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2021年8月の記事一覧

きたないとこを見せれるひとは、たいしてきたなくない。

きたないとこを見せれるひとは、たいしてきたなくない。

老詩人が言った。
きたないとこを見せれるひとは
たいしてきたなくないよ。
きれいをたくさん求めるひとは
きたなすぎるからさ。
その分、きれいが必要なんだ。
美しさは欠落の反動さ。
まあ、真実なんてどうだっていい。
夢見た時間が長い方が幸せさ。
夏の血はピンク色。
さあ嘘をつこう。容赦なく。

ただ生きて終わっては、もったいない。

ただ生きて終わっては、もったいない。

お料理は、ただ食べて終わっては
もったいないと思って
進化したのではないか。
ただ食べてればよかったはず。
でももっとそのうまみを美しさを
楽しみたかったのでは。
デザインもうたも絵も詩もそうかも。
ただ生きて終わっては
もったいなかったからでは。

思い出は取り戻せないけれど、味は取り戻せる。

お料理しながら
いままで美味しかったものを
思い出す。

アンダルシアのガスパチョ
ブルターニュのムール貝
アマルフィのモッツァレラ
京都のすぐき
母のなすの煮浸し

思い出は取り戻せないけれど
味は取り戻せる。

近づけられる。

それはこの世の魔法みたいだ。

身体の中の海のうたを。

身体の中の海のうたを。

クマはこころの弱音ではなく
身体の声に耳を澄ました。
曲がった軸があり
凝り固まった部分があった。
それをゆっくりと正しほぐした。
そしてさらに身体の中の
音を聴いた。
身体の中の海のうたを
遺伝子が記憶している
風景のうたを
混沌の中でいつも生きようとする
いのちのうたを
黙って聴いた。

どうやって生きてこれたの?

どうやって生きてこれたの?

ひとが生きてゆけない
吹雪の荒地があった。
ある日、男が荒地の向こうから来た。
どうやって?と訊く村人に
男が答えた。
考えていたんだ。
もしも自分が詩とうたがつくれたら
ちいさな花屋と
パン屋に本を置いてもらって
うたをうたえたらって
そんな夢みたいなことを
考えていたら
生きて来れた。

背泳ぎしながら泣くのが好き。

背泳ぎしながら泣くのが好き。

スペースシップは
そこに舞い降りてから
長い時間が経ち化石化した。
人間はその中にプールをつくり
泳いだ。
宇宙人は見た目は人間と同じ。
たまに一緒にプールで泳ぐ。
背泳ぎが好き。
背泳ぎしながら故郷の星の
昔の恋人のことを思い出して
泣くのが好き。

SNSは病んでるの?

SNSは病んでるの?

SNSは病んでるの?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
そうだね。でもね、コツコツ
お料理しているひとの
投稿を見てつくりたいと思う。
盛り付け、お皿、調光を参考にする。
世界はどう悲しむかではなく
どう使うか、さ。
世界といのちを使いたおして
にっこり笑って終われるといいね。

脳の考えることはいつも大袈裟であてにならない。

脳の考えることはいつも大袈裟であてにならない。

ある町に脳を気にしないきつねが
暮らしていた。
悲しい、絶望的、死にたい、
脳の考えることはいつも
大袈裟であてにならなかった。
脳がなにか考えそうになると
ストレッチをして血流を良くし
料理して食べて睡眠をとった。
身体は自分で切り傷をなおしたり
前向きで無口で
よっぽど信用できた。

ずっと壊れてていい。

ずっと壊れてていい。

うさぎの女の子が
ふと目をあげた。
ブラインドが壊れてるから
お月様と目が合った。

女の子は思った。
ずっとブラインド
壊れてていい。

それは強い約束。

それは強い約束。

悪い知らせで充満した
行き場のない真夜中の地下通路で
疲れきった男はそれを見た。

テーブルセッティングと
花とケーキ。

それは強い約束のようだった。

翌日そこにはなにもなかった。

けれども男は家で
テーブルを片付けて
花を飾った。
#コナフェ詩集

今日の私がいちばん若い。

今日の私がいちばん若い。



老いた吟遊詩人が言った。
ああ、いろんなものを見たさ。
夕暮れの空を焼き尽くしながらたわむれる
つがいのドラゴン。
北の果ての凍ったままのオーロラ。
幽霊船から眺める雨の天国。
それをうたにしているうちに、
うたの中を旅するようになった。
毎朝旅先で目覚める。
そして思う。
今日の私がいちばん若い。

真理は現実の方にある。

真理は現実の方にある。

きつねは、
お料理の素材と話した。
火加減と話した。
自分の身体と話した。
現実と話した。
なかなか難しかった。
自分のいいたいことだけ
自分の理想だけ
自分の悲しみだけ
話している気がした。
でも、真理は現実の方に
ある気がした。
だからまた話した。

空気が葡萄の分だけ重たい。

空気が葡萄の分だけ重たい。

生まれ故郷から
送っていただいた
巨峰。

ちいさな頃
乾いて気持ちのいい夏の夜に
葡萄畑のあぜ道をよく歩いた。

ずっしりと重そうな
巨峰が暗闇にたくさん
垂れ下がっていた。

空気が葡萄の分だけ
みずみずしく重たかった。