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生存と繁栄の鍵を握るDX(デジタルトランスフォーメーション)の起源と全体像

"Digital Transformation" by Srilekha selva under CC-BY-SA-4.0

DXの起源

DX(デジタルトランスフォーメーション)の起源はもしかしたら、1980年代のパーソナルコンピューター時代の到来にあったのかもしれない。

ダグラス・エンゲルバートや彼に続く多くの研究者たち、エンジニアたちにより、大企業や組織の計算室の奥に鎮座していたメインフレームは、一人ひとりが扱うパーソナルコンピューターへとシフトした。結果、劇的なまでに知的労働生産性は高まり、単なる効率性向上をこえた、企業における戦略的な情報化という新しいテーマが生まれた。戦略的な情報化というテーマは今、DXというキーワードに集約されている。

今や、ビッグデータ、AI5G、IoT、ブロックチェーン 等、各種IT領域における著しい発展とビジネスの変容をいかに取り込み、従来の物理的に縛られた事業活動から、ハイパフォーマンスを実現するデジタルな今日への拡張を成し遂げていくか。そしてそれを通し、産業や生活にどのように新しい価値を生み出すか。企業はそれら難題に対し勇猛に取り組み始めている。

IDCによると、2023年におけるDXへの投資額は世界で2.3兆ドルに及ぶと推計されている。全IT関連投資の半分に達する。DXは現代の企業の繁栄の鍵を握っている。それは、デザインシンキング的アプローチを採用しつつ、先端技術の果敢な活用に挑戦するという全社一丸となった取り組みを通して達成されるものだ。

DXとは何か。2018年12月には経済産業省がDX推進ガイドラインを設定し、他のIT活用関連のキーワードと同じく人口に膾炙しているために、様々な文脈で用いられることが多いが、概ねDX とは、変わりゆく顧客やマーケットからの要請に答えるために、デジタル時代の技術や価値観、そしてステークホルダーとの新しい関係の在り方をビジネスのあらゆる側面に統合していく全社改革といえる。ターゲットとしては主に、顧客とのリレーションの効果とビジネスオペレーションの効率性を高めることを狙うことになるが、そのためにも、システム、プロセス、組織と文化をアップデートし、新しい世代や変化を取り込んでいくことが肝となる。


パーソナライズとオムニチャネルの基盤を持つ

顧客満足を高め、LTVを向上させるため、企業はデータに基づいた改善活動のサイクルを習慣化し、個々の消費者へよりパーソナライズされた製品やサービスを提供していく。デモグラフィクス、サイコグラフィクス(関心や趣味、ライフスタイル)、ビヘイビアに基づき、より好ましいものを提供するように努める。現代の消費者の嗜好は細分化しており、また様々なビジネスがその多様化を後押ししている。それは、自分自身にあったチャネルを自分自身にあったタイミングで使いたいという要求につながり、それが消費者が企業へと持つ期待値のベースラインとなっている。オムニチャネルでの顧客とのコミュニケーションとサービス提供をどのようなプラットフォームで実現していくかは重要なポイントだ。


商品・サービスに纏わる一連の体験にフォーカスする

企業は、商品を顧客へ売ることのみに集中するのではなく、商品やサービスの購入や使用を中心として過去と未来の両方向に伸びた時間軸の中で、顧客が体験することになる一連のジャーニーにこそフォーカスしていくべきだ。顧客の体験価値は企業の商品やサービスを認知する前から始まっており、それは商品やサービスの使用が終了した後まで続く。その旅路をスムースにして価値を高めることによって、顧客の信頼を得ていくことができる。デジタル技術を駆使して顧客接点を増やし、求められる情報を先んじて提供する。また、直接関係がないように見えても高度なサイバーセキュリティをもってはじめて、ジャーニーの安心感も向上させていくことができる。


企業オペレーションを自動化させ、またアジャイルなものへと変えていく

オペレーションのプロセスを自動化することは組織のコスト効率性を高め、よりアジャイルな存在へと企業を変えていく。マーケットにおける競争力の強化を目指すには、組織は迅速なアクションが求められる。ゆえにアジャイルさはクリティカルな要素である。実現には、様々なAIやRPA、クラウドソリューションの活用によるシームレスなオペレーションへの移行が重要であるが、IT基盤においてはクラウドネイティブの達成が肝要である。


組織は変化を率先し、従業員のデジタル化を助ける

企業は人とコンピューターの両方が協力し合うプロセスを持った新しい組織モデルへと変わっていかなければならない。人の労働力そのものをプロセスを回すことではなく、デザインすること、チャレンジをすること、革新をもたらすことへ活きるように働き方を変えていくべきだろう。変化に対してオープンであり、既存のやり方をより良いものへと変えていくことに積極的である組織カルチャーは、 デジタルを通して進化していく上での本質的なドライバーだ。組織はイノベーションを推奨すべきで、従業員にリスキルの機会を提供し、新しいテクノロジーやデジタル時代のルールに適応して変革に必要な知識と技能を獲得するのを助ける存在になるべきだ。


