死にたがりな僕を君は殺した

私はここにいていいの?

ほんとは私のことどう思ってるの?

ねえ、だれか。
教えて。助けて。

私のことなんかどうでもいいんでしょう?
都合のいい女だと思ってるんでしょう?
要らなくなったら捨てるんでしょう?

残念だったわね
私はそんなに馬鹿じゃない

あんたなんて要らない
捨てられる前に捨ててやる

…そう思ってたのにな
あたし馬鹿だなぁ

落ちていく。
暗くて深い闇の中に。
高い高いビルの上から。
落ちる落ちる落ちる。
近付く地面。
目を瞑る。
暗闇に浮かぶのは愛した人。
耳元で誰かが笑う。
冷たい地面に飛び散る血。

雪が舞う12月のある夜。
私は死んだ。

サイレンの音が夜の街に響く。
白い雪が真っ赤な血溜まりに落ちて溶けた。

雑踏の中に混じり消えていく。
知らない女と笑い合うあの人。
私のことなんてきっともう忘れている。
もともと気にも留められていなかった。

寂しいと泣く私に君は分からないと言った。
いい人紹介するよなんて笑った。
強がりな私はなんでもないふりをした。
元気なふりをした。

なんとも思ってなかったのにな。
思わせぶりなあなたが悪いのよ。
優しくするから。
私は特別だなんて勘違いして。

あなたのキスが嬉しかった。
あなたの温もりを求めた。
あなたの笑顔を独り占めしたかった。
あなたの特別になりたかった。

あたしあなたが好きだったのよ。
本気で愛していたのよ。

あなたには分からないでしょう?
大勢のなかの一人だったんでしょう?

あたしは特別じゃなかったのよね。

あなたが誕生日にくれたネックレス
ずっと身に付けていたのよ。
あなたの好きなミートソース
上手に作れるようになったのよ。
あなたが欲しがってた腕時計
クリスマスに渡そうと思ってたのよ。

あたしの中はあなたでいっぱいだったのよ。

ねえ、あなたの中にあたしはいなかった?

あなたが嫌がるから
クラブもホストも行くのをやめた。
露出の多いあのワンピースも捨てた。
他の男のLINEだって消したわ。

あなた好みになりたくて
苦手だった料理を覚えた。
淡い色の服を着るようにした。
髪も栗色のショートにした。
酒もタバコもやめたのよ。

何が足りなかったの?
つまらないなんて言わないでよ。
そんな冷たい目で見ないでよ。

ねえ、行かないでよ。

あなたがいないと私は空っぽ。
あなたへの気持ち以外なにも残らないの。

重かったかな。
めんどくさかったかな。
うざかったのかな。

ごめんね。
あなたの愛を求めて。

あなた好みの家庭的で可愛らしい女には
なることができなかったけど。
都合のいい女にもなれなかったけど。

俺の前から消えてくれって
その望みだけは叶えてあげるわ。

あなたを好きになってよかった。
ずっとずっと死にたかったの。
あなたに恋して生きるのが楽しくなった。
あなたのために生きようと思えた。
そしてまた死にたくなった。

あなたの幸せなんて願えないけど。
大丈夫。恨んだりしないわ。
きれいさっぱり忘れる。
あなたがあたしを忘れたように。

じゃあ、元気でね。
死にたがりなあたしは死ぬよ。
僕を殺してくれてありがとう。

ばいばい。

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