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数分で、5Gを概観

5Gについて書きます。


5Gという未来の技術

昨年11月に、楽天は、楽天イーグルスのホームスタジアムにて、5G ネットワークを活用し、自動配送ロボットの遠隔操作やドローンによる撮影映像を用いたユーザー認証、360度カメラを用いた8K VRの映像配信など、5Gの導入によってもたらされる次世代のスマートスタジアム実現等に向けた実証実験を実施しました。楽天技術研究所は自動配送ロボットやドローン、顔認証技術の研究・開発を担当しました。

5Gは高速大容量通信、低遅延という特質からこの実証実験で行った様々な新サービスの可能性が期待されています。例えば、去年の映画「レディ・プレイヤー1」のような多人数参加の世界を共有したオンラインVRゲームも、5Gで夢ではなくなる、かもしれません。


5Gとはなにか?

ですが、そもそも「5G」とは一体何でしょうか。

5Gとは、第5世代モバイルネットワークシステムの規格化仕様です。携帯事業者は規格化された仕様に準拠した通信設備を構築し、定められた通信速度・品質を提供します。5Gという言葉は、その第5世代の規格とそれに準拠した携帯電話通信網の総称としてとらえることができます。
1Gの時代は、音声通話のみでした。2Gで、テキストメッセージを送ることができ、3Gでマルチメディアがサポートされました。そして、今使われているモバイルネットワークの中での最新規格は、4Gです。4G ネットワークを使い、我々は電話を掛け、メッセージを送り、web 記事をチェックして、動画を楽しんでいます。3Gとの違いは圧倒的な通信速度であり、それまで3Gでは、14Mbpsだったのが、100Mbps となりました。様々なマルチメディアを使ったサービスがこれにより開始されることとなったのです。
現在、4Gは、より速く大容量の5Gへとリプレイスされていくことが計画されています。5Gはビジネスに、インターネットに、社会に大きな破壊的トレンドをもたらすポテンシャルがあります。

高速大容量

5Gは、4Gと異なり、従来の通信設備への物理的な依存は極小化されます。インターネットのクラウド上にてSDN(ソフトウェア・デファインド・ネットワーク)により実現される、仮想化された通信システムです。4Gの20倍~100倍の大容量が期待され、インターネットのアクセススピードは劇的に改善されます。3G時代にダウンロードに一日かかっていた映画のファイルが、4Gでは6分になりました。しかし、5Gはわずか数秒で完了することになります。二時間の映画もほぼオンデマンドで常に高精細で楽しめるようになります。(バッファリングは無用の技術になるはず、です。)前述した、我々の実証実験においても、8K Videoのリアルタイム送信を行っています。5Gにより、より臨場感のある高クオリティなライブ配信映像でのARやVRを楽しむことができるようになります。

低遅延

更に注目すべきは、レイテンシーが4Gと比べて少なくなり、体感レスポンス速度が極めて向上するということです。4G での反応遅延は50ミリセカンド内でしたが、5Gは1ミリセカンド程におさまることになりそうです。

低遅延の実現をより確実にするために、5G 時代は「エッジ・コンピューティング」が当たり前となるでしょう。今現在の本流であるクラウド上にデータが送られ、すべてが集約されて処理されるのではなく、(AI 処理のためのFPGAやGPUを搭載したり、)計算資源を備えた基地局やネットワーク上のユーザーに近い処理可能なエッジにおいて処理を行うことになると想定されます。これにより、クラウドに伝送するデータ量を減らすことでレスポンスを担保できます。

この低遅延の実現は、遠隔制御や自律制御、複数機器連携による新しいサービス、ソリューション、テクノロジーの登場へとつながるでしょう。例えば、遅延がなければ、リアルタイムでかつ繊細な動きが必要になる、ロボットアームを操作した遠隔外科手術や、災害時の危険な場所での遠隔ロボットによる救助活動等もより確実なものになります。将来は遠隔システムにより救急車の中でも緊急時の高度な治療が可能になり、救急車は「動く病院」になりうるかもしれません。
また、将来の 自動運転車(Self-driving Car)、自律制御 Drone や自律航行船、またワイアレス化した産業用ロボットは、大容量のデータをやりとりし、時にクラウド側からの指示によるリアルタイムコントロールを安全に実行しなければいけない可能性があるので、レスポンスタイムはクリティカルなポイントです。もし遅延が発生したら大惨事を引き起こすケースがそれぞれありえます。5Gはこれら技術にとって重要なインフラとなります。
また、複数機器連携による今までにない価値実現がありえます。Self-driving CarやDroneにおいては、自動車同士、ドローン同士でリアルタイム通信を行うことも想定されます。例えば、数台先を走る自動車が急停車しても、そのブレーキ作動情報は速やかに伝達され、自動運転時でも玉突き事故を発生しないようになる。人間の死角となるブラインドスポットから車が急接近してきても相互の通信で問題なく回避したり減速したりして走行することができる、等です。

