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サンタ・クライシス! ~哀転望(あわてんぼう)のサンタクロース~ #パルプアドベントカレンダー2022

前:狼煙。

 ――世界は、深刻なサンタクロース不足に陥っていた。

 サンタクロース。それは子供に夢と希望を与えるを持つ生物。そう、無から物質を生成する力を持つ、異界から来たりし異能生物である。「聖ニコラウスが身売りされそうになった三姉妹を哀れみ、靴下に金貨を入れてあげたのが由来だ」という言説は後付けでしかない。
 その存在は国家により一定数確保・管理され、国毎に何匹飼っているかは機密情報にさえ指定されている。理由は、政治や国防の領域に思考を広げれば自ずと想像がつくだろう。
 そんな訳で、赤い帽子と白髭のおじ様異能生物に関する情報が何処からも漏れぬよう、どの国家も徹底している。「サンタクロースの正体はお父さんパパだったのだ~!」というネタバラシ言い訳も対策の一環だ。実のところ、「サンタクロースなんてまだ信じてるのかよ!」と揶揄からかう子供よりも「本当にサンタクロースはいるもん!」と信じる純粋な子供の方が真実を突いているのだ。その真実をひた隠す為、世の父親達が犠牲になっているに過ぎない。

 そんなサンタクロースが不足するという不測の事態が、全世界で巻き起こっていた。機密情報なので「何故不足しているのか」は世間に出回っていないが、大体どの国も事情は同じ。

 3日前から捕えていた筈の飼いサンタクロースが、折を見て檻を抜け、次々脱走しているのである。
 その行方は、誰も知らない。

🎄🎄🎄

「――どの程度解放した?」
 12月23日夜。
 異能で生成したそりに乗り、傍受対策済トランシーバー越しにマチスはディアロへ尋ねた。
『フィンランドは完了だ』サンタクロース村、というふざけた名前の村があるのをマチスは思い出す。『資料だと此処は五番目の規模だからな、大収穫だぜ』
 一位はアメリカ、二位はロシア。三位がイギリスで四位がフランスだったと思う。米露の奪還には時間が掛かる――と定時連絡で仲間がぼやいたのを思い出した。
ワシはロシアに向かうけどよォ』通信機の奥からディアロの声がする。『マチス、お前は?』
「アメリカだ」大西洋上を滑空し半分程横断し終えたマチスは迷いなく答えた。「英仏もじき終わるからな」
『……ヨーロッパの解放が終わったのはお前のお蔭か。流石四天王トップサンタ
 ディアロの賛辞を耳で受けながらも、マチスの目線は変わらず前方の大西洋の水平線に固定されていた。その線上に、北アメリカ大陸の地平が浮き上がる。
「そろそろ到着するから切るぞ」
『ンだよ、照れてんのか?』
 マチスが無言で返すと、すぐに『冗談だ』と戯けた声が響く。
『しかし早えな。どんな速度出してんだ』
「知らん」
 正解は時速4,000kmマッハ3.3――ヨーロッパからアメリカまで1時間と少しで行ける人外の速度だ。
『……ま、何にせよまた聖地ホリゾンでな。王はいつもお前を見ている武運を祈るぜ、マチス』
「ああ。王はいつもお前を見ているそちらこそ
 電源を切って放り捨てると、途端にトランシーバーは粉々に砕け――異能で生成したものだからだ――既に遥か後方に置き去りになっていた。

 極寒の業風で顔に霜を作りながら、マチスは考える。
 サンタクロースは強弱はあれ異能を用い(特に強い者を四天王トップサンタと呼ぶ)、体の頑丈さもダントツだ。銃火器では傷一つ付かず、病毒も効かない。マチスの試算だと現在の人間如きの技術力では、サンタを殺すどころか良い勝負をするにも10年は掛かる。
 にも関わらず、もう叛逆から3日目。既に聖地ホリゾンへ全員帰還していてもおかしくないが――。
「……現地に行けば分かるか」
 マチスは思考を止めた。
 北米大陸沿岸に、サンタを撃ち落とす為の地対空ミサイル砲台がずらりと並ぶのを目に入ったからだ。流石は軍事大国、やる事成す事規模が大きいビッグだ
「まずは此の弾幕の突破だ!」
 砲台から一斉発射。体を爆発四散させる(と言ってもサンタの体は砕けない。気絶が精々だ)爆薬がたんまり詰め込まれたミサイルが、火を噴き空を翔ける。自動追尾機能によりマチスの方へ集中する。
避け続けて遊んでやっても良いが」マチスは両手を広げた。「貴様らの児戯おあそびに付き合っている暇は無い!」

