ayumu aizawa
短いおはなし
神様が言った。まいど！アナウンスが足りんくて堪忍な。人間の生は、うまくいく物語やないねん。うまくいかなくて、ダサくて、無力で、失って、でも、食べて笑ってあきらめらんない、それはそれは苦くて愛おしい物語やねん。まあ、花やら海やら用意しといたから、傷だらけの傑作にしてや。
詩の学校で、ジムモリソン先生が言った。クルマはほんとは彷徨う魂の乗り物さ。本も彷徨う魂の乗り物。本屋は行き先不明の船が並ぶ港。音楽も彷徨う魂の乗り物。レコード屋は極秘逃亡できる空港。魂は時々彷徨わせないとね。善悪も価値も評価も関係なく。いつかまた、彷徨った果ての未明で会おう。
お料理と同じく庭も 悲しい、つらい、という自我や現状と 関係なく、その価値がある。 3.11のとき、庭は満開だった。 庭は空気を読まない、のではなく ひとが、現状の空気を 読みすぎている。 読むべきは、豊かな生の胎動。 食も庭も音楽も写真も自我を越えて その豊かで無闇な胎動につながっている。
「信じられる神話がひとつあれば」 入稿した。 細畑理奈さんのお部屋で 細畑さんがつくった衣装で。 3時間で9着着てもらい iPhoneで撮影。レタッチして タイポグラフィとレイアウトして 144ページの本にした。 新しい神話ができた。
「ヴァンパイア」 満を持して入稿した。 「魔女の帰郷」の続編のような作品。 人間の動植物性と 業や宿命について。 こんなに濃度が濃くていいのか。
「コバルト」 入稿した。 レイアウトしているあいだ ずっと夜明けの青を浴びていた。 読でくださる方も そうなりますように。
お料理は不思議。 たとえ、日々が最悪で 自分に価値などないと思う時でも 丁寧につくれば美味しくできる。 孤独でも美味しい。 なんなら孤独だからこそ美味しい。 すごい存在だ。 生の真理は、理屈ではなく こっちにある。 自我を離れ無心になる。 力んだ自我ではない自分を取り戻す。 宗教的儀式。
母がエスニックが食べたい というので フォーと タイ風春雨サラダの ミニエスニックセットをつくった。 タイ風春雨サラダ 初めてつくったけど めちゃうまくできた。 母も喜んでくれた。 ところで、ブラックぺアン観た後だと、 台所で包丁出すとき 「メッツェン」って言ってしまう。
子ぐまが訊いた。 ぼくの今日は良い日？悪い日？ クマがこたえた。 良い日でも悪い日でもないよ。 ただとりくむ日さ。 そしてできるだけ きみがよくする日さ。 もしきのうが悪い日でも 今日も悪いと決めてしまったら 今日がかわいそうだろ？
休日大人のピクニックよくばりセット。 きょうのクリームドーナツ 生地の中面がとくにふわふわで つつまれて眠りたいくらい。 泣きながら。 ←弱っている。
今日も手探りで。 幸せになる途中のバス停で。 「コバルト」
詩の学校で、 ウィリアム・フォーサイス先生が言った。 完成型を意識することから 不幸がはじまります。 コンプレックス、嫉妬、 うまくいかなくて落ち込む、 イライラする。 あなたよりはるかに大きい海に 完成型がないのですから、 あなたは、 一生ただの向上心と好奇心の 砂粒でよいのです。
友人は、お洋服のセンスの良いが、服を買うときたくさん失敗してきたそう。いま事業を軌道にのせているが、ひとの何倍もやらないと、と年末年始もなく働いている。失敗、遠回り、悔しさ、悲しみ、虚しさ、それがあっていけない訳ではない。いつでも苦渋の泥沼の中で好きを大切し、好きを目指す。
詩の学校で、ウィリアム・フォーサイス先生が言った。完成型を意識することから不幸がはじまります。コンプレックス、嫉妬、うまくいかなくて落ち込む、イライラする。あなたより、はるかに大きい海に完成型がないのですから、あなたは、一生ただの向上心と好奇心の砂粒でよいのです。
朝ごはん。 世界の果てのある街に 運のない男が暮らしていた。 男は母親にこんな風に言われて 育てられた。 どんな悪いときも その状況にあまえず 美味しくごはんをつくって 美味しく食べなさい。 できるはんいでいいから。 不運な男は、不運だったが とくに気にせず その朝も 美味しくこはんをつくって 美味しく食べた。
ぼくは幸せになれる？ 子ぐまが訊いた。 クマがこたえた。 幸せはね、 なるものではなく ときどき訪れるものさ。 たとえばある休みの日 きみは空いた電車で 待ち合わせにむかっている。 いくつかうれしいメールが届く。 光がきれいで季節が変わろうとしている。 きみはきづく。 あれ？いま幸せかも。
