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クリープハイプは、私の世界観を反転させた



「なんやこれ、声きっしょいな、、、」



 今では最も心酔するロックバンドのひとつである、クリープハイプを初めてイヤホンから聴いたときの感想は、そんな侮蔑的なものだった。

 癖に癖を重ねたようなギターとドラム、見た目のインパクトが強いベース、どこからそんな声でてんねんと思わず呟いてしまうほどの高音のボーカル。決してとっつきやすいバンドではない。
 2017年春、石川県で行われたミリオンロックフェスで、ファンである姉に連れられ初めてライブを見た。しかしその頃映画主題歌としてヒットしていた曲「イト」しか良いと思うことはできなかった。
 しばらくは、有象無象の″名前を知ってはいるが別に好きでもないし興味もない″バンド群の中に、クリープハイプも分類されていた。



 
 評価を180°転換するきっかけとなったのはYouTubeの「あなたへのおすすめ」の欄である。蛇のようにシュッとした男性の横顔が向き合うように2つ映ったサムネイルが表示されており、吸い込まれるようにタップした。
 ディレイのかかった感傷的なギターリフの後、好みである四つうちビート裏打ちハイハットが始まり、お、と頭の上に感嘆符が立つ。
 クリープハイプの「ウワノソラ」だ。




大好きと 大嫌いの 間でのたうちまわっている
-「ウワノソラ」

 正反対の感情の間で揺れる、ガツン!とした曖昧だが芯のある歌声と、苦虫を噛むような感情的な歌い方は、それまでに抱いていたクリープハイプの印象を粉々に打ち砕いた。



 めちゃくちゃにかっこいいやないけ!



 近年まれによく見るテノヒラクルーを華麗に決めた。大変申し訳ございませんでした。それからクリープハイプをとかく聴き漁った。幸い、サブスクに作品のほとんどが公開されていたため時間はそうかからなかった。

 「憂、燦々」



[1:00]、拍をずらした高音が鳴り、パッと視界が広がるような感覚が脳裏を駆け巡る。


 以前聞いたクリープハイプとは、同じ曲なのにどうして、リバーシの石が裏返されたように全く違って聴こえた。

いつも会いたくない会いたくない会いたくない
そんな気持ちとは真逆の気持ち
-「リバーシブルー」


 自分のような逆張りばかりの素直じゃないひねくれ者には、なぜか真っ直ぐに心臓に突き刺さる歌詞だ。
 [2:48]、沈むようなビートの後に目前の景色がそれまでとは逆に流れ始めるような演出も、見事としか言いようがない。



 クリープハイプは、私の音楽の聴き方をも変えた。


 このバンドを聴くようになって、曲の″歌詞″をしっかりと意識するようになった。
 それまでは、ノリとメロディ重視だった。ある曲が流行れば必ず誰かが言う「歌詞が良い」という褒め言葉が嫌いだった。音楽なんだから曲を聴けよ、歌詞がいいなら詩集でも読んでろよ、そう思っていた。

 だが、その考えを改めるくらいクリープハイプは歌詞が良かった。歌詞を聴こうとしなくても心に残る。そして寄り添ってくれる。
 いや、歌詞がいいだけではない。メンバー4人の演奏それぞれが反発しそうな癖の塊なのに、不思議に溶け合って調和している。奇妙なバンドだ。



 私は昔から感情を表に出すのがずっと苦手だった。嫌なことを言われても何も言い返せず、悩みも自分の中に溜め込んでしまう。溜め込んで溜め込んで、突然決壊し、人前で自分では止められないほど泣いてしまったこともあった。

 尾崎世界観は、そんな私に感情をもっと外に出してもいいんだよ、と言ってくれているような気がした。そう思うと感情のコントロールが少しだけうまくできるようになった。

下北の大学生 声かけてきて第一声
握手してください 本当に大好きなんです
いつも救われてます 僕もすぐ追いつきます
CDは持ってないけど YouTubeで毎日見てます

友達みたいなフリして近づくなよ
君の嘘暴露てるぜ
-「週刊誌」

 
 その後フェスでライブを何度か見たのち、ワンマンライブに行きたくなった。ちょうど武道館ライブの申し込みがあった。見事当選、姉を誘って期待に胸を膨らませていた。



が、ここであるある言いたい。早く言いたい。ライブ同時にたくさん申し込み過ぎて、振り込み忘れがち〜



 マジでショックだった。ハッピーポンコツも加減しろ。ねえなんで、うまくできないんだろう。(ライブ会場に)居たい居たい居たい居たい居たい居たい居たい居たい居たい居たい…
 それ以降しばらくは全くチケットが当たらなかった。

 翌年、大阪での夏フェス、OTODAMA2019の大トリがクリープハイプであった。その最後に重大発表、大阪城ホールでのワンマンライブが決定。帰りのバスで太客倶楽部(ファンクラブ)に即入り、そして後日チケットを申し込んだ。今度はクレジットカード引き落としにした。というかそのためにクレジットカードを作った。あるあるは言わせないぞ。

 当たった。外れ続きだったから嬉しくてリアルに声が出た。なんなら小躍りしちゃった。大学からの帰路だったため通りすがりのおじさんに訝しげにじろじろ見られた。
 
 そんなことを経ての2020年、藪から棒のコロナ自粛である。延期に次ぐ延期でついに中止となった。再び以前の失敗を恨んだ。仕方ないか。いつかまたライブに行ける日を心待ちにしている。

うつむいているくらいがちょうどいい
地面に咲いてる
-「栞」


 クリープハイプはまさに私の世界観を反転させてしまった。個性豊かなメンバー4人のことも大好きになった。これから先どんな景色を見せてくれるのだろうか。楽しみで仕方がない。


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