現代物理学からの現代哲学の解説、シュレディンガーの猫とアインシュタインの月

現代物理学からの現代哲学の解説、シュレディンガーの猫とアインシュタインの月

・物理学と哲学

 哲学は存在論を扱います。

 物理学も存在論を扱います。

 ただこの2つは違いがあります。

 物理学は自然科学なので実証主義です。

 哲学は実証主義にはこだわりません。

・古典物理の存在論

 モダニズムの創始者はデカルトでニュートン力学といえどその流れにあります。

 デカルト的な存在の見方は延長で、別の言い方をすると剛体です。

 これはニュートン哲学にも受け継がれアインシュタインにも受け継がれています。

・アインシュタインと月

 アインシュタインの有名な逸話があります。

 量子力学では何か、例えばある素粒子、電子でも原子でもいいですし、月のような大きな物体でもいいですが、それが目をつぶって開いた瞬間になくなっていると言うことはありません。

 これはガリレオの時空概念でもニュートンの時空概念でもアインシュタインの時空概念でもそういうことを前提にしています。

 ところが量子力学の存在論、時空概念では月は目を瞑って瞼を開いてみると一瞬でなくなっている可能性があります。

 このことは古典力学や量子力学の理論の内容がどんなとかとは全く別に切り離して、存在論を哲学的に考えるきっかけを与えてくれます。

・シュレディンガーの猫

 量子力学では生きた猫が入ってる外から見えない部屋の扉を開けると猫が死んでいることもあれば生きていることもあります。

 扉を開けて観測するという行為自体が猫の生死に影響するという考え方をここでは無視します。

 量子力学を無視しても扉開けた時に猫が死んでいることもあれば例えば急性冠症候群で猫は突然死しているかもしれません。

 哲学的な問題は量子力学の内容がどうかとかではなくて時間の同一性と呼ばれるものになります。

・同一性

 同一性というのは英語ではidentity、ID 、UFO(Unidentified Flying Object)、idnentifyなど意外と日本人の私達にも知らない間に使われている言葉です。

