マガジンのカバー画像

パルプアドカレ2022

32
パルプで赤い爺さんを撃ち抜け! 今年もやるぜパルプアドカレ。
運営しているクリエイター

#小説

やわらかツギハギ修繕社ブログ #パルプアドベントカレンダー2022

 どんなモノにも起源があります。物事の始まり、あれがなければ今がなかったというような。神社仏閣ならやや大仰な言葉を使って『縁起』とも呼ぶでしょう。この会社にもそういった契機が、いくつか存在します。今日は、そのうちの一つの話をさせてください。クリスマスですからね。  私が子どもだったころ。近所に、おばあさんが住んでいました。まとめた髪からほつれた、うなじの後れ毛がきれいな人でした。故国を亡くしたお姫さまが齢を重ねて生きながらえた――そのような風貌です。  そのおばあさんは日

クリスマスの約束 #パルプアドベントカレンダー2022

 私は待っています。あの人を。行ってしまった、帰ってこないあの人を。  ええ、いい人だったとは言いません。頭は良くない、甲斐性もない、世渡りもうまくない。かといって優しい人でもありませんでした。  私がそんなあの人と一緒にいたのに理由なんてありません。ただ、なんとなく、一緒にいた。離れる理由がなかったから、それだけ。  強いて言えばその方が便利だったから。  この街では一人でいるよりも二人でいた方が、生き延びる可能性が高くなります。何かを手に入れるのも少しだけ簡単になります

堕天使に熱いバトルを #パルプアドベントカレンダー2022

「ただいまー」  返事がこない。ダイニングルームのテーブルの上、出かける前に息子に用意した朝食プレートが空になっている。僕はため息ついてそれを片付け、ほか弁の袋と、先日発売したベイブレードのバリケードルシファーの箱をテーブルに置いた。  固く閉まっている息子部屋のドアをノックし、彼が不快させない程度の音量で呼びかける。 「ツムジ、いる?お昼ごはん買ってきたよ。テーブルに置いてとくね?」  7秒経過、中から「んおー」とだるそうな声が返ってきた。再度ため息。  皿洗いし

劇場版 クアドラプルプレイ ドブキュア~聖夜に響け、魔法のメロディ~ #パルプアドベントカレンダー2022

 冬場のドブヶ丘では、屋外で夜を過ごすことは死を意味する。ドブ券は屋内で過ごすための命のチケットとなり、幸運な住人たちは安く過ごせる酒場に殺到する。  そのため今日も酒場「アンディフィート」は満席だった。 ◆◆◆ 「店長、3番さんにホットビールとポテトサラダベーコンマシマシ。16番さんに目玉ブドウ焼。87番さんに生命の水おかわりで」  顔色の悪い店員が両手いっぱいにグラスを抱えてカウンターにやってきた。よく観察する者がいれば、その右手が白く曖昧に蠢いているのがわかるだろう

サンタクロース・マスト・ダイ #パルプアドベントカレンダー2022

 酷く理不尽だ、と。荒れ狂う炎を扉一枚隔てた場所で三田幸雄は思う。  人は、数十年の時を生きる。泣いて笑って恋をして。つらい時も、苦しい時も、悲しい時もある。しかしそれも、時が経てばそんなこともあったねと、語り合うことも出来るようになる。  しかし、それも死と共に終わる。幸雄は日本人だ。人は死ねば燃やされ骨に、灰になると、誰に教わらずとも学んでいた。数十年生きるのに対し、死者が灰になるのはたった二時間ぽっちでしかない。数十年が二時間に変換されてしまうのは、余りにも無慈悲だ。

豪風の又三郎 #パルプアドベントカレンダー2022

 東京の片隅に、小さな暴走族がいました。  暴走族といってもメンバーはたったの七人きりで他に整備士もおらず、溜まり場は族長の馴染みのボロいサ店です。彼らは毎日のようにバイクをいじり、轟音と共に街を駆け、益体もない話をし、たまに抗争をしたりしていました。喧嘩は負けなしで、五十人もいる軍隊をたったの七人で壊滅させたこともあります。  総長の名前は片喰アキラ。銀色の髪をオールバックにした背の高い男でした。そんな彼が率いるチームは、名をカタバミ銀餓団といいました。 -1- 鮮や

ジェド・マロース 終末の郵便屋 #パルプアドベントカレンダー2022

 皆殺し戦争が終わり、永い冬の時代が始まった。英雄になどなれなかった一兵士の俺は、故郷にも帰らず、一人で当てもなく放浪の旅を続けていた。  飢えと凍えに怯え、相争い、緩やかに壊れていく終末の世界を。 ――――――――――  20XX年、ユーラシア大陸。かつてロシアと呼ばれた国のどこか。  道路から外れた山の中。痩せた針葉樹の木立を分け入り、スノーシューと両手の杖で雪を掻き分けひたすら歩く。新雪は柔らかく、木立のこちらから山の奥に向かって、人の物ではない先客の足跡が点々

