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データドリブン戦略: データ駆動型の企業を目指す

データドリブン戦略の記事です。

本文中でデータ駆動型の経営を実現するには、メトリクス、アナリティクス、ガバナンス、変革にまつわる四つの能力が必要と語っています。メトリクスを使ったモニタリングと、モデルを構築するアナリティクスはデータに対する態度やアプローチ、そして必要とされるスキルも異なります。また、「攻め」のガバナンスの存在は企業をデータ駆動型へと変革させる、その成否を分ける決定的なファクターです。しかし、これらはその重要性に比して今まであまり論じられることが少なかったと思い、記事にしてみました。


データ駆動の時代

現代は、ビッグデータ、データサイエンス、そして IoTAI の時代と言われ、それらを背景にDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。特にその起点となるのはデータ活用です。人や企業の多くの活動がデジタル化され、取得可能なデータが増え、活用機会が拡大したことに伴い、データ活用の試みは、あらゆる産業、あらゆる社会の領域で行われています。


データは見晴らしのよい高台にあなたを立たせる

データ収集、管理、整備と活用の世界は、ここ10年で劇的に変化しました。情報量はとどまることを知らずに増加しており、データを集め、組み合わせて洞察を拡大していく機会が溢れています。より多量の、より優れたデータは、企業のビジネス環境をより見晴らしがよい視点で、かつより解像度の良いレンズで見渡すことができるようになります。これまで見えなかったものが見えるようになることで、製品・サービス開発、オペレーション、顧客体験、ブランディングも改善されていきます。

データの活用、データに基づく意思決定、データ駆動型の戦略策定と遂行は、企業のアジェンダのトップに上り詰めています。競争上の差別化を図る上で、企業のマネジメントがいかにデータ活用に向けた能力を獲得し、技術と人材という土台を確保し、データセントリックなプロセスと組織文化を生み出す変革ができるかどうかは重要なポイントになるでしょう。


1つの意思、4つの能力、2つの土台

企業がデータ駆動型であるには、1つの意思と、4つの能力、そして遂行可能とするための2つの土台が、核となる構造になります。

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一つの意思とは、企業が持っている本来の究極的な目標(パーパス)に対して、その実現を確実にするために現代におけるデータとその分析、活用をどう実装し、実行するかという明確な意思です。経営陣がその意志で統一され、かつデータ駆動型に向けた変革に対して、トップやリーダー陣からの強いコミットメントが表明されていることは、その意志を全社のものにしていくために必要となります。そしてパーパスに対する、この明確な意思は、戦略という形で企業の中に具現化することになります。

4つの能力とは、第一に、現在の状況と過去のアクションの結果を把握して意思決定へとつなげる、メトリクスによるモニタリング能力です。第二に、結果を予測して最適化する高度なAIオペレーションをインソースであれ、アウトソースとの組み合わせであれ、実施可能な形で構築する、アナリティクスの実行能力です。第三に、それらの能力を効果的に支え、有用なデータソースは何であるかを識別し、組み合わせ、管理し、積極的に活用を推進する、守りではない、攻めのデータガバナンス能力です。第四に、そのような能力を得るためにも、企業が組織を変えていくことができる変革力を備えていることです。

そして、これら能力を支える2つの土台とは、実際にそれを遂行可能とする拡張性のある技術アーキテクチャの確立と、ドメイン知識とデータリテラシーを併せ持つ人材の育成です。


ビジネスインパクトへのビジョン

核となる構造を企業が保持しているとしたら、次に重要なのは、パーパスに向けた望ましいビジネスインパクトへの道筋に対し、明確なビジョンを持つことです。もたらすべき成果に向けて、どのようなデータからどのようなモデルを構築し、そしてその結果を確認し、それに基づいてどうオペレーションを改めていくか。そのディレクションに関して確信を持っていることが大切であり、これにより、「データが何をしてくれるのか」「自社はデータをどう使っていけばいいのか」という、部分的・局所的なところから議論を始めてしまうというよくある落とし穴を避けることができます。


データとビジョン・意思決定をつなげる

多くの場合、企業はビジネス上の問題に取り組むために必要なデータを既にERPや各種のデータベースに所有しています。ですが、単にユースケースを知らず、またそれがどう企業全体の目的に貢献するかを知らないために、重要な意思決定を行うことができないということがあります。