 ――異能、生成。
 頭上に謎の黒い微粒子が集まり、瞬時にミサイルの形を取る。
 それを、! 国防総省ペンタゴンも真っ青な数だ。

真逆まさか、真逆! 儂らを戦争兵器として放り込んでおいて今更! これくらい想定してないとは言うまいな!」
 行け。
 口遊むとミサイルは謎のエネルギーで推進し、アメリカ製ミサイルと次々相討ちになってゆく。図らずもそれは、マチスの鮮烈な登場を演出していた。
「ほっほっほっ!」
 余ったミサイルを砲台に突っ込んでおきつつ、林立する高層ビルの合間を高速滑空する。
 紐育ニューヨーク。忌まわしき爆心地グラウンドゼロも麗しき公園も、自国民も他国民も、金持ちも貧民も全て包摂する並存サラダボウルの街。そんな入乱れる街を飛んでいると数キロ先の貧民街ハーレムから銃撃音を感知した――サンタの耳は地獄耳だ。
 方角は2時。マチスは橇を走らせる。
 果たして目的地では、赤白衣装のサンタと米軍の銃撃戦が勃発していた。既に米軍の方だけ半分倒れているが、米軍の統率が取れているのか苦戦している様だ。

 さあ。蹂躙の時間だ。

「ほっほっ」
 異能解除――橇が消失してマチスの体は自由落下し。
 異能生成――両の手にガトリングガンを握った。
「ほっほっほっほっほっ!!」
 笑う。マチスは笑う。勝ち誇った様な、沸き起こった哄笑。サンタ達と米軍はその声に空を見上げ、片や歓声、片や怒声を上げる。
 奇しくも、発する台詞は同じ。
「「サンタクロース!!!」」
 瞬間、秒速6発の奇襲が米軍の体を叩く。「ぎゃあ」とか「ぐへ」とか「おごぉ」とか変な声を上げ全員倒れていった。
 マチスが着陸するや否や、サンタ達が駆け寄る。
「マチスさん!」「助かりました!」「哀転望あわてんぼう様だぁぁぁっ!!」口々に歓声を上げるサンタ達に手で制して一言。
「無事だな?」
王に誓ってイエスボス!」
 元気良い敬礼を聞きながら、サンタ達に倒された米兵の1人に近寄った。
 息はある。
 『』の契約。サンタキング、キングス・ノワルが人間と結んだ十の契約テンコントラクトのお蔭だ。王に感謝しろ、とマチスは独り言つ。
「『門』へ急げ!」マチスは叫んだ。「場所は分かるな!」
王に誓ってイエスボス!!」
 サンタ達は敬礼の後即座に駆け去る。この調子なら直ぐに終わるだろう――。

「ぐっああああああああっ!?!?」
「何!?」
 間を開けず、逃亡した方向から先程のサンタ達の悲鳴。何者かにやられたのだ!
「……っ」
 そう。サンタが何者かにやられた。
 マチスは此処で漸く思い至る――最低最悪の可能性に。
 先にも考えた通り、現状の人間では世界最高の頭脳を集め好き放題資源を投下したとて、サンタの相手になり得ない。

 為にはどうすればよいか?

「……、か」

 吐き捨てる様に言って、目的地へ辿り着く。
 そこには呻くサンタ達と。
「……おお。久しいの、哀転望の」
 白黒のワンピース型サンタ衣装。その裾から鍛えられた手脚が伸びる、金髪碧眼のサンタ女性。拳に付着する新鮮なサンタの血が湯気を立たせていた。
「お前か」マチスは掌に爪を食い込ませた。「キャロル・アイスケーク!」
「当然」唇に薄い笑みを張り付かせ即答する。「この状況で儂でない筈が無かろうが」
 あまりにも清々しい犯行宣言。敵対するにはそれだけで充分だ。マチスはガトリング砲を構えフルオート発砲。ゴム弾ではない――37ミリの鉛弾!
「血気盛んじゃの」
 笑みを剥がさぬままキャロルは、人外の筋力と視力で正確無比に次々銃弾を避けてゆく。
「何故だ」
 マチスは弾丸を浴びせたまま尋ねる。
「何故、人間に味方する! 何故聖地ホリゾンへ戻ろうとしない! 儂らは人間の道具ではない、誇り高き王の下で暮らす生物なのだぞ!」
「逆に問うが」
 キャロルも曲芸的回避を続けたまま逆質問した。

「何故、聖地ほりぞんへ戻らんとする? 人間の道具? 、哀転望の」

「……何?」
 マチスは乱射を止めた。銃撃音が五月蠅くて聞き違えたと思いたかったのだ。しかしキャロルは繰り返す。
「道具として働く――時に子供に夢を与え、時に大人に絶望を与える。対価に『かね』をたんまり貰い、何不自由ない生活を送る。其れの何が不満なのじゃ?」
「お前……っ!」
「大体!」キャロルはマチスの怒りを遮る。「儂らは元々、其の物的豊かさを享受せんとのではないか、哀転望の! 今更道具扱いされたからとて全てを放り棄て還るなぞ、儂にとり其の方が片腹痛いわ!」
「っ、お前は何も分かっていない! 王の御意向を!」
「お前も何も分かっとらん! 儂の望みを!」
「……他にも」
 マチスは、今の言葉に敏く反応する。
「仲間がいるのか!」
「無論! 今頃『ろしあ』で暴れていよう!」
 『相互不匿』を定めた”尊い”王に感謝すると良い! キャロルの笑いにマチスは、最後通牒を突き付けた。
「捨てるのか――王の誇りを!」
 キャロルは。
「ぬかせ。誇りで腹が膨れるか?」
 堂々と破り捨て。

