真夜中野マヤ

まよなかの まや|読み切り小説、時々エッセイ📚

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  • エッセイ

    エッセイ つれづれなるままに心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書き綴っております

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    「古稀来い、恋来い来い」は友人の大学の先生が実際に七十近くで結婚したと聞き、そこから着想を得ました。 「鍵穴チョコレイト」は、わたしの実際の体験談を基に創作しています。

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    残念ながら何かしらの選考に落ちた作品たち

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    読み切り小説、月イチ程度で更新します

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    受賞、メディア掲載などの活動ご報告

最近の記事

エッセイ「ご馳走」

仕事がひと段落したこともあり、お疲れ様の意をこめて後輩を食事に誘った。飲み会はコロナ前ほどではないが普通にあるし、そういう時少し多めに会費を徴収されるほどには歳を食った。とは言え、自分から誘うことはほぼない。 今回のように、仕事がひと段落した時や送別か何かのタイミングで「じゃあ」と誘う。職場の人との距離感は、とても大事。 誘う時、死守していることがある。 自分でも面倒くさい奴だなぁと思う。私が20代の頃、上司の飲み会に付き合う機会が今よりも格段に多かった。前職の仕事柄の

    • 小説「夢見るくせっ毛ちゃん」

      太郎の髪は細く飴色で、しかしその繊細な見た目からは想像も出来ないほど強いコシを持つ。くるりくるりと頭部から四方八方へと跳ね、その毛を伸ばす。赤子故にそれは太郎をたいへん可愛らしく見せ、大人はしきりにその薄毛頭を撫でたがった。 そんな幼少期だったため、髪は早くから自分が可愛いと認識していた。あちこち自由に飛び出し、全く太郎の言う事を聞かない髪へと成長してしまった。 髪はたいそう夢見がちでアニメなどを見ては 「こんな色になりたい」 とのたまったが、隣に腰を下ろす太郎の祖父の髪

      • エッセイ「ただいまピンターダ」

        12月と1月は、怒涛の飲み会ラッシュだった。 コロナが5類になってから初めての年末だからか、新しい商業ビルがオープンしたからか、すすきのには観光客も含めて大量に人が戻ってきていた。 コロナ中のあの静かなシャッター街の寂しさを知っているから、喜ばしくはあるのだけれど、酒だけではなく人にも酔ってしまった。 肝臓にやさしくない日々に乗じて「ピンターダ」に行って来た。無論、以下の報告をするため。 足が遠のいていた理由は色々ある。 自宅とは全く逆方向ということ。 「さよならピ

        • 小説「女神の結婚」

          「ねぇ、その髪さ、和式でウンコする時どうしてんの」 サチの髪は長い。いや長いどころの話ではなく、おしりをすっぽりと隠すほど、それはそれはとんでもない長さである。サチには光輔という恋人がいて、ふたりは吹奏楽部。サチはピアノで、光輔はコントラバス。ふたりはどこへ行くのも一緒。 サチは寺の娘で、光輔の家は地元の名士。 サチの家の大檀家。 部活のない水曜日に、サチは音楽室でピアノを弾く。その隣で、サチの髪を愛おしそうに撫でる光輔。そんなふたり。 「簡単よ、こうやって首に巻きつ

        エッセイ「ご馳走」

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        記事

          ご報告「北海道新聞にて取り上げていただきました」

          ご報告「北海道新聞にて取り上げていただきました」

          エッセイ「ゴミ屋敷ではないかもしれない家について」

          通勤の道すがら、ゴミ屋敷がある。ぱっと見で分かるゴミ屋敷ではない。ごくごく普通のアパートの最上階。 網戸は破け、窓にかかるカーテンが内側から何かいろいろなモノに押しつぶされているのが見える。アパートの角部屋でもう一面にも窓があるのだけれど、同じく何か、袋のようなものがいくつか積まれ、黄色のカーテンがたわんでいる。 しかし考えてみれば、ゴミ屋敷ではない可能性もある。たまたまふたつある窓際に、袋状の何かを積んでいるだけの可能性もある。 袋に入れて積むものってなんだろう。

          エッセイ「ゴミ屋敷ではないかもしれない家について」

          小説「耳を喰む」

          「耳を食べてほしい」と、すみれさんは言った。 退屈な飲み会をこっそり抜け出した夜。地下街へとくだる入口で、すみれさんを見かけた。先ほどの飲み会に確かにいたはずなのに、僕らはひとことも会話をしなかった。でもすみれさんが部長のグラスに笑顔でお酌をする姿は見ていたし、それをみんなで「すみれさん、ハズレ席引いたね」と遠まきに見ていた。 地下通路のくすんだ蛍光管に照らされたすみれさんの横顔はぼんやりと上の空で、僕はその虚ろな瞳に少しだけどきりとした。 「すみれさん」 僕が声を掛け

          小説「耳を喰む」

          小説「それ」

          我が家には僕が物心ついた時から「それ」が在った。 母の「それ」は、トランプのジョーカーのように僕の前にぶら下がり、僕はいつも「それ」を理由に色々なことを諦める必要があった。何かを讃える歌を歌うこと、色の付いたお菓子をたべること、具合が悪くて学校を休みたいという希望でさえも「それ」を理由に時に叶わなかった。成長するに従って、我が家の「それ」は一般的にはまるで普通ではなく、むしろ奇異なものであると知った。僕は初めこそ戸惑ったが、僕は母の「それ」に応え続けた。母が大好きだったから