例えば、データ管理者は、稼働している工場や製品の販売店、カスタマーセンターの日次データや時間単位のデータの潜在的な価値を把握していないかもしれません。対処すべきビジネス上の問題や機会について具体的に考え、データをより包括的に見ることが重要になります。

ここにおいては、以前記事で紹介した、AIを経営戦略の中に位置づけていく「AI キャンバス」のようなアプローチ・枠組みが参考になるかもしれません。


意思決定のためのメトリクスとモニタリング

データに基づく意思決定は、ソリューションではなく、歩んでいく道のようなものといえます。銀の弾丸のようなものではありません。また、水晶玉でもありません。 企業は求道者であるべきで、データサイエンティストやアナリストを問題を解決する魔術師のように考える人もいますが、実際には道先案内人のようなものです。 生のリアルなデータをタイムリーに収集し、起きていることをきっちり掴み、正しく把握する。データの収集に対する真摯な態度をもって始め、何が起きているかを知り、何故起きているかを調べる。そうすることで、将来的に有望な結果を得るための歩みを踏み出すことができます。

データを使った意思決定を支えていくためには、適切なメトリクスを体系的に選ぶことです。 良いメトリクスとは、「あなたのビジネスにパースペクティブを与え、一貫性があり、迅速に収集できるもの」です。 優れたメトリクスは先行指標と遅延指標もカバーし、長期的な見通しを与えます。また、SMARTなゴール(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-bound)を設定できるものです。これにより、あなたのビジネスが大切にしているものを捉えます。

そして、メトリクスを計測するためのデータ収集、可視化するためのダッシュボード、更新の体制やオペレーションが整っているかを確認しましょう。

ここでは、データの民主化も大事なキーワードになります。あらゆる部署、役職の従業員が、会社が共有しているメトリクス、その基となる生データ、そして表現力豊かなBIツールを利用できるように仕組みを整えることで、彼らが日々改善のための提案を行い、変革に挑戦することができるようになります。

アナリティクスの実行能力を持つ

メトリクスはデータ駆動の意思決定に不可欠なものですが、それらは現時点の状況であり、そしてまた過去に実行したアクションの結果です。今後の業績の向上と競争優位性は、管理者や経営者が結果を予測して最適化できるようにするAI、すなわちアナリティクスモデルから生まれます。何が起きているか・何故起きているか、から、何が起こるのか、そして、何をすべきか、への跳躍です。

モデルを構築するための効果的なアプローチは、通常、データから自明に発見されるのではなく、ビジネス機会を特定し、モデルがどのようにパフォーマンスを向上させることができるかを識別することから始まります。また、メトリクスでのモニタリングと異なり、アナリティクスにおいてはデータに対する態度も異なります。活用可能な内外のデータを組み合わせて、必要であればデータを拡張させ、モデルを構築します。

その際に、パフォーマンスを向上させるために複雑でないモデルは何がありうるか、という問いを立てることは有用です。高度な手法を使えば、より優れたモデルを作ることができるでしょう。ですが、時にデータサイエンティストやAIの専門家は、複雑すぎてコミュニケーションの難しい、そういう意味で実用的ではないモデルを設計してしまうことがあります。そもそもデータ活用は企業の日々のプロセスに同期させる必要があります。保守・運用も含めたMLOps のサイクルを考えた際にそのようなモデルは採用すべきでないという評価もあるでしょう。モデリングにおいてもTCOの考え方は大事です。

何事も最初からうまくはいきません。モデル構築は繰り返されるイテレイティブなプロセスです。アジャイルメソッドとも親和性が高いとも言えます。繰り返しつつ、人間の洞察をいかにモデルに組み込んでいくか、人間参加型(HITL)の手法も有用でしょう。ビジネス機会に応えていくために、何度もトライを続け、ユースケースを確実に積み上げていくことが大切です。

更にできれば、アナリティクスによる予測と最適化のその先も見据えていくことが大事です。何が起きるか・何をすべきか、の先の、何を生み出せるか、へのチャレンジです。自社のアクションによって顧客やマーケットの行動変容をもたらし、インパクトをどれだけ大きくしていけるか。そこまでいくことで未来における業績の拡大を目指していくことができます。