「――ロンドン橋落ちるLondon bridge is falling down

 脈絡無く口遊んだ。英国の童謡マザーグース『ロンドン橋落ちる』を。
 キャロル・アイスケークのを直ぐに思い出すマチスは、すかさずガトリング砲で蜂の巣に、
「……っ!」
 出来なかった。
 砲身が、中間部分でいたからだ。遅かった。
 歌は続く。
落ちるFalling down落ちるFalling down
 体が急激に重くなる。頭上から万力に圧し潰される様に骨が軋み、周りの建物の壁にも亀裂が入る。歌は続く。
ロンドン橋落ちるLondon bridge is falling down
 重圧が増大した。自分の骨が幾つか圧し折られるのを感じ、建物のヒビから細かな粒がハラハラ落ちていく。怒りと痛みに叫ぼうにも、気管すら圧され息すら困難だ。
 ――最後の1節。
どうしましょうMy fair lady!」
 刹那マチスの骨肉は幾つか潰され、建物は完全に崩壊、大量の瓦礫がマチスを襲う。
「王の『契約』もあるから死なぬだろうが」
 キャロルは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「精々足止めにはなるじゃろうて――じゃあの、哀転望の。『詮索禁制』な訳じゃし、儂のことは放ってさっさと故郷おうちへ帰ると良い」

 ……なんて強引で滅茶苦茶な。
 そう思いながら、マチスの視界は瓦礫に埋め尽くされる。

🎄🎄🎄

中:契約の下で。

「……俄には信じ難いが、その中にサンタが詰め込まれているのか」
「左様。呑み込みが早くて助かるわい」
 ――数十分後、ホワイトハウス。
 大統領室に立つキャロルは、白い袋を横に置く。際限なく物を入れられる異能袋で、子供へ配るプレゼントから大人へ手向ける兵器まで何でも入る。今の中身は、まさかの街中で乱獲したサンタクロースだった。
「ほれ。43人じゃ。確認して『かね』を『えーてーえむ』とやらに振り込んどくれ」
「確認しろ」
 大統領用机リゾルートデスクに肘をつきながら、大統領は近くの側近に命ずる。袋を受け取ったもののとても重くて引き摺る事さえできない――人間43人分だから当然だ。結局側近は助っ人を呼ぶべく通信機を手に取る。
 それを傍目に大統領は続けた。
「……確認次第、契約額を振込む」
「有難いのう」
 『サンタ1人生捕りにつき100万』――それが、大統領とキャロルとが交わした密約。キャロルは安定的に衣食住を得られるこの世界で生き残る事を――1人の生物ではなく1つの兵器として生きる事を選択した。
 その為なら、嘗ての仲間も売り渡す。
「だがな」話が一区切りついて大統領は苦言を呈する。「昨日の様な建物の崩壊はやめて頂きたい。『処理』が大変なのだ」
「善処するわい」
 そんなキャロルに大統領はこれ以上の口答えはせず、溜息混じりに続けた。
「では、次も頼む」
「勿論――と言いたいところじゃが」
 キャロルは人差し指を立てて話の流れを変える。
「1つ問題があってのう。排除せん限りはこれ以上の奪還は難しろうて」
「……問題?」
 大統領は一瞬だけ視線を斜め下に向け、直ぐに気付きキャロルに向き直る。
「貴女と四天王トップサンタが出たのか?」
「ほんに呑み込みが早くて良いのう」
 賢い男は好きじゃぞ。キャロルは指を立てたまま続ける。
「哀転望、まちす・すたらいと。物質顕現能力は随一の男じゃ。実質最強と言っても良かろう」
製歌体せいかたいの貴女よりも?」
「彼の世界では、の」
 製歌体、キャロル・アイスケーク。
 歌の解釈を起点として現実を歪める能力を有する四天王トップサンタ。その解釈は一定の整合性があれば発動可能で、先の『ロンドン橋落ちる』では橋の崩壊という詞を起点に周囲の物体の崩落を引き起こした。
 滅茶苦茶な能力だが、所詮歌わないと発動出来ない為隙が生まれ易い。またタネが知られて仕舞えば対策も立てられる。その意味では無制限に物質を生成するマチスに対して分が悪い。
「じゃが、此の世界では話が別じゃ」
 ――使うタネが分からなければ、いつ、どう発動するのかも不明。瞬時にキャロルは、正体不詳の攻撃を放つ脅威と化す。それを人間の世界なら実現できる――此処には、腐る程歌が存在するのだから。
「一度退けてはおる、じゃが再び三度四度と立ち上がり続けるじゃろう」
「それは、ジリ貧になるのでは?」
 大統領が尤もな疑問を呈するが、キャロルには想定済みだ。
「じゃから、次で諦めさせる。布石も幾つか打っておるわい」
「では」大統領は、キャロルが立て続ける1本指に注目する。「その指の数だけ払えば良いのか?」
「その通り」
 指の数は1つだが、まさか今まで同じ100万ミリオンでは有り得ないだろう。
 ならば。
1000万テンミリオンか?」
「桁がちと違う」
 大統領が問うと、キャロルは人差し指を左右へ動かし否定し、桁違いに大きな額を言い放つ。