          小説「それ」

          エッセイ「チェス」

          少し前、断捨離したチェスボードを実家に置いて来た。親は嫌がったけれど「孫とやんなよ、しかもインテリアとしても申し分ないよ」と、無理矢理押し付けた。悪い娘である。 それはいつぞやの恋人とともに、リサイクルショップで1,500円で購入したもので、駒もボードも全てガラス製だ。多少のヒビやカケはあるものの、当時行きつけのBARでふたりグラスを傾けながらチェスを嗜んだ夜々の思い出から、別れてからもなんとなく手放せずにいた。 彼から貰ったモノはほぼ全て捨てることが出来たのに、幸せな思

          エッセイ「チェス」

          ご報告「さっぽろ市民文芸の集いに参加してきました」

          大変有り難いことに、初めて応募した「さっぽろ市民文芸40号」小説部門にて「さよならピンターダ」という作品が優秀をいただきました。 去る12月2日、札幌カナモトホールにて「さっぽろ市民文芸の集い」があるということで、ドキドキしながら参加してきました〜! 繊細なチキンハート(え?)のため、友達と参加です。「誰でも参加していい」と謳っている割に、友達と参加してる方は、見渡す限りわたしだけ。さては、みんな友達居ないな?笑 そして思っていた以上に年齢層が高めで、正直、非常に場違い

          ご報告「さっぽろ市民文芸の集いに参加してきました」

          ご報告「公募ガイド」選外佳作に入選しました

          毎月応募している公募ガイドの「高橋源一郎の小説でもどうぞ」に、まぁ通らない通らない。ということを、以下で話しましたが。 応募しはじめて数年。このたび、初めて! 選外佳作に入選しました!!わーい!!! 選外佳作ということでweb掲載のみですが、個人的には「よっしゃー!!通ったァ!!」という感じです、ハイ。どんなに瑣末な評価でも、過大に受け取る超絶欲しがり人間です、ハイ。 テーマは「冗談」。 締切は9月末で、今年の札幌の夏は、本当に暑くて暑くてたまらず「毎日毎日、冗談じゃ

          ご報告「公募ガイド」選外佳作に入選しました

          ショートショート「空の布のハスカップ」

          社長が「食べ飽きた」と言うので、有り難くいただいた金曜日のご褒美デザート、空の布のハスカップ。 なんたって空の布に包まれている。普通のハスカップは野ざらしで、固くてすっぱい。でも空の布に包まれたハスカップは、布の天気で味が全然違う、らしい。 晴れだったら香り高く。雨だったら、しっとりと。 夏だったら甘く熟れ、冬は冷たく凍る。 ここ数日の酷暑で、きっと甘く、それはそれは甘美に熟れているはずだ。 わたしはワクワクしながら自分の部屋に入る。 あまりにムッとした暑さに窓を開け、

          ショートショート「空の布のハスカップ」

          ご報告「田丸雅智先生の"誰でも物語が書けるショートショートの書き方講座"に行ってきました」

          実はわたし、公募ガイドの「高橋源一郎の小説指南 小説でもどうぞ」に毎月応募している。 毎度毎度ハナにも引っかからず、もう落選慣れしつつあるのだけれど「鈴木さんの働き方改革」や「走馬灯チャンネル」のように、結構上手く書けた!と思うものも、あっさりと落選する上、毎月選考に通った素晴らしい作品を読んでは、歯が立たないなぁと思う。 目指すは長編小説家なので、ショートショートはどちらかというと、校正力や語彙力の強化のために書いている。ショートショートや短編の定義は千差万別だが「小説

          ご報告「田丸雅智先生の"誰でも物語が書けるショートショートの書き方講座"に行ってきました」

          小説「神の子の親友」

          セカイがうちに来たのは僕が八歳、母さんが亡くなってすぐの頃だった。塞ぎ込む僕を見兼ねて父が貰ってきたと聞いた。 セカイは雄のラブラドールで、母さんの作るホワイトシチューみたいな、優しい色をしていた。 自宅裏の宮殿のような建物で、父はキョウソとして働いていた。そこにはシンジャさんと呼ばれるたくさんの大人が居て、僕は神の子と呼ばれていた。身の回りのことは全てシンジャさんがやってくれ、みな僕に優しかった。 僕は学校という存在を知らずに育ち、勉強は家庭教師に教わった。授業を受け

          小説「神の子の親友」

          ご報告「2023年さっぽろ市民文芸 第40号」優秀に入選しました

          お知らせをいただいたのは8月下旬。 「そういえば初めて応募したけれど、アレどうなったのかしらん?9月入ったらあのイラスト使ってnoteあげよー」と、いつもの通りの落選前提の心持ち。 そんな中、郵便物が2通届く。1通は角2封筒、もう1通は長3封筒。どちらも「札幌市民芸術祭実行委員会事務局」とある。え、なに、どういうこと。 が、すぐに思い至る。あ、原稿お返しね。 ハイハイ、ざんねーん! …にしては角2封筒は薄めじゃないか? あの原稿40枚もあるんだぞ。 えーなになに。こわ

          ご報告「2023年さっぽろ市民文芸 第40号」優秀に入選しました

          小説「汗をかくアイスコーヒー」

          「結婚するんだ」 わたしの隣で婚約者がそう言うと、目の前のコーイチは「おめでとう」と嬉しそうに笑った。地元の駅のコーヒースタンドで3人はいつものように向かい合う。 中学生の頃から付き合っている婚約者は、コーイチの部活の先輩だ。コーイチはわたしの幼馴染みで、コーイチが帰省する時、このコーヒースタンドで3人で集まるのが常だった。 「オレもっと、女の子らしいコがいいですよ」 中学生のあの時、わたしはコーイチの何気ないひと言に傷付いて、静かにその恋を諦めた。あの時もこんな、夏の

          小説「汗をかくアイスコーヒー」