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エッセイ

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エッセイ つれづれなるままに心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書き綴っております
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#エッセイ

エッセイ「ララバイ札幌」

エッセイ「ララバイ札幌」

実は今月、札幌を離れた。転勤である。
今は東京の、とある町の、とあるアパートに居る。

産まれは釧路、物心ついたのは北見。たまねぎとハッカの町。今は塩焼きそばと焼肉の町らしい。北海道以外の地で暮らすのは、今回が初めて。

北見の後はずっと札幌。小、中、高と札幌で過ごし、江別の大学へはバスと地下鉄を乗り継いで通った。就職も札幌で少し働いて結婚し、夫の職場に近い町の部署へ異動させてもらった。戦闘機の音

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エッセイ「ご馳走」

エッセイ「ご馳走」

仕事がひと段落したこともあり、お疲れ様の意をこめて後輩を食事に誘った。飲み会はコロナ前ほどではないが普通にあるし、そういう時少し多めに会費を徴収されるほどには歳を食った。とは言え、自分から誘うことはほぼない。

今回のように、仕事がひと段落した時や送別か何かのタイミングで「じゃあ」と誘う。職場の人との距離感は、とても大事。

誘う時、死守していることがある。

自分でも面倒くさい奴だなぁと思う。私

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エッセイ「ただいまピンターダ」

エッセイ「ただいまピンターダ」

12月と1月は、怒涛の飲み会ラッシュだった。

コロナが5類になってから初めての年末だからか、新しい商業ビルがオープンしたからか、すすきのには観光客も含めて大量に人が戻ってきていた。

コロナ中のあの静かなシャッター街の寂しさを知っているから、喜ばしくはあるのだけれど、酒だけではなく人にも酔ってしまった。

肝臓にやさしくない日々に乗じて「ピンターダ」に行って来た。無論、以下の報告をするため。

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エッセイ「ゴミ屋敷ではないかもしれない家について」

エッセイ「ゴミ屋敷ではないかもしれない家について」

通勤の道すがら、ゴミ屋敷がある。ぱっと見で分かるゴミ屋敷ではない。ごくごく普通のアパートの最上階。

網戸は破け、窓にかかるカーテンが内側から何かいろいろなモノに押しつぶされているのが見える。アパートの角部屋でもう一面にも窓があるのだけれど、同じく何か、袋のようなものがいくつか積まれ、黄色のカーテンがたわんでいる。

しかし考えてみれば、ゴミ屋敷ではない可能性もある。たまたまふたつある窓際に、袋状

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エッセイ「チェス」

エッセイ「チェス」

少し前、断捨離したチェスボードを実家に置いて来た。親は嫌がったけれど「孫とやんなよ、しかもインテリアとしても申し分ないよ」と、無理矢理押し付けた。悪い娘である。

それはいつぞやの恋人とともに、リサイクルショップで1,500円で購入したもので、駒もボードも全てガラス製だ。多少のヒビやカケはあるものの、当時行きつけのBARでふたりグラスを傾けながらチェスを嗜んだ夜々の思い出から、別れてからもなんとな

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エッセイ「back numberのハッピーエンドに想いを馳せる」

エッセイ「back numberのハッピーエンドに想いを馳せる」

音楽にはあまり明るくない。ラジオやYouTubeで流れてくるもののなかで、耳に残ったものを何度か聴く程度。それでも数年前、手痛い失恋をした頃に、繰り返し繰り返し、本当にしつこいくらいに聴いてた曲。それがback numberの「ハッピーエンド」だった。

手痛い失恋についてはさておき、初めて「ハッピーエンド」を聴いた時、あまりに精密に編み上げられた歌詞に鳥肌が立った。清水依与吏さんが、どこまで考え

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エッセイ「30代、季節に咲く花とSex And The City」

エッセイ「30代、季節に咲く花とSex And The City」

仲の良い同僚に言わせるとわたしは「コミュニケーションおばけ」らしく、確かにこの十数年、持ち前のコミュニケーション能力だけを切り札に、やっとこさ仕事をして来た感が否めない。そんなんだから仕事中は「いつ化けの皮が剥がれるか」という謎のヒヤヒヤ感が、実はずっと消えなかったりする。

仕事をしていない時のわたしは、ただの堕落した人間で、休みの日は基本昼まで寝ているし、掃除機も洗濯も平気で1週間しない。今で

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エッセイ「夢枕で待ち合わせ」

エッセイ「夢枕で待ち合わせ」

コロナで「死」について考える時間が多くなった。出産した姉のお見舞いにも行けず、コロナで亡くなったがためにお線香もあげられないまま別れた人もいた。身近な人の死と出逢う時、不思議な体験をすることがある。

中学1年生の冬、祖父が死んだ。12月23日だった。明日から冬休みという日「おじいちゃんが亡くなったので昼にお母様がお迎えに来ます」と担任に言われた。
びっくりはしたけれど悲しいのかは分からず、でも「

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