10億びりおんじゃ」

 大統領は絶句するが、キャロルには全く値切りに応じる気が無い。
「『あめりか』の『こっかよさん』とやらに較べれば安いもんじゃろ? 10億などという端金」
 納税の義務を遂行する国民が聞けば激昂する台詞だが、残念ながら彼らの耳に届ける気は大統領に無い。選挙戦に勝てなくなる事を恐れるからだ。
「分かった」
 拳を震わせ苦渋の決断をすると、キャロルは微笑んだ。
「良い返事じゃ」
 契約成立――それと同時大統領室の扉が開く。重過ぎる白袋を運ぶ助っ人のご登場だ。
「ふむ、こちらも上手くいった様じゃな」
 そこに立っていたのは。

 サンタクロース。
 その青い瞳に光は宿らず――その事実にキャロルは口元を歪めた。

🎄🎄🎄

 紐育ニューヨーク前夜イブの昼下がり。
 銃撃戦が展開されるのは閉鎖された貧民街ハーレムの一区画。最初に読者諸兄に説明した通りサンタクロースは秘匿存在であるから、都会部では誰も彼も何も知らない(仮に知られたとてアメリカで銃撃は日常茶飯事だ。それでも昨日の倒壊の様に拙ければ『処理』が行われる)。
 明るいクリスマスソングも聞こえてくるまろやかな快晴の下で穏やかに過ごしていた。
「かしこまりました。お待ち下さい」
 ウェイターは頭を下げ奥へと退がる。
 その席にはクリーム色のタートルネック・リブニットに黒いショートジャケット、青いデニム姿の金髪の美女が座っていた。サングラスの奥にはサファイアの瞳。
「……ふむ、中々悪くない雰囲気じゃ」
 サンタクロース、キャロル・アイスケーク。お洒落した彼女はレストランの椅子にゆったり腰掛けたまま、100ドル紙幣を雑にテーブルに置いた。
 注文は農務省認定プライムポーターハウスステーキ(3人前)。カレイの仲間のヨーロッパソールのグリル。シーザーサラダ。野菜の盛り合わせ。フライドポテト。
 1人で食べるには多過ぎるし、明らかな散財であったが、これくらい彼女には訳ない。
聖地ほりぞんに無いものばかりでわくわくするのう」

 ――サンタクロース。自称種族名『ホワール』。彼らの棲息する異世界聖地ホリゾンは全くの不毛で、植物1つ生えない。彼らも生物である以上食わねばならないが、自領の土地を豊かにするには彼らの知識や技術では限界がある。
 従って、他世界に侵攻し物資を貰うこととした。そこで目を付けたのがこの人間界だった訳だ。
 現王キングス・ノワルは戦いを好まないので、帝国主義的な侵略ではなく便契約で済ませる事とした。
 キングスの二つ名は制飾者せいしょくしゃ。対象に契約という形で制限を課する力。書面上であれば無制限に、書面が無くとも各個30までは制限を課せられる。この異能を使い(半ば脅して)人間と『十の契約テンコントラクト』を結んだ。

裏切禁制。
詮索禁制。
開示禁制。
権利認定。
尊厳認定。
相互不殺。
相互不愛。
相互不奪。
相互不匿。
相互扶助。

 纏めて『五相互三制二認定』として知られる契約は、凡ゆる情報媒体に掲載され知らぬ人は居なくなった。この契約の下『相互不奪』と『相互扶助』を根拠に、衣食住を対価に丁度容姿が似るサンタクロースの仕事を宛がった――それが今の原型だ。
 これももう数百年前の話。それだけの時間があれば人間の醜悪さと欲望に呑み込まれるには十分で、子供に夢を与える存在だったサンタクロースは、異能の有用性に目を付けられ今や戦争兵器だ。(尚契約の『相互』は(相互不殺を除き)「人とサンタ間」という解釈の為、人間同士の争いには適用されない。人が勝手に自滅する分には構わないのだ。)
 サンタを制す者が世界を制す――世は正に、大サンタ時代。
 その波に乗る四天王トップサンタキャロル・アイスケークは兵器として、聖地ホリゾンに帰還するサンタ達から独立して金稼ぎと豪遊をしていた。不毛の地での貧しい生活を全て忘れるかの如く。
 キャロルは、100ドルチップと交換に次々運ばれてきた料理を前に目を輝かせる。
「美味そうじゃのう」
 料理が全て揃い、行儀良く並ぶフォークを無造作に掴み、鉄板に焼かれるステーキの塊へ。