顧客やビジネスパートナーとの創発の関係に挑戦する

デジタル時代において、人々はダイレクトにつながりあい、日々新しいことを創造するのが普通となった。企業もDXを通して顧客やビジネスパートナーとの新しい関係の構築を目指すことが大事になる。顧客や取引先と直接つながりあい、共に考え、議論し、先端技術を活用した新しい試みを共同で立案し、実行することに挑戦すべきだ。今後ビジネスにおける新規の取り組みはすべて、創発的なマインドにもとづく共同実証実験的なものとなるだろう。そこにおいてはデザインシンキング的なアプローチへの理解を深めることが鍵となる。


デジタル世代を取り込む

デジタルネイティブのような若い世代が生きてきた現代は、コンピューターがすべてパーソナルなものとなり、相互に接続し、技術が拍車をかけて凄まじいスピードで発展し、斬新なツールややり方が次々と生み出され、イノベーションがすべてをドライブして常に変化し続けてきたという時代である。彼らに代表される新世代の人材が活躍できるフィールドを提供し、彼らを惹きつけ、持続的に発展していくダイナミズムを獲得していく必要がある。企業は、技術基盤やプロセスをデジタル化し、顧客やビジネスパートナーと新しい関係を構築するだけではなく、彼らのクリエイティビティを引き出す新しい文化の醸成、職場環境の整備に取り組み、従業員の一人ひとりのパフォーマンスを最大化するように努めたい。顧客もデジタルへとシフトしている。ビジネスパートナーもデジタル世代へと変わろうとしている。ステークホルダーとの新しい関係に向けて、デジタル時代の人材を取り込めるかどうかは極めて重要なポイントだ。


生き残りの鍵

今、企業の寿命は着実に短くなっている。1980年代、企業の寿命は平均30年と言われていたが、今現在は23年程である(東京商工リサーチ調査より)。スタンフォード大学教授のPaul Michael Romer氏は、S&P500企業の平均寿命は100年前には67年と言われていたが、15年にまで短くなっていると指摘している。また、現在のフォーチュン500企業の40%は10年後には存在していないだろうとも述べている。

今後、更なる技術の発展により競争のプレッシャーが増し、破壊的イノベーションによって戦いのルールは塗り替えられ、少なくない企業が淘汰されるか生き残れるかの岐路に立たされるかもしれない。

現代にまで至るパーソナルコンピューター、インターネット、モバイルコンピューティング、ソーシャルメディア等のこれまでの技術革新、そして昨今の波状的に起きているビッグデータ・AI技術の進化は、活用に遅れをとった企業・人々にとって容赦のないものとなっている。例えば、ここ10年のEC化の波は大小様々なコンシューマービジネスに大きな影響を与え、新興企業の登場を促すととも消滅していった伝統的企業も少なくない。デジタル時代が始まっている。デジタル時代への適応に失敗することは静かに、再定義されていくマーケットから退場をしていくことを意味している。


そして、繁栄の鍵

DX は、企業のバックオフィスを、マーケティングを、セールスを、カスタマーサポートを、製造を、調達を、R&Dを、サプライチェーンを、それらを単に効率的にするだけのものではない。それらを新しいあり方へと変え、顧客やビジネスパートナー等ステークホルダーとのリレーションを再定義していくポテンシャルを持っている。企業はマーケットそのものをも変えることができてしまうかもしれないこの機会を逃すべきではない。

DXは生き残りをこえて、現代の企業の繁栄の鍵を握っている。冒頭で、DXの起源は1980年代のパーソナルコンピューター時代の到来にあったのかもしれない、と書いた。パーソナルコンピューターの生みの親の一人であるダグラス・エンゲルバートは情報化により人々の可能性・能力を解き放つ未来を夢見ていた。DXを通して、我々もステークホルダーを含めた企業や人の可能性・能力を解き放ち、新しい繁栄の道へと進んでいきたい。


おまけ

DXは部分的なソリューションの導入ではなく、全社の環境、仕事の進め方、組織カルチャー等の刷新も含む全社変革である。必然的に、多くのプロジェクトを同時に連携させていくことになり、「プログラム」という一段上のレイヤにたった「プログラムマネジメント」が非常に重要になる。以下は、プログラムマネジメントの解説記事であるが、こちらもご参照されたし。

そして、DX そのものは、究極の目標ではない。デジタル化という変革の力を借りつつ、企業は何を目指して跳躍を果たすのか。企業全体としての野心的なチャレンジが求められる。企業が挑戦をもってこそ、各部門、部署、チーム、従業員も熱意のあるゴールを持って活動することができる。いわゆる、ムーンショットである。


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