【カースドバリバリドライヘッド・フルコンボだドン】 #パルプアドベントカレンダー2022

 おんぼろトラックに揺られて高い山から下りてきて、麓の村に着いたのは今朝のことだった。  季節は冬で少し肌寒い。  バスターミナルとは名ばかりの、砂埃が吹き抜ける村外れの広場まで歩く。首都へ行く便に乗って、降りた先で諸般の野暮用を済ませた後空港へ向かう予定だ。順調にいけばクリスマス頃には帰国できると思う。首都での仕事が長引けば年末には帰りたい。  バスの本数は確か昼前に一本、夕方に一本だった記憶がある。時間通りきちんと来るわけではないので、朝から一日周辺にいろと言われた。  

【ケンタッキー・フライドヒューマン】#パルプアドベントカレンダー2022

「チキンの配達ですー」 頼んでねえけどぉ?と、気だるげな返事がインターホンから返ってくる。 「303号室のスミダワラさんであってますよねー、お支払済みになってますけどー」 配達員はインターホンのカメラにチキンのバスケットをかざして見せる。 「あぁあ……?」 苛立ちと戸惑いの混じったため息。 4秒ほど無音になった後、ドア越しに威圧的な足音が近づいてくる。 サンダルを履く音。 感情を隠そうとしないタイプの息遣いをドアの向こうに感じる。 シリンダーがガシャリと回転する音。 鍵が開い

『白磁のアイアンメイデン』外伝 「相応しき贈り物を、聖夜に」

 紅い光が、闇の中を駆けていく。  北欧、白夜の国――フィンランド。常ならば国土全てを包み込む静寂が、今宵は瀑布のような音に妨げられていた。  轟音の主は、追われる一頭の獣と、追う十数匹の獣である。  逃げる獣はトナカイ。追うは群れをなす十数匹のムース。深い闇夜に白銀の煙を巻き上げながらの、一対多、命がけのチェイス。  トナカイの息は荒い。当然であろう。なにせ彼女はこの五日五晩、不眠不休、飲まず食わずで走り続けていたのだから。  尋常の生き物には不可能な、超長時間の逃走劇。だ

AA! アイドルゼロ 妖精が生まれる聖夜 #パルプアドベントカレンダー2022

AA! アイドル特別編 妖精の生まれる聖夜 「有害鳥獣駆除の災害派遣……?」 「うん。T京は都会だからさ、警察の次の猟友会の代わりに、我々自衛隊なんだってさ」  T京、S宿区。  一様に鉄棒でも入れているんじゃないかというほど見事に背筋を伸ばして直立した二十名ほどの面々の中の一人 上赤浩史が、彼らに向かって立っている中年男性 李野順光に怪訝な顔を向けていた。李野は引き締まった視線を受けながらも、妙にリラックスした雰囲気だった。 「自衛隊と言っても……なんで我々が……? 

シンパンマン #パルプアドベントカレンダー2022

1 沸き昇る湯気。金色に透き通った湯舟。ここはどこかの温泉施設の露天風呂。癒しを求める人々の憩いの地である筈のここは、しかし今、暗澹とした雰囲気で満たされていた。 「――でさ。俺、ワンちゃんが哀れでしょうがなくて、財布に入ってた万札募金箱にぶち込んじゃったんだよね!」 「マジかよ。拓ちゃんマジ善人じゃん」 「よせって」 「こないだも掃除か何かのボランティアしてたべ?世界中が拓ちゃんみたいな人で溢れれば紛争戦争全部なくなるっしょ」 「マジ、そういうのいいから」  露

アシナガさんは待ってる #パルプアドベントカレンダー2022

+++ 「パイセ〜ン、ったく何でこんな日に外回りなんスかふざけんな」 「今日の出社が俺達だけだったからだ」 「現場担当を引きずり出しゃ良かったのにィ!」  表通りはホリデーセールで賑わい騒々しいものだったが、一本裏道に入ってしまえば静かなものだった。──むしろ少し静か過ぎるくらいに、人っ子一人、歩いていない。  立ち並ぶ広葉樹の枝に、薄らと白化粧。  地面にふんわりと積もりたての雪に足跡をつけていたのは、スーツを着込んだ二人組だった。 【蓮六市 環境政策課 害虫駆除係】

サンタ・クライシス! ~哀転望(あわてんぼう)のサンタクロース~ #パルプアドベントカレンダー2022

前:狼煙。 ――世界は、深刻なサンタクロース不足に陥っていた。  サンタクロース。それは子供に夢と希望を与える能力を持つ生物。そう、無から物質を生成する力を持つ、異界から来たりし異能生物である。「聖ニコラウスが身売りされそうになった三姉妹を哀れみ、靴下に金貨を入れてあげたのが由来だ」という言説は後付けでしかない。  その存在は国家により一定数確保・管理され、国毎に何匹飼っているかは機密情報にさえ指定されている。理由は、政治や国防の領域に思考を広げれば自ずと想像がつくだろう。