「……興が醒めるのう」

 力のままに突き刺した。
 殺意を含んだ目線の先。
「……早く食えよ」
 四天王トップサンタ、マチス・スタライト。流石はトップ、既に傷は全快していた。しかし赤白のサンタ衣装だったので、周りからシャッターを切られインスタとかツイッターにアップされていた。数百年にわたる世界のお偉いさんの努力が一瞬で崩壊した瞬間だった。
「お前は早よ着替えよ。何故その恰好なのじゃ」
「隠す意味も無いからな。どうせ今日には帰る身だ」
 ……云う事聞かぬな、と悟ったキャロルは溜息を吐いて話を戻す。
「兎も角も、去れと云ったんじゃ。このつんぼめ」
「その表現は人間界じゃ中立政策ポリコレに引っ掛かるみたいだぜ。人間界で暮らすなら覚えとけ」
 それに、とマチスは料理を舐める様に見回す。
「興が何だ。お前の都合で資源食い物を無駄にするならこの場でしょっ引く。儂らは此の資源を求めてやって来たのだからな――あの不毛の地から」
「……何故じゃ」
 キャロルはフォークでステーキを持ち上げ、そのまま噛み千切り頬張る。
あえ何故あひのひゃまをふるおひゃ儂の邪魔をするのじゃ
「……人間界で生きてく気あるのか?」
 口に食べ物を頬張ったまま食うなと忠告してやると、キャロルは肉の塊を飲み下し口にソースを付けたまま笑う。
「所詮道具の儂に、一々人間の所作を真似ろと?」
 片腹痛いわ。
 今度はフライドポテトとシーザーサラダで頬をリスの如く膨らませ、暫くして呑み込んだ。
「……っ。まあ待っておれ。食事を終えたら存分に叩きのめしてくれる」
「当然だ」
 資源は大事だからなと思いながら、サンタ道具サンタ異生物は向かい合う。戦いが始まる食事が終わるその刻まで。

🎄🎄🎄

「美味であった」
 空の皿を前に満たされた腹を摩る。後はキャロルが金を払うだけ。
 精算が終わった瞬間、戦闘が始まる。相互不殺に縛られた凄惨で穏当な戦いが。
「さて、と」
 キャロルはピッタリの金額をジャケットのポケットから掴み出し、伝票と共にウェイターに渡す。
 マチスは既にテーブルの下の手で拳銃を生成済み。後は火蓋を切るのみ――の筈だった。
「……のう、哀転望の」
 キャロルは微笑んだ。敵意たっぷりに。

「儂がのほほんと食事をしただけと思うたか」

 マチスの後頭部に衝撃が走る。
「っ!?」
 後ろを振り向くと、そこには。

 灰皿を持つ男性客。
 その後ろに、男性客。女性客。女性客。女性客。ウェイター。コック。ウェイター。強盗。ウェイター。男性客。女性客。レジ打ち。全員が立ち尽くしていた。
 そして米国人も日系人もスペイン系も誰も彼も、瞳が青色に統一されていた。
「……お前」
 殺意を孕んだ目でキャロルを見るが、当の張本人は何処吹く風。
「此の位は想定すきじゃて」
 キャロルはゆったり口遊む。
「――『赤い靴履いてた女の子』」
 童謡『あかいくつ』。
「『異人さんに連れられて行っちゃった』」
 その曲に乗せ、店内全員の意識を乗っ取り自らの尖兵に。
「儂はこの『びじねす』を終わらす訳にはいかぬのでな」
 ――倒せ。
 キャロルの一声を皮切りに、一般人がサンタに襲い掛かる。