 精神科の授業では昔は〇一性の区別というのを習いました。

 多分臨床精神病理学概論を書いたヤスパースあたりの考えだと思うのですが、同一性、単一性、唯一性等を区別します。

 同一意識、単一意識、唯一意識という風に使われましたが精神病理学と精神科診断学、精神科症候学の進歩とともに臨床では使われなくなってきています。

 しかしこれは哲学的には重要です。

 心理学や精神分析、特に発達心理学や人の成長を考える際には最重要です。

 「自我の形成」とか第一次反抗期や第二次反抗期には使われますが同時に自己同一性の発達史でもあります。

・差異

 差異という現代哲学や構造主義には最重要概念があります。

 そんなに難しく考えることはなくて我々が物事を分析する際にはまず差異分けを行います。

 デカルトの要素還元的方法論からデータ分析、ブレインストーミング、プロファイリング、要件定義、現在は物事を分析する時、考えられる限りの差異をまずは列挙します。

 差異の列挙能力こそ知能の1つの構成要素と言えます。

 差異をたくさん上げるには色々な考え方を持っていなければいけなません。

 別の言い方をすれば色々な情報処理能力を持っていなければいけません

 色々な考え方を出来る人は色々な差異を見出すことができます。

 そのような能力は色々な学問をどれだけ深くやっているかであり、また経験です。

 教養と人間力が問われます。

 データとデータの処理方法の豊富さ、この2つから世の中はなっています。

・時間の差異

 ただしここでいう差異は上のような色々な差異は無視してよいです。

 ここで問題にする差異はただ一つで「時間の差異」です。

 もともと同一性という言葉は時間の同一性を指します。

 自己同一性なら「ちょっと前と、今と、ちょっと後の自分が同じ自分であると感じられるという意識」を指します。

 古典力学、もっと言えば古典物理学はガリレオ、ニュートン、アインシュタインに至るまでこれは自明でした。

 物体の運動は時間的に連続です。

 ちょっと前の物質が突然次の瞬間なくなったり、全然別のものに代わったり、似ているけど別のものに代わっていることはありません。

 古典力学は時間同一性を前提にしています。

 これは哲学の実在論と同じ考え方です。

・現代、差延と時間同一性の考え方が崩壊

 思想というものは時に異なる時代の異なる場所で同じ思想が出現することがあります。

 そしてその発展の仕方も似たものになる事があります。

 仏教と現代哲学がその例になります。

 お釈迦さまも現代思想家たちも最初は近代的な実在論に問題があることを突き止めます。

 そしてそれがなぜなのかを考えます。

 そしてそれを批判する説を作ります。

 仏教の場合はまとめられた形でいうと空論、哲学でいうと構造主義の哲学への導入になります。

 空論と構造主義的哲学が実在論をの弱点を明らかにしつつそれを補完する理論を作り出します。

・実在論の弱点

 実在論の弱点はずばり「今と次の瞬間に事物が同じである根拠がなく、同じであるというのであればそれは仮説の前提に過ぎない」というものです。

 哲学はどちらかというと数学に近い学問です。

 つまり実証主義科学ではありません。

 また数学というと数の学問と思いがちですがそれは語訳であって正確には「学ぶべきもの」となり西洋の大学では言語とともに専門科目に行く前に学ばれるものです。

 すなわち記号的道具と扱い方、そして考え方を身に付けることです。

 研究することも付け加えておきましょう。

 ですから物事が次の瞬間消えたり別のものに代わっていようが、いまいが思弁の中で考えればよいのです。

 そのための方法として西洋の大学では数学も論理学も教養で習います。

 ぼやっと我流で考える必要はありません。

 数学も哲学も言語も思考や思弁の問題であり、仮説としてどちらの場合も場合分けして考えればよく必要なのはしらみつぶしです。

 実証科学ではないのでどれかがただ石井というわけではありませんが明らかに矛盾が生じれば棄却されます。

 哲学の範疇であればこのような思考遊びでいいのですがそれでもデリダが「差延」という時間同一性を否定しうる概念を提示した時にはそれなりにインパクトがありました。

・量子力学の影響

 哲学は物理学の結果を気にする必要はありません。

 数学が物理学の結果を気にする必要がないのと同じです。

 ただし物理学や数学や哲学に刺激を与えます。

 実際には影響を与えます。

 量子力学は時間同一性を否定する議論に実証的なお墨付きを与えてくれるように見える面がありません。

 見えるだけでなく場合によってはそう受け取っても構いません。

 アインシュタインの「月が次の瞬間に消えたり別の原子で置き換わっていることはない」は実在論者の感情的で感覚的なこだわりがあります。

 アインシュタインは「自然は(神だったか?)はそのように作られてない」と反論したはずです。

 アインシュタインはユダヤ教徒の家庭に育ちましたが12歳か13歳のユダヤ教徒を選択するかの儀式のときに神の存在に疑いがありユダヤ教徒にならなかったのでユダヤ系ではありますがユダヤ人ではないとも言えます。

 ですから神と言ったのではないかもしれません。

 一方、シュレディンガーの猫は例えとして誤解を招きやすく適切かどうかは分かりませんが、デリダの「一瞬後の事物が直前の事物と同じ保証はない、ただ人間の精神がそれをそう同一と受け取るだけだ」は量子力学とある意味で同じ結論を示しています。

 つまり実証科学が哲学にお墨付きを与えています。

 まあ逆の面もあるかもしれませんが。

・近代の限界と現代の可能性

 ここにあるのはアインシュタインらの近代物理学者、近代主義者の限界です。

 と同時に現代物理学者、現代哲学者が切り開いた新たな可能性です。

 近代でもデカルトが数学者であって哲学者のように両者を兼ねることが多かったのですが、現代にいたっても数学、哲学、物理学は考えようによっては近代よりずっと近い関係にあります。

 まあ哲学は終わった学問ですし、数学は公理の設定の仕方でいくらでも新しい数学が作れますし、物理学は実証に縛られるという違いはあります。

 ただ単純な思考、単純な出発点はそう変わりません。

 物事はどのように存在するのか、物事は時間を通して同一かということです。

 これは特に哲学、数学、物理学の難しい学問をやらなくても誰もが問うてもいいことで多分問うた方がよい、問うべきことです。

・簡単な現代哲学の学び方

 現在は根源的に答えが与えられています。

 一言で言えば「分からない」ですが、そこに至るまでに人類が練るに練って考えつくしています。

 私はその先人の巨人の方に立ってみる事ができます。

 一言で言えば簡単に学べます。

 これはより後に生まれた者のアドバンテージです。

 数学を学ぶのに古代ギリシアのユークリッドやディオファントスを学ぶ必要は全くありません。

 中高の数学を学べば十分です。

 哲学を学ぶにも一緒で現代哲学を学べば十分です。

 あとは趣味で学んでください。

 現代哲学の中には全ての哲学のエッセンスが入っていますし、これ以上ないほどに整理整頓されています。

 物理学を学ぶにはこの小節を読むだけでは不十分ですが、読んでおくと何かの時に役に立つかもしれません。

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