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DX や全社戦略に求められる「プログラムマネジメント」を概観

(U.S. Air Force graphic by Benjamin Newell)


本記事は、プログラムマネジメントに関する記事です。


DXにはプログラムマネジメントが重要

先日、DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる企業のアプローチ・基盤としての、クラウドネイティブを解説する記事を書きました。

Bigdata、AI、5G、IoT、ブロックチェーン 等、各種IT領域における著しい発展をいかに取り込み、従来の物理的に縛られた事業活動から、ハイパフォーマンスを実現するデジタル世界への拡張を成し遂げていくか。そしてそれを通し、産業や生活にどのように新しい価値を届けるか。今日、企業においてデジタルトランスフォーメーション(DX)は重大なテーマとなりました。

 デジタルトランスフォーメーションは部分的なソリューションの導入ではなく、全社の環境、仕事の進め方、組織カルチャー等の刷新も含む全社変革です。場合によってはM&A、組織再設計、マーケティングの改革、リブランディング等も必要となるでしょう。多くのプロジェクトを同時に連携させていくことになり、「プログラム」という一段上のレイヤにたった「プログラムマネジメント」が非常に重要になります。

プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの違い

規模の大きいプログラムマネジメントにおいては、PMO (Program Management Office)を設立し、全体の運営・進捗管理・ファシリテーションを遂行することが一般的です。
 プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントは似ていますが、役割は大きく異なります。プログラムマネジメントにおいては、各プロジェクトのマネジメントを行う必要はありません。個々のプロジェクトの成果ではなく、それらが全社の戦略の中でつながりあったプログラム全体としての成果にその責任を持ちます。

 以下のVideoは、プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの違いを説明しています。

 Video においてもいくつか要点が触れられていますが、プログラムマネジメントを成功させるためには、例えば、以下の3つの観点からプログラム全体を戦略的に管理します。


全体としてのマネジメント

各プロジェクトにおいて、個々のタスクや成果にフォーカスしすぎると、プログラム全体として見た時に、そもそものゴールに貢献をしないプロジェクトを容認してしまうこともありえます。またそれはDX等の全社戦略に疑義を生じさせてしまう綻びの一つになってしまう可能性もあります。プログラムのマネジメントは個々のプロジェクトについて注意を払いながらも、常に全社戦略の目標・方針との整合性をとっていく必要があります。経営レベルにおいて見た際も、全社としてやるべきこと、解決すべき課題、チャレンジしたい目標に対して、プログラムの全体像がずれてきていないか。プログラム全体として各プロジェクトの成果を並べ、つなげた時に、その品質や達成度合いが全社戦略の目標に達するかを確認します。常に全体を俯瞰し、何がプログラムまたは経営にとって最適かを問い続けます。

スケジュールの精緻化、モニタリングとマネジメント

例えば、全社DXを達成するとしてその成果の期限を設定し、経営としての報告、対外発表のマイルストーンをマスタースケジュールの中におきます。そのマイルストーンから逆算し、必要な各プロジェクトの成果がどのタイミングでどの割合で達成されているべきかを識別し、それらもマスタースケジュールの中で明確にし、プログラム全体で共有を行い、定期的にモニタリングをします。
 もしプロジェクトで遅延が発生したり、成果の未達、品質の不足等の現象が生じた場合、それらのインパクトを分析しながら、なぜそのような現象が生じてしまったのかの原因分析にまで踏み込みます。かつ、可能であれば、プロジェクトのマネージャーと連携し、根本からの問題解決を行います。原因はもちろん多岐に渡る可能性があります。インフラの問題もあれば、リソースやスキルの不足等もあり、また情報共有が不十分、あるいは、そもそものDX 等の全社戦略の意義が周知されていないというようなこともあるでしょう。また、スケジューリングがきちんと精緻化されていなかったということが判明することもあるでしょう。問題解決の難易度やどれぐらいの根本的問題であるのか、というところを意識しながら、解決を図ります。場合によっては、マイルストーンの変更やむなしという上申も必要となるかもしれません。しかし、品質が達していない状態で、経営報告及び対外発表を迎えてしまったときの会社のダメージははかりしれません。スケジューリングのモニタリングやマネジメントは常に経営層とコミュニケーションをしながら進めていくことになります。

コミュニケーションのマネジメント

社内政治や場合によってはスケジュール変更やプライオリティ変更などの交渉も含めて、コミュニケーションのマネジメントは重要です。上記で触れた経営層とのコミュニケーションに加えて、ステークホルダー、つまり、利害関係者とのコミュニケーションのマネジメントが重要です。全社戦略としてのDXは、必然的にプログラムの規模を大きくし、関係者の種類・数を大きくします。部署・組織を跨ぐことによって、組織間に課題が落ちてしまったり、それぞれの部署の利害が衝突してしまうケースもあります。ときには、プログラムの中の、あるプロジェクトが抵抗勢力へと化けてしまうこともあるでしょう。プログラム内外のステークホルダーを洗い出し、それぞれのステークホルダーのミッションや状況を把握して利害を識別し、丁寧かつ敬意あるコミュニケーション、情報発信、見える化、ディスカッションを重ね、場合によっては上位の経営層に仲裁に入ってもらう等もしつつ、継続的にステークホルダーの状態を把握して、できれば良好になるように保ち、プログラムが全体として一体的に動けるように努めましょう。

胆力

これらの観点は、どれも単なる進捗管理やタスク管理ではありません。プロジェクトとプログラムと経営というそれぞれのレイヤや、各プロジェクトの依存関係も含めたマスタースケジュールというタイムフレーム、それぞれの部署・組織・ステークホルダーというポジション。縦横無尽の視点とフットワークをもって刻一刻と進む時間に対しても能動的にマネジメントをしていくということが、プログラムマネジメントの肝となっていきます。ゆえにプログラムマネジメントを担うPMOは胆力が求められます。ロジカルさに加えて、エモーショナルな面で関係者を納得させ、伴走することが重要です。メンタル的にもタフであることが必要となるため、若く多様な人材をPMOに登用する際は、部門横断でのタスクフォース経験者によるメンタリングなども有効です。


プログラムマネジメントは、全社変革を推進していくための枠組みであり、強力なエンジンです。その導入と定着は大変なエネルギーを要しますが、それがあってこそ、全社的DXによる大きな成果を達成することができるのです。

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