🎄🎄🎄

後:サンタクロース・イズ・リーヴィン・フロム・タウン。

 厄介極まりない!
 マチスは初め、眠り粉を生成して人間全員を昏倒させようと企んだ。人間を相手するのは骨が折れる――契約『相互不殺』によりサンタは人間を殺せぬため手加減する必要があるのに、人間は力量的にそもそもサンタを殺せないので殺す気で戦えるからだ。
 眠り粉作戦は果たして成功した。が、キャロルが気絶を許可しない。
「――『誰も寝てはならぬNessun dorma! 誰も寝てはならぬNessun dorma!』
 プッチーニ『トゥーランドット』のアリア。
 本来は文脈があって「寝てはならぬ」訳だし、大体テノール楽曲なのだが、キャロルにとって所詮道具。尖兵が気絶しなければ何でも良い。
 白目を剥いて人々が立ち上がる。人形劇の様に奇怪な動きをしながら。
 滅茶苦茶だ、と舌打ちをして次々操られた人間達を倒すが、その度立ち上がられるので中々突破出来ない。
「『御姫様、貴女もだTu pure, o Principessa貴女は冷たい寝室でnella tua fredda眺めておられるのかstanza guardi愛と希望にle stelle che tremano震える星々をd'amore e di speranza』」
 殴る。気絶。立ち上がる。殴る。気絶。立ち上がる。途方もなく徒労を繰り返すマチスに、更に向かい風が吹き荒れる。
 レストランの扉が開く。そこには。
「お前らっ!」
 サンタクロースの群れ――青い瞳キャロルの尖兵になってしまった後の。マチスの怒りに、キャロルは有名な旋律と共に歌って答える。
「『然るに秘密はMa il mio mistero私の胸の中にあってè chiuso in me誰も私の名前を知る事はないil nome mio nessun saprà!』」
 旋律が盛り上がる。綺麗で芯の通ったソプラノと共に、操られる者は次々マチスに襲い掛かる!
「『いいえ、然し貴女の唇にはNo, no, sulla tua告げて差し上げましょうbocca lo dirò陽の光が輝く時にquando la luce splenderà!』」
 詰みだ。
 洗脳を解く術は無い。無力化しようにも相手は意識を失わない。人間とサンタ異能生物が混在するため手加減しか出来ない――『相互不殺』も含めたキングスの契約を破れば最後、待ち受けるは魂の滅殺。それは、如何に四天王トップサンタと言えど恐ろしかったからだ。
 灰皿。包丁。異能強化キック。熱湯。異能製毒。アイスピック。異能弾。ピーラー。再生は余裕で追いつくが、反撃の術を失い滅多撃ちだ。
「ほっほっほっほっ!」
 笑う。キャロルは笑う。勝ち誇った様に沸き起こった哄笑を放つ。
「どうした、哀転望の! 儂を倒すのでなかったか!」
「……」
「だんまりか! 彼れだけ偉そうな事をほざいても所詮は只の道具にすら勝てないのじゃ、お前は!」
 倒せ。
 キャロルは一言命じた。人間は各々の武器を持ち、サンタは各々の異能を使い、マチスに向かう。

 その刻。

「……ほっほっ」
 マチスは笑った。
「ほっほっほっほっ」
 笑った。
「ほっほっほっほっほっほっほっほっ」
 笑う。
「……壊れたか?」
 キャロルは眉を顰めるが、やる事は変わらぬ。ただ倒して追い返すのみ。それで自分の安泰な生活が守られる。
 失う訳にはいかない。あの不毛でひもじい土地に戻りたくない!
 その為なら、戦争の兵器にでもなる覚悟だ!
「倒せっ!」
 人間とサンタはマチスに一斉攻撃した。全ての攻撃が、見事に命中する。
「……っ」
 しん、とレストランが静まり返る。
 ……終わったのか。キャロルは息を1つ吐く。
 意外にも呆気なかった。これで後はマチスを『門』に送り返すだけ。念の為に異能紐で手足を縛っておくか――。

「随分派手にやったじゃねェの」

 突然、店内に正気の声が響く。
 見れば隣に長身の男――クソ寒い真冬に、短パンと『I ♡ NY』とプリントされた半袖シャツとを着た風の子同然の男が、優雅に紅茶を啜っていた。
 キャロルは、この男を知っている。
「……贈利者おくりものの」
「御名答ォ」
 贈利者、ディアロ・ホワイトクライスト。
 マチスと通信機越しに会話し、ロシアへ赴いた四天王トップサンタ。対象にありとあらゆる利点を付与する、能力付与ギフト型のサンタだ。
「しかし美味ぇな。紅茶……だっけか? 服のセンスも良いしよォ、此りゃ人間界に留まりたくもなるわな」
「……儂の仲間となるか?」
「お断りだ」
 即答し紅茶を啜る。その瞬間、周りの操られ人間とサンタ達は一斉にディアロに武器を向けた。しかしディアロは落ち着いたまま。
「此処に残る事は、別に儂ァドーデモ良いんだがな。ただ、『四』天王ってのに3人じゃ締まりが無ェだろ?」
「儂の代わりを見繕えば良かろう」
聖地ホリゾンも人材不足なんだよ」
 紅茶を飲み干し、かちゃりと机に置く。同時に顳顬こめかみに銃口。それでもディアロは口調を崩さない。
「後はお前1人なんだ。ちゃっちゃと諦めて帰って来てくれねえか?」
「……1人、じゃと?」
 キャロルの眉がピクリと動いた。
「『ろしあ』に居る『総否人すのうまん』のは!」
 倒されたのか、このディアロに。
 武器が更に体に近づけられる。あと1動作で攻撃できる状況に、「おいおい」とディアロは両手を上げた。
「人聞き悪いぜ! 儂のせいじゃねえよ」
「なれば、誰の仕業じゃ!」
 キャロルは激昂するが、ディアロは至って冷静に答える。
「……まー強いて言えば、のせいだろ」
「……は?」
 キャロルの困惑を見て「つまりな」とディアロは優しく言い直した。