データマネジメントを実装する

データ管理者は、企業が活用可能なデータについて正しく把握しておく必要があります。どのようなデータが存在し、誰がオーナーとなっており、どのような利用目的の範囲内で活用することができるのか、そして、誰に共有することができるのか、等についてデータカタログを適切に作成し、メタデータおよびデータ自体の管理を行います。

その過程においては、データの整備、クリーンナップや、はたまたアナリティクスで構築するモデルをより効果的にするためのデータの拡張等を行っていくことも大事です。教師データや拡張されたデータセットの管理なども出てきます。これらはデータ品質管理に加えてAIモデルの品質管理とも関わり、AIバイアスの排除という昨今指摘される問題の防止にも関わります。

また、その際にユーザー、顧客関連のデータにばかり目が行き、自社のプロダクトのデータ整備が重要視されないことはよくある落とし穴です。プロダクトデータの整備がいかにビジネスの伸長にも貢献しうるかについては、前にプロダクトカタログの記事で述べました。


新しいデータソースを開拓する

データマネジメントにより自社内のデータを把握した上で次に大事になるのは、外部や新しいデータソースのポテンシャルについて創造的になることです。

以前、需要予測の記事において、外部のデータを用い、需要予測を、より正確かつレジリエントなデータ駆動の予測へとアップグレードしていく重要性について述べました。

データ活用の議論を始めると、自社にはデータが十分にないという課題が指摘され、活用に向けた動きがスタックしてしまうことがあります。その場合は、外部や新しいデータソースに目を向けてみることです。

外部には利用可能なデータが様々存在しています。従前、政府や学術機関、調査機関が発表している各種の統計データが存在します。マクロ経済指標、人口動態、天気予報のデータもあります。そして近年は、多くの団体により、多種多様なオープンデータも公開されています。

また、日進月歩を遂げているソーシャルメディアは、会話、投稿、写真、ビデオ、リツイート、シェア、フォロワーの急増等の形で、消費者やマーケットの動きを刻一刻と伝えています。更には、マーケティングリサーチ会社のパネルや、各インターネット企業・データ保有企業がそれぞれの利用制限の下で、属性データや統計データの提供を行っています。

加えて、COVID-19 の感染拡大により、移動や流通が制限され、対面でのコミュニケーションではない新しい生活様式(New Normal)へのシフトが進行していく中で、より深く世の中の動き、マーケットの動き、消費者の心理の変化を把握すべく、自社データだけでなく、これら外部ソースのデータを組み合わせて分析していこうというユースケースも開拓されました。外部や新しいデータソースに関してオープンに考えていくことが大切です。


「攻め」のデータガバナンスがコアとなる

データに基づく経営、事業展開を行い、全社としての目的を達成していくために、いかに活用できるデータの種類を増やすかというところでは、各事業部を束ねた、全社横断的なデータ活用プラットフォームの構築を目指すことも重要なビジョンたり得ます。時には、企業の垣根をこえ、目的に賛同し合う企業・団体とともにデータビジネスのプラットフォームを構築していく構想となることもあるでしょう。スマートシティプラットフォームによるビッグデータ活用等はよく論じられるトピックです。

ですが、それを実際に構築しようとするとやはりなかなかうまくは進みません。そもそも協力していく各事業部、あるいは、参加企業・団体のインセンティブの設計が十分でなく、ビジネスインパクトやメリットが見えづらくなってしまうということもあるでしょう。前述したデータマネジメントの欠落により、参加する事業部・企業・団体がそれぞれ正しく自社のデータを把握していないということもあります。

加えて、特に気をつけなければいけないのは、規制や各種法令の理解です。業界毎の規制や、どの利用目的での同意を得ているのか、改正個人情報保護法やGDPRやCCPA等に代表されるデータ保護規則やプライバシー保護関連の各種法令とその動きや、トラッキング技術抑止のトレンドについての知識が十分でなく、それがゆえにデータを共有することのリスクを過大に評価し、対応していくためのコストを大きく見積もって二の足を踏んでしまう。そして構想の実現に向けた取り組みが一向に進まないことになるというのもよくある話です。

