

 法務局の用事を済ませた後、事務所に入っていた「確認事項有」の電話に折り返した僕に農業委員会職員・香田君が切り出したのはそんな言葉だった。

「家の周りに土盛りをしたいとおっしゃったんですが……月原先生は聞いていますか?」
「いえ、聞いてないですね」

 僕こと、行政書士・月原大地はそう答える。半分は嘘だ。

「僕が聞いていたのは、お孫さんの

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プロメテウスの蜘蛛の糸

プロメテウスの蜘蛛の糸

 ゴブリンたちを長柄の斧でぶった斬る。斬るのはこいつの頸ぐらいが限界だ。それ以上は反対側で撲殺することにしている。斬る、斬る、撲殺、斬る、斬る、撲殺。
「ユ、ユウちゃーん! 助けてくれー!」
「あっハイ只今ァー!!」
 などと楽しいビートを刻んでいたら、いつの間にか今日の雇い主 荒木さんが極太の糸に絡め取られていた。手繰り寄せられつつある荒木さんの頭上の糸に向けて私は腰のナタを投擲。切断できた。荒

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惑星サウナOE6Yの開発について(正式計画名は来年以降決定予定)【逆噴射プラクティス】

惑星サウナOE6Yの開発について(正式計画名は来年以降決定予定)【逆噴射プラクティス】

 私こと鎮守院征士郎は、庸の一環で課せられた定期系外探査の最中、全球水の惑星を発見した。皇帝は、それをサウナにすることにした。光栄にもその総監督に命ぜられたのが本件の端緒である。

 今年、帝暦39621年は、今上陛下在位98年になる。
 再来年の治世100年を記念するイベントの一つとして発案されたその史上最大のサウナ建設は、例によって惑星上の全動体総燼滅作業から始めることになり、それは順調に推移

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天の光は全てカニ

天の光は全てカニ

カニだ。俺の目の前で両断されたジョンウォン――親友だった――の上半身から血肉を啜っているそれは、悪魔でも火星人でもなく、カニだ。

『こちらステーション中央本部! 何が!」
「無数のカニに襲われている! 大型犬並のサイズ! ハサミが強力で装甲服が役に立たない!」

雲霞の如く押し寄せるカニの群れに、ジョンウォンに留まらず俺たち火星開発公社警備部隊員が次々と犠牲になっていた。

始まりは突然だったと

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二千一念サバイバルの旅

二千一念サバイバルの旅

潜星術師が出立の時機 has comeと断末魔の叫びを上げた。私は朝の水やりを終えたところだった。
手順に従い航術師らが星船の隼に覚醒を促し、我々搭乗権相続者は各々瞑想を開始した。

「父さん、どこに行くの」
「西へ。旅が開始」
「やった!」

息子相当者・ベルが私の対面で嬉しそうな様子で話す。

「幹祭銀河への旅行は我々の悲願。遊尼婆娑留・楽ン土、それは人気の観光地です」
「楽しみだなあ! ねえ

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逆噴射小説大賞2019年ライナーノーツ【本番編+】

逆噴射小説大賞2019年ライナーノーツ【本番編+】

ゴキゲンよう。締切迫る中、ついに撃ち切った5発の弾丸を振り返っていきましょう。

バングズ・サイレンサーズ
(旧タイトル:バングズ・サイレンサーズ・ナイトシティポップハート)
原材料 変身ヒーロー、怪人、オフィス、お役所、ストレスやばい
味方 男男
敵 怪人(人)
パワー由来 超能力

一発目の弾丸。俺は役人ではないが役人とやり合う仕事をしている。なので理想の(こういうスタンスだと良いなくらいの)

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阿修羅の少女は蒼穹に翔ぶ

阿修羅の少女は蒼穹に翔ぶ

第三、第四腕の感覚は、ここの神経を使うのよ。と、優羽花さんが私の肩甲骨の辺りをなぞりながら教えてくれたことを、翔ぶたび思い出す。
「CP。こちらカグツチ01。対象は見当たらない」
『了解。カグツチ01、警戒を続行せよ』
静寂に沈んだ高層ビルの隙間を、私達四人は往く。
”敵対勢力”が出現して10年。適正を認められた私達は、自動的に”学園”へ集められ、学び、訓練し、”それ”と戦わされる毎日だ。

「み

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クナト・ビデオシステムズ ビデオ撮影・編集・ダビング一括お任せ ※妖魔退治もお請けします

クナト・ビデオシステムズ ビデオ撮影・編集・ダビング一括お任せ ※妖魔退治もお請けします

お客さんビデオ屋さんなんですか? へー。

レンタルとかではなく撮る方。なるほどなるほど。確かに肩が大分張ってますね。

ん? と言うか全身かなり凝ってますね。やっぱり身体使う仕事なんですか?

あー、タレントさんが「決死行! アマゾンに隊長が散る」みたいなのでもカメラ持って同じとこ行くんですもんね。正直あれはカメラマンさんのがすごい気が。

あの~……なんか情報番組とかの話って有りませんかねぇ。

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Unlocker! 美女の扉と少年の鍵

Unlocker! 美女の扉と少年の鍵

バーの照明が消えたのかと思った。

「貴方がミカルね」
油臭い水を啜っていた少年……ミカルは、遥か頭上から降る低い声で初めて、自分を呼びつけた女性によって灯りが遮られているのだと気付く。
女性という前置き無しに、巨きい。2mはある。加えて羽織ったロングコートの乾いた煙の香に、無意識に少年は緊張していた。

新聖暦333年。階層都市【アリアドネ・ヘプタゴン】。最下層。
11月だが、そこは地獄のように

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第7師団山裾防衛隊隊員録 王女と戦闘あほ

第7師団山裾防衛隊隊員録 王女と戦闘あほ

払暁王国第13王女たる私、メレディスがこの場にいることが間違いだと思ったのはこの一週間で何度も有ったが、今感じているその感情の理由は大きく変容していた。

「姫様ァ! いや、少尉殿ォ! ちゃんと隠れていますかァ!」
カスタムキャノンの流れ弾が、私のうずくまる大木の幹を削り取っていく。しかしロクロウ准尉の胴間声のほうがよっぽど大きい。
人間なのか。彼は。私と同じ。
「j0lb/」「]lq@」「gk4

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バングズ・サイレンサーズ

バングズ・サイレンサーズ

オフィス街の外れ。週末。夜。
事前の規制・誘導が奏功し、自動車と人々の音は遠い。今やこの通りは、対象と我々しかいない状況に整えられていた。
猫背気味の姿勢を不意に正し、不自然な周りの様子にようやく気付いたらしい対象は、我々を振り返る。

「遠山カナトさんですね。厚生省、消音課の王村です。こちらは同じく沼藤。ご同行を願います」
「なっ、サイレンサーズ……本当に存在していたのか」
「ええ、噂を聞いてい

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