「アイツ、

「…………は?」
 何を言われたか本当に理解出来なかったが、「アイツからの伝言だ」とディアロが続ける。
「『ねみィので実家に帰らさせて貰いやすです〜。人間界に住むならテメェおひとり様で勝手にしやがれです〜』だってさ。戦闘中に欠伸して、勝手に『門』に帰ってった」
「……」
 総否人スノーマン、ノエル・パウダースノー。
 指定したモノを全て消し去る能力――サンタは何も与えるばかりではない。重い病や嫌な記憶を消し去る事も、人によってはプレゼントだ。正しくディアロと対極の四天王トップサンタの1人。
 彼女は比喩表現でも何でもなく、一頻り暴れた末に、すっかり元に戻してから帰還した。
 この事実を前にキャロルは。
「……ほっ」
 笑った。もう笑うしかなかった。そして、進むしか道はないと悟る。
「ほっほっほっほっ!! 左様か! ならば儂はもう迷わんぞ! 哀転望のは戦闘不能、総否人のは帰還、後はお前だけじゃ!」
「馬鹿か」
 ディアロはくつくつと嘲笑った。

「マチスがお前如きに倒されるタマかよ」

 瞬間。
 ディアロを囲む人とサンタが吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。そのまま謎の物質により四肢を拘束。
「なっ……!」
「なあ、キャロル。考えた事あるか」
 目を見開くキャロルに、ディアロは目を細めて笑った。
「儂らは能力を冠した二つ名なのに、何故マチスだけ通り名がなのか」
 ざっ、とマチスの周りに大量の黒い粒子が舞っていた。此迄見た事の無い量の、物質生成粒子。
「答えは単純――からだ」
 マチスが起き上がる。敵意と生命力を煌々と宿す眼力に、堪らずキャロルは一歩退いた。
「物質生成能力。どんな奴にも備わってる基本技能だ。だが、マチスのは。技術ってのは、突き詰めると全くの別物になっちまう事も往々にしてあるが、当にそれだな」
 退がるキャロルに追い縋る様に、黒い粒子が彼女を包み込んでゆく。
「ま――精々頑張れ」

 キャロルの周りが、黒一色に染まった。

■■■

「……何、じゃ。此は」
 何が起きたのか、何処が壁なのか、足もしっかり地面に付いてるのか、全て判別が付かない。何より幾ら走っても端に着かない。所詮粒子に囲まれただけの筈なのに――。
「……生成、じゃと」
 物質生成、なんて生易しいモノじゃない。
 マチス・スタライト。哀しみを望みへ転ずる史上最強のサンタクロース。彼は、漆黒に塗り潰された一個世界を創り上げる事が出来る。この能力を知る一部のサンタは、この世界を『寂夜サイレントナイト』と呼んだ。
「巫山戯おってからに……!」

『よう』

 遥か上空から、マチスの声が反響した。
『気に入ったか? 儂の世界は』
「クソ食らえじゃ、哀転望の」
 親指を下げるキャロルに『つれねえな』と笑う。
『この世界は切札の1つでな、発動にえらく時間が掛かる。儂の苦労に敬意を表しても良いものを』
「誰が!」
 キャロルはまだ悪態を吐くが、
『……まあ、此処に来たからにはしてやろう』
 南極よりも冷えた声に、喉をひゅっと鳴らす。
 怯えたのだ。四天王最強トップオブトップサンタに、その正体不明さに。
「――なれば!」
 だが腐っても四天王トップサンタ。怖気付いて結末を甘受する筈がない。
 口遊む――破壊の為の二節を。
「『ハンプディ・ダンプティHumpty Dumpty塀に座りsat on a wall』」
 マザーグース『ハンプディ・ダンプティ』。
「『ハンプディ・ダンプティHumpty Dumpty大転びhad a great fall』!」
 キャロルは『此の世界が壊れ、そして元に戻らない事』を歌う。
 しかし。
「……何故、じゃ」
 何秒経っても、何十秒待っても、いつまでたっても此の世界は壊れなかった。
「何故壊れぬ……っ!」
『なあ、おい?』
 嘲りを含む声が響く。
『誰もが考える普通の攻略法に、儂が対処しない訳がないだろうが』
「何を、した」
『破壊される側から生成し直した。只それだけの事だ』
「この……っ、がっ!?」
 キャロルは首根っこを何かに掴まれる。周りの暗闇に溶け込んでいるが、黒い手を生成し首を絞め始めたのだ。
「ぐっ、あ……っ。儂を、殺す気、かっ!?」
 明らかに殺せる力で締め上げられ、キャロルは恐怖にもがく。
 その様子にマチスは笑う。ただ笑う。勝ち誇った様に、沸き起こった笑いを放つ。
『王の禁制ある限りは殺さねえよ。寧ろお前は「裏切禁制」に背いて殺されそうだが、何で発動しないんだろうな?』
「知ら、ぬ!」
 それは単純に裏切の要件を満たしていないからだ――人間に味方しサンタに敵対した訳では無く、あくまでサンタからの独立の為人間を利用したに過ぎない。
 王個人としてはそれを許さないが――何せ聖地ホリゾンは人手不足。キャロルに居なくなっては困るのだ。
『まあ、良い』首を絞める強さが増す。キャロルの意識が薄れる。『お前は此処で儂に捕まる。その後の処遇は王が決められるよ』
「……お、前をっ」
 キャロルは、声を絞り出した。
「お前、をっ! お前を、倒せば! 10、億が、手に入る……のに!」
 その言葉を聞いたマチスは、からっと笑って答えた。
『10億くらい、人間に持たせておけ』
 突如、首を掴む謎の手の力が緩む。咳込むキャロルが困惑に満ちた疑問を放つより前、マチスは構わず告げる。
『良いか、よく聞け』
 それはまるで、説得するかの如き物言い。
『王が、何もされぬままこの人間界を去ると思ってるのか?』
「……何、じゃと」
 話に食い付いた。マチスは釣針に掛かった彼女を引き上げにかかる。
『元々の目的は資源の確保。しかし、王はこのままでは資源が尽きると思われた。人の数は増える一方、儂らのせいで戦争も激化し生産が鈍化しつつある。このまま居てはどの道共倒れだ』
「……何が云いたい」

