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市松さん

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記事一覧

猛暑

最近、とても暑いです。
まぁ、私は人形なので大丈夫なのですが。
「じゃあ、美子ちゃん、気をつけて帰るのよ」
座敷童子の仕事も終わり、美子ちゃんに声をかけます。
「はぁい、お疲れ様でした」
そう言うと涼しげな麦わら帽子をかぶり、帰っていきます。
超狼も家庭の事情で今日はお休み。
私は戸締りをして帰路につきます。

家に帰ると、おばあさんが縁側にぐったりと座り込んでいました。
「あぁ、華かい、おかえり

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春

すっかり暖かくなってきました。
公園の梅の花は満開です。
「ボス、水やり終わりました」
美子ちゃんが言います。
公園の植物の管理は私たちの仕事です。
「ついでに雑草も抜いて来たぞ」
超狼は細かいところまで気が付きます。
「ありがとう、二人とも」
私は人形なので水やりや土仕事はできません。
管理小屋で雑務がメインです。
水道・光熱費の計算、花壇の管理…と言っても植える花を決めて注文、そして…
「今回

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年越し

「あら、おかえりなさい、おばあさん」
おばあさんが寝室に戻ってきました。
「すまないねぇ、華」
昨日から、息子さんやお孫さんが戻って来ています。
私は人形なので、動いたり話したりしているところを見られない方がいいだろうということで、おばあさんの寝室から出ないことにしたのです。
「大丈夫ですよ。
人形だからじっとしているのは得意なんです」
おばあさんはありがとう、と言って布団をしきはじめました。

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公園

今日は、私が仕事をしている公園におばあさんが来てくれました。
「珍しいですね、おばあさん」
「今日は天気がよかったからねぇ…
散歩でそこの神社にお参りして、隣にあるこの公園によったんだよ」
おばあさんは楽しそうに言います。
そこの神社…美子ちゃんの実家ですね。
「中で一休みしますか?」
私は管理小屋…といっても座敷童子たちの詰所なのですが、そこを指して聞きました。
「いやいや、いいよ。
華たちにも

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準備

美子ちゃんについて、神社に行きました。
私も夏祭りに参加するのです。
私はお金を持っていないし、持っていたとしても使えないので準備や片付けの手伝いをすることになっています。
神社に着くと、コマさんたちがテーブルを準備していました。
「やぁ、市松さん、今日は来てくれてありがとう」
「こんにちは、コマさん、今日はお世話になります」
手伝いに来た旨を伝えると、コマさんはじゃぁ、と言いました。
「じゃぁ、

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冬支度

私が仕事から帰ると、おばあさんが押し入れから色々出していました。
「ただいま、おばあさん、何をしてるんですか?」
「あぁ、華、おかえり、今、炬燵を出していてね、ちょっと手伝っておくれ」
私は人形なので大したことはできません。
懐中電灯で押し入れの奥を照らしました。
「あぁ…コードがあんなところにあったよ」
おばあさんはコードを引っ張り出すと炬燵をコンセントに繋ぎました。
「あぁ…暖かくなったねぇ」

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お花見

お花見

「さて、今日は昼から公園のお花見でもしましょうか」
午前中に座敷童子としての仕事をあらかた終わらせ、私はみんなに提案しました。
「おぉ、いいのう」
超狼が答えます。

彼女は最年長クラスの幽霊で、座敷童子の資格を取り、ここに就職しました。
ここではお互いをコードネームで呼び合います。
最年長…つまり長老なのです。
しかし、座敷童子なので見た目は子ども、しかもカッコよくないという理由で『超狼』なので

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夕日

夕方、家に帰るとおばあさんが一人縁側でお茶を飲んでいました。
電気もついておらず、薄暗いです。
「どうしたんですか、おばあさん」
私は少し驚いて尋ねました。
「あぁ、華…おかえり」
おばあさんはそう言うと静かに一口、お茶を飲みました。
「陽がだいぶ長くなったねぇ…すっかり春だよ」
おばあさんはしみじみと言いました。
私もおばあさんのすぐ隣に座ります。
見ると、空は夕焼けでピンク色に染まっています。

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ひな祭り

今日はひな祭りです。
毎年、私のところへ、どこからともなく高貴な雛人形たちが来てくれます。
「こんにちは、華さん」
「こんにちは、お久しぶりですね」
近況報告を、とも思いますが、彼らは約1年間、眠って過ごします。
ひな祭り前後の1週間程度、活動するだけなのです。
「では、今年も道案内をお願いします」
この町では、3月3日に雛人形たちがいろいろなご家庭を周ります。
五人囃子が音楽を奏で、三人官女が舞

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早朝

冬は早朝が美しいと、昔の偉人が言ったそうです。
私も意見には賛成です。
私は大体6時くらいに起きます。
朝の6時はまだ暗いです。
空は濃紺…とても美しい。
そして少しずつ明るく、青くなってきます。
太陽が登ってくる様子はすごく好き。

…そうそう、冬場は暖房をつけないといけませんね。
おばあさんは大体7時くらいに起きてきます。
だから6時半くらいまでには暖房をつけます。
まずはお茶の間、そして廊下

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おばあさんが炬燵に入ります。
「すっかり寒くなったねぇ」
私は炬燵の上に座ります。
「炬燵は暖かいですね」

私はお茶を淹れます。
「華のお茶は美味しいねぇ」
おばあさんはゆっくりとお茶を飲みます。
「おばあさんに喜んでもらえて私も嬉しいです」

静かな、ゆっくりとした時間が流れていきます。
温かく幸せな冬が始まります。

秋

公園の木の葉の色もだんだん黄色くなって、秋を感じます。
今日は公園での仕事は落ち葉の掃除にしました。
「葉っぱがたくさん落ちてるね」
美子ちゃんがほうきを持ってきて言いました。
私達はこの公園で座敷童子として仕事をしています。
座敷童子の仕事とは、みんなを幸せにすること。
もちろん、私と美子ちゃんの二人ではありません。
「隊長、一日で全部はムリじゃぞ」
隊長とは私のことです。
ここではみんな、コー

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ハロウィン

「ハロウィンもすっかり定着しましたね」
炬燵でおばあさんと二人、お茶を飲みながら私は言いました。
「ハロウィン?何だい、それ?」
おばあさんはハロウィンを知りませんでした。
私は簡単に説明をします。
「あぁ、スーパーとかでカボチャ柄のお菓子が売ってあるのはそれかい」
「えぇ、そうです」
「じゃあ、今日由美たちが火葬してくるって言うのは知り合いにご不幸があった帰り道じゃないんだねぇ」
おばあさんはほ

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月

おばあさんは、月が好きです。
夕方になると、縁側に行って空を見上げます。
今日は西の方に細い三日月が沈もうとしています。
「きれいだねぇ」
おばあさんも目を三日月のように細めます。
「えぇ、とても」
私は答えました。
三日月のすぐ下に、星が輝いています。

「昔から月を見るのが好きでねぇ」
「えぇ、そうでしたね」
私は答えます。
そして遠い記憶を蘇らせます。
ずっと昔…ずっとずっと昔…

私がまだ

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