高度なIoTの実現

エッジ・コンピューティングや遠隔制御、自律制御、複数機器連携等は高度なIoTの実現を後押ししていくでしょう。2025年までには、Self-driving Car や産業ロボットだけではなく、医療機器や農業機械の分野にまで広がることで、IoT関連の市場規模は今の3倍に成長するという予測もあります。
これはつまり、現在ある有線ベースの様々なインフラをワイアレスに置き換える可能性があると言えます。それは、スーパーでのPOSシステムだったり、あるいは、銀行のATMシステムだったり、それらの根幹たるインフラがすべてワイアレスでできるということを意味します。レジやATMを動かせるということは、店舗内のレイアウトを毎日変えることも可能になるわけです。また、工場の完全ワイアレス化、は面白い思考実験です。そこではプロダクトのデザインにあわせてラインを組むのは極めて簡単になるでしょう。有線の物理的な制約にとらわれずに自由にラインが組めるようになり、次々と新製品をマーケットに送り届けることになるはずです。
逆に言うと、有線がなくてもそれらのビジネスをどこでもモビリティをもって実現可能ということになるかもしれません。「動く病院」を上に書きましたが、「動く工場」というのも可能かも。つまり、5Gは、想像以上にビジネスのあり方を大きく定義しなおす、やもしれません。

ちなみに、楽天技術研究所では、同様に「動く店舗」という実証実験を行っています。


超多数端末接続

5Gでは、高速大容量、低遅延に加えて、超多数接続という特徴があります。1平方キロメートル当たり、同時に100万点の端末を接続できます。収容力が大きいだけではありません。超多数接続として、ネットワークスライシングという技術を活用することで、さらなるパーソナライズされたWebエクスペリエンスが提供されます。現在のネットワークでは、複数のサービスが区別なく、例えるなら一つのパイプにまとめて送られていました。あるサービスの負荷が高まると、全く関係のないサービスもその影響を受け、遅くなる等があるわけです。ネットワークスライシングでは、膨大なデバイスが接続されている中でも、クラウド上で、サービス毎にネットワークを区分けられて使用することが可能になり、他のサービスの影響を受けなくなります。いわば、仮想の専用に確保されるネットワークといえます。例えば、リッチなコンテンツを縦横無尽に取り扱うオンラインゲームに興じたいユーザーは、SNSをチェックしているのみのユーザーと比べて、より速いレスポンスとデータ容量を使いたいと思うわけで、そういう際に極めて有効です。
また、例えば、決まった時間帯に特定のエリアに沢山の人が集まり、みんながSNSにメッセージや写真や動画をアップロードしたくなるようなライブやイベント、球場での野球観戦等においては、今までは膨大なアクセスと重いデータの殺到にネットワークはなすすべもなかったこともあったのですが、これからは、ネットワークをどんどんスライスして提供していくことでトラフィックの同時流入による混雑を回避し、イベント参加者のエクスペリエンスを守ることができるかもしれません。年末のカウントダウンや年始のあけましておめでとうのビデオ動画配信等での一年でもっとも殺到するタイミングでも問題なく処理ができるかも。冒頭で、楽天が楽天イーグルスのホームスタジアムで次世代のスマートスタジアムを睨んだ5Gの実証実験をしたと述べましたが、これは5Gのスライシングの特徴も考慮して捉えてみると興味深さがましてくるかなと思います。

5Gの普及について

さて、そんな5Gですが、いつ頃、本格的に広まり、活用されるでしょうか。
5G の規格が定まり、長い間、人口に膾炙してきたわけですが、一説ではすぐには普及せず、緩やかに利用が広がるだろうと考えられています。高スペックの5Gを活用した効果的なユースケースがそう簡単には現れず、利用は当初は限定的に進み、3G、4Gもまだまだ使われ続けると。GSMA Intelligence のレポート「The Mobile Economy 2018」では、2025年時点においても50%近くのトランザクションが4Gを用い、30%が3Gを使い、5Gの使用は15%程度に留まるだろうとも予測されています。ですが、別の専門家の予測では、2025年にはUSや日本では約50%のモバイルコネクションが5Gを使うだろうという予測もありますので、今後の展開に予断は禁物です。

5Gが適切に機能するためには、周波数帯域幅を広げて対応していくことが必要になり、新しい設備投資が要求されます。そして、国や地域によっては、3G、4Gのための既存設備のランニングコストと、5Gの新規投資の兼ね合いが普及のハードルになるケースもあります。中国はHuawei やZTE を動かし、国を挙げて5Gの一大トライアルなどが可能ですから、大胆なアプローチで5Gの大規模展開をはかっていくかもしれません。ここは、中国において、顔認識・不正検知・信頼度スコア計算等の AI 技術開発が進んでいることと同じ話になるのかもしれません。また、新興国の方が既存の設備のコストが重くのしかからない分、5Gが進みやすいということがあるでしょう。これは、モバイルペイメントに代表される FinTech の普及が新興国程大きいというようなことと類似性を見いだせるかもしれません。


そして未来へ

5Gは、インターネットの利用を大きく進化させる可能性があります。職場や家庭での有線接続はこれによって完全になくなってしまうかも。もちろんローマは一日にしてならずですが、それはやがて実現される未来です。



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