短いおはなし7

865

美しい人形の所作に比べれば。

クマが子ぐまに言った。

人生はね、人形の所作に
息をひそめる時間さ。

だからね、そんなぼくらは
それ以外の暮らしなんて
上手くいきっこない。

でも、
暮らしが上手くいかないなんて
たいしたことじゃない。
美しい人形の所作に比べれば。

メンタルってどこにあるの?

メンタルってどこにあるの?
子ぐまが訊いた。

クマが答えた。
頭や胸にありそうだけど
ほんとは
自分の外側にある。

空気を入れて油をさした自転車。
あたたかい煮物。
磨いたシンク。
誰かに配慮した丁寧な言葉。
それらが君のメンタルをつくる。
それらが君のメンタルを
心地よく豊かにする。

詩集とバッハと芍薬しかない国。

世界の果てのある国では
本は詩集しかなかった。
街には新刊の詩集のポスターが
貼られた。

音楽はバッハしかなかった。

花は芍薬しかなかった。

人々は平均律クラヴィーア曲集を
聴きながら詩集を鞄に入れ
通勤した。

そして好きなひとの誕生日に
好きな詩集と芍薬を
プレゼントした。

今日が結論の日ではない。

きつねは
朝の花の道で思った。

昨日が結論の日ではないさ。
今日が結論の日でもない。

ひとは日常になれて
いつの間にか依存している。

でも細胞はつねに生まれ変わり
昨夜の雨は今朝の朝日に
輝いている。

2年後くらいに
なりたい自分を考えよう。

いまはすこし
涙がこぼれたとしても。

弾き語りは、なぜ語り、か。

弾き語り
って実際は
弾き歌い、ですよね。

うたが伝承のものだった名残りかな。

ちがやさんがわたしの
うたに、物語をくれる、
と言ってくれて。

遺伝子がなつかしがる
根源の物語の情景を
うたいたくて

melancolia storytelling

という名前にしました。

ベスト盤の紙ジャケ、
最高の仕上がり。

あれからしたら、いまはなんて安らかなんだろう。

きつねは思った。

そこそこ生きてくると
いくつかのかなりひどい
ことがあった。

人間関係、失敗、病気。

きつねは、孤独で
静かな秋の夜に
それらをふと思う。

そして
あれからしたら
いまはなんて
安らかなんだろうと思う。

父のリース。

玄関のリースは
いまはコトリ花店さんの。

以前、両親が庭で枝払いを
していた。
父が細い枯れ枝を束ね
円にして蔦でしばり
母に、はい、リース、
と言って渡した。
母は、まあ、素敵、と
受け取っていた。

家族や日常は
きれいごとではない、

でも、
きれいなときもある。

いくつか傷を受けながら。

きつねは思った。
無防備でくらう傷と
予測の上でくらう傷では
痛みがちがう。
ひとが原因の傷と
自分が原因の傷では
痛みがちがう。
さて今日も。
予測の上で。
自分の責任で。
やりきろう。
いくつか傷を受けながら。

本棚に自分の本。

本棚に自分の本。
すべて遺書。
すべて大切なコラボレーション。
わたしが知らなかったわたし。
わたしはこんな風にひろがるのか。
わたしの好奇心と可能性は
こんなふうにかたちになり
本棚に並ぶのか。
そしてまた
未踏のわたしの森へ。