『王は聖地ホリゾンを復興なされるつもりなのだ。この数百年かけて存分に吸収した知識と経験で以てな』

 キャロルの言葉が止まった。
『侵攻を続けるには体力が要る。攻撃して占領或いは同盟を組み、その関係を保ち資源を得て、資源が不足すれば次なる地へ――狩猟採集的な方法ではいずれ限界が来る。反面、聖地ホリゾンで農耕牧畜的な方法で資源を生産し、故郷で生きる方が有意義だと思わんか。それを達成できる程この数百年人間は進歩を続け、儂らはそれを見届けてきた――故郷を発展させる手段は飽く程にある』
 さて、とマチスは促す。
『時間も無いから今すぐ決めろ。乗るか反るか』
「……ほっほっ」
 キャロルは、脱力した。
「元々選択の余地などないじゃろうに」
『まあな。さて、返答は』
「……乗る」
 諦念を滲ませた声だった。
「儂も、聖地ほりぞんで裕福に暮らしたいからのう。どの道捩じ伏せられ送還されるのじゃったら、此処で媚を売って穏便に引き摺られる方が良い」
『懸命だな』
 キャロルの首から完全に手が離れた。同時に黒い世界にヒビが入る。能力が解除されるのだ。
「……ったく、強引な奴め」
 キャロルは苦笑した。
『お前が言えた口か』
 マチスも苦笑して答えた。

🎄🎄🎄

終:残火。

 ――12月25日。
 世界で数百年ぶりに、サンタクロース異能生物不在のまま迎えたクリスマス。煌びやかな電飾、人々の笑顔、温かい食事。薄暗い路地、鬱屈とした顔、残飯。二極化された人々の生活は、例年通り過ぎ去っていく。
 一方民衆と無縁な場所で、政府は再び核で以て外交を仕切直さねばならず頭を抱えていた訳だが、そんな彼らもどこかホッとしていた。異能生物は結局、人間の手に余る存在なのだ。

 かくして『サンタクロース』は戦争兵器としての概念が薄れ、徐々に元の通りへ。
 良い子に贈り物を届ける優しいおじいさんに、戻ってゆく。

🎄🎄🎄

「……ん」
 とある一家のとある部屋。
 寒さを締め出す様に布団に包まっていた1人の子供が、物音に目を覚ます。
「……だあれ?」
 子供の声に少し肩を跳ねさせるが、すぐに振り向いた。ベッドの横に白い袋を置き、赤白の衣装を見に纏う白髭の人。
 紛う事なくサンタクロースだった。
「……おとーさん?」
 サンタはその問いに緩やかに首を横に振る。
「違うよ」
 その声は何だか作っている様な気がしたが、それだけでは父親なのかどうか断じられなかった。
「……んぅ」
 眠さが勝るのか疑問を上げられず再び目蓋を落とす。夢の世界に飛び込んで行く子の頭をサンタは撫でた。少し不器用さが目立つが慈愛に満ちて優しい愛撫に、ふわりとした気持ちになって眠りに着く。
 微笑ましい子供の姿にサンタは口元を緩め、静かに「ほっほっほっ」と笑いながら、一言残して部屋を後にした。


「メリークリスマス」

fin.



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