大切なことと向き合うことが出来るのは

クリスマスの思い出

こんなにも穏やかなクリスマスを過ごしたのは、とても久しぶりでした。誰もが認める料理人を目指していた僕にとって、これまで、地獄のようなクリスマスを味わってきましたから。

当時の飲食店といえば、年末の怒涛の忘年会ラッシュから、そのままの勢いで、クリスマスまで毎日がお祭りのようでした。

毎年、12月がやってくると、とても気が重くなるものでした。深夜遅くに帰宅しても、寝たのかどうかわからないまま、出勤して、朝からフル回転で仕込みをしていました。

街の華やかで浮かれたような感じとは、打って変わって、調理場は忙しさのあまりに殺気立っていました。そこで、ちょっとでもミスをしてしまうものならば、ひとたまりもないくらいの鉄斎をうけてしまうのです。

それが、ある年を境に一遍しました。
僕が、夢を諦めてしまったからでした。

確かに、これまでのクリスマスは地獄のような忙しさでした。だけど、それは、ある意味、立派な料理人への勲章とも言えるもので、辛かったけど、僕は満足していたのでした。

12月は何ひとつ個人の予定を入れることは出来なかった。でも、それでもよかった。それが、誇らしくも感じることだってできたのですから。

それが、ある年を境にひとつも予定がなかったのでした。

何もなさすぎて、ひとり家の大掃除をしようとしても、ひとり暮らしの家を掃除したところで、誰かに褒めてもらえる訳でもないから、やる気が起きませんでした。僕は、ただ、懐かしい思い出に浸るしかありませんでした。

僕がもっと強くて頑丈であれば、僕がもっと強い意思を持っていれば、僕がもっと器の大きな人間だったら。僕は、弱さのあまりに精神を壊してしまった。ある日、急に簡単な計算もできないくらいに意識が常に朦朧としたのです。あの時の僕の目は間違いなく死んでいたんです。どうしたものかと医者に見せると、うつ病と診断されたのでした。

街の賑やかさもクリスマスツリーのイルミネーションも、みんな僕を否定しているようで、嫌いでした。これまでの僕の願いは何ひとつ実現されていない。そう思うと虚しくなっていました。ふさぎこんだ僕の現実は、毎日がつまらないものだったのです。

全部、僕が悪かったのか。そう思うと悲しくて、くやしくて、涙が自然とこぼれるのでした。

今の自分を大切にしたい

こうした経験をしたから分るのです。例え、自分の人生であっても、全部が全部、背負ってしまう必要はないだってこと。うやむやにしたい過去もあれば、消し去りたい過去だってある。今の僕は、未だに過去に引きずられながら生きているのは間違いないのです。

昔をよく思い出しては落ち込むし、未だに昔のことが夢になって襲い掛かってくるのです。まだまだ、受け入れられない部分もいっぱいあるのです。いつも過去に泣かされている気がする。時折、そこに逃げ出すこともある。

だから、向き合いたくなければ、向き合わなくてもそれでいいと思う。人のせいにしたっていい。社会のせいにしたっていい。過去はしょせん過ぎ去ったものでしかないから。最終的には、美化されていい思い出に変わるものだから。

だけど、たったこの瞬間の気持ちだけは、責任を持つ必要があると思います。悲しいなら悲しい。楽しいなら楽しい。様々な選択肢のなかから、ちゃんと正直な気持を選んであげる。

そうでなきゃ、過去の中の自分を持ち出しては塞ぎこんでしまうしか、今の僕のように選択肢がなくなってしまうのです。

あらゆる本には、「自分が現実を作っている」そう書いてある。

まさに、その通りなんです。僕自身、今、ポジティブにもネガティブなものにも、今の気持ちを変えられるのですから。

今の想い

僕は、ただ、ポジティブになろうとか。前向きに生きようとか。明るく生きなきゃ損だとか、何事も諦めてはいけないとか。それだけを伝えようとは思いません。人生の中では、そうでいられないことが多々あるものですから。

そこから、もがいてでも希望の光を見つけ出し、乗り越えていこう。その過程にこそ、スポットを当てるべきだと思うのです。人生上手くいっていると、感じられているなら、誰もがポジティブであるし、素晴らしい自分の在り方になっているものだと思うから。

上手くいっていないときにこそ、人生とは、自分とは、そういった大切なものと向き合わなければいけないからです。クリスマスを迎えて、僕自身がまた過去を思い出し、昔の自分とこうやって向きあってみたように。大切なことと向き合う事ができるのは、上手くいかない時こそであり、ネガティブな感情が生まれている時なんです。

今の僕が、まだまだ、ポジティブになり切れていないのは、こうした大切なことともう少し、向き合う事が必要だってことなのかもしれません。

今日はクリスマスです。
どうか、素敵なクリスマスをお過ごし下さい。

メリークリスマス。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
メルシー