データをどう共有し、活用していけるのかについて、特に規制や各種法令を正しく知り、データガバナンスを実現させることは専門性の高い知識を要するタスクになります。そう容易くはありません。各企業においてそのような人材を育てることは難しいため、データガバナンスの人材は外部から採用することが一つの王道です。ですが、単に厳格な管理を適用するだけのガバナンスチームを構築してしまうと、データ共有や活用に必要以上のダメ出しを繰り広げ、データ活用の機運を萎縮させ、前進させるどころか後退させてしまうことになりかねません。

いかに業界や企業をこえる幅広くバランスの良い視点を持ち、かつ、データ活用を適切でありながら、積極的に推進できるか。そのような攻めのデータガバナンスを実装することができるかが、データ駆動型の経営、事業展開の成否を握ります。


土台となる技術アーキテクチャを確認する

データ駆動型の経営には土台が必要となります。内外の多様なデータの活用、様々な企業とのコラボレーションを進めていく場合、企業が持っている技術アーキテクチャの確認はポイントとなります。レガシーなITインフラは、新しいタイプのデータの調達、保存、分析を妨げている可能性があります。既存の技術アーキテクチャでは、サイロ化された情報の統合が妨げられ、非構造化データの管理は従来のシステムのキャパシティを超えている場合もあるでしょう。これらの問題を解決するには、多くの場合、何年もかかります。そこで、優先順位を考慮した上で、クラウドをデータ活用を拡大していくためのインフラとして採用し、クラウドネイティブなアーキテクチャへと変革していくことがソリューションになることもあります。


ここにおいては、クラウド人材をいかに育てていくかということがクリティカルなトピックになることもあります。


データリテラシーを持った人材を育てる

シンプルなメトリクスや、簡単に使用可能なAIのモデルであっても、ほとんどの組織では、それを構築し、分析し、活用するための、データサイエンティストやエンジニアが不足しています。外部から人材を調達することも有力なオプションですが、真にそれをビジネスに反映していくためには適切な業務プロセスの理解や業界知識、ドメイン知識が不可欠です。社内におけるデータ活用にまつわるスキルとリテラシーを、データ駆動型にアップグレードする必要があります。

スキルとリテラシーのアップグレード(リスキル)、そして文化や考え方も更新していくには、通常、トレーニング、ジョブロールと責任範囲の定義、データ活用を推奨し行動を強化するためのインセンティブ、報奨制度や評価基準、前述したような全社的BIツールを通したデータやメトリクスの民主化、更には社内データソンの開催、データを活用する人材が働きやすい環境の構築等、多面的なアプローチが必要です。トレーニングにおいても単なる座学ではなく、実際の実務上のデータと課題に基づいたプロジェクトベースでのトレーニングやワークショップが有用です。

もちろん、誰も彼もスキルとリテラシーをアップグレードできるとも限りません。例えば、変化に対してどれだけ受容性があるのかを検査するアクセプタンステストを行いつつ、組織の変革の原動力となりうるリスキルの中心となる人材を識別しておく等も検討に値するでしょう。


変革力: データドリブンな企業を目指す

データ活用、データ駆動型の経営は、DXの必要性が叫ばれている今日において、極めて重要なテーマです。しかし、企業は安易な取り組みやシステム投資に飛びつくのではなく、抜本的なプロセスや組織文化の変革も辞さない、強い意志に基づき、データにより何をなすかという目標と、そのためのデータガバナンスとメトリクスによるモニタリング能力、AIモデルを構築するアナリティクス能力の獲得、そして基礎となる技術と人材の土台の構築に集中すべきです。それぞれの取り組みを束ねたプログラムマネジメントを実行し、この野心的な脱皮に挑みます。それこそが企業の持つ変革力となります。
そのような努力は、企業の競争力とともにレジリエンスを高め、俊敏性、柔軟性、拡張性を維持しつつ、常に顧客や市場と向き合い、社会に対して価値を提供し続ける組織へ成長していくのに役立ちます。データは、それを管理・分析するための技術とともに、今後も成長・変化し続け、新たな機会を生み出していきます。データ駆動の組織へと脱皮することで、企業は、データのポテンシャルを最大限に活かした、デジタルファーストたる決定的な競争力のある事業体として、未来を切り開いていく存在となるでしょう。



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