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【デマンドセンシング】ソーシャルメディアを使った需要予測の高度化について

本記事は、ソーシャルメディアを使った需要予測の精度向上に関する記事です。


デマンドセンシングの可能性

先日、書いた需要予測の記事の中で、「デマンドセンシングにより変化の予兆を掴む」方法を紹介しました。

デマンドセンシングを用いて購買行動のリアルタイムの変動を捉え、既存の予測を調整し、ニアタイムの誤差を少なくしていく方法がある。変化の激しい市場で事業を展開する企業にとっては、このアプローチは大きな助けになる。POSシステム、ECサイトからのアクセス数・オーダー数、ソーシャルメディアにおけるキーワード等、日々のシグナルを抽出し、過去のパターンと比較することで売上の増減を検知する。それぞれの乖離の重要度を自動的に評価し、影響要因を分析し、短期的な計画の調整を提案する。

デマンドセンシングの中でも特にソーシャルメディアにおけるデータの分析は、ビジネスにおける需要の予測の精度を改善していくことに留まらず、広告、マーケティング、商品開発、投資、ひいては政治等、多くの我々の活動に関する予測の精度を改善させていく武器になりえます。ビジネス以外にも、例えば、医療分野において、COVID-19 の感染が拡大していた2020年4月、日本のクラスター対策班が会見で、「ソーシャルメディアのデータを分析し、症状を訴える投稿がどれぐらいあるかによって感染の拡大状況をウォッチしている」と明かしており、広くその応用があります。


ビッグデータのソースとしてのソーシャルメディア

ソーシャルメディアは、世界中の人々の感情や意見が集まった、リアルタイムのビッグデータとして活用していくことができます。毎日、何十億人もの人々がTwitterやInstagram 等メディア上で、どこに行ったか、何を買ったか、商品やサービスについての感想や意見を語っています。 この情報は、小売、消費財、銀行、保険、ヘルスケア等のコンシューマービジネスにとっては顧客・マーケットからの評価を知る重要なソースです。

いいね、リツイート等のアクション、投稿やコメント等のテキスト内容、さらにはInstagram 等にあげられる画像や動画まで、ソーシャルメディア上のアクションやコンテンツは、特定のトピック、ブランド、製品、企業、人物に対する消費者の関心の高さとその方向性を示すものといえます。

企業はソーシャルメディアのデータを解析することで、自社のブランド活動がどのようなパーセプションや受け止め方をされているか、またどのようなリアクションを誘発するのか、あるいは起こせるのかに関する理解を深めることができます。ですが、それだけでなく、自社の未来に関わる、業績予測や、製品やサービスの売上予測の精度を高めることが可能であり、消費者の声を反映した生産計画の精度向上や、欠品待ちによる機会損失低減等に貢献します。


ソーシャルメディアによる予測モデルの構築

金融コングロマリットの一つ、Credit Suisse は、ソーシャルデータ分析の NetBase を活用し、株価予測モデルを構築しています。ソーシャルメディア上の投稿数の推移や、ポジティブな話題の推移をリアルタイムに収集し、主にアパレルや高級ブランドの株価を6か月先まで高い精度で予測することができたと発表しています。(参照

今年6月に出た、Woon Sau Leung 他による以下の論文では、2010年から2017年の3000万以上のツイートを用いた解析で、ソーシャルメディアを用いたセンシングは株価の収益予測に"かなり(significantly)" 有効であるとしています。


グローバルマーケット・リサーチの一つ、Kantar TNSは、Twitterのデータを使ってブランドの健全性を測る指標("Brand Health Index" - BHI)を作成しています。Kantar TNSは、Twitter データによる学習で、ビールのような特定のカテゴリの売上予測においては、予測モデルの精度をわずか数%のエラーで構築することができるとしています。

また、以下の Kellogg School of Management (ケロッグ経営大学院)の研究では、ソーシャルメディア(ここではFacebook)の投稿データを予測モデル学習のトレーニングデータとして補完に用い、アパレル企業の売上予測の精度を向上させた事例を報告しています。


実際に筆者も過去に、ソーシャルメディアデータからの商品の売上予測モデルを構築したことがありますが、すべてのジャンルに適用できるわけではありませんが、商材によって高い精度を出すことが可能です。


需要予測の補完

このことは、ソーシャルメディアデータが従来の需要予測で用いている過去の販売データ等によるトレーニングを補完できる可能性を示しています。

信頼性の高い予測モデルの構築に、ソーシャルメディアデータを用いる際には、ツイートや投稿の量を数えるだけではなく、その内容を分類し、インプットに用いると効果的です。例えば、「いいね」「スキだな」という嗜好性や、「買いたい」「買おう」という購買意思、「だから、X社のサービスはいい」という忠誠心や、「この値段だと安いね」という価格感応性、そして「ポチッとした」「買っちゃった」という実際の購買等。書籍やDVD、映画等のコンテンツに関する予測に関しては、ツイート数のカウントだけで売上予測を行うのに十分な精度が出ますが、他の商材に関しては、これらに分類される投稿のウェイトを考慮することで、単純な言及のツイートよりも予測精度を高めることができます。

画像や動画に関しては、上記の分類に加えて、どのようなフィルターがかけられているか、またどのような色合いや雰囲気で投稿されているかが分類の手がかりになることもあります。


投稿分類の難しさ

とはいえ、投稿の分類は、そう簡単なものでありません。皮肉、風刺、反語的表現、イディオム、一見けなしているようにみえた礼賛(「頭がおかしい」という表現はそのように使われることも多いですね)、独特のネットスラング等、ニュアンスを検出するには、NLP(自然言語処理)分野の成果を用いていく必要もあります。また、投稿の分類ごとに、投稿そのもののポジティブな感情、ネガティブな感情、ニュートラルな感情のいずれなのかを判定していくことが重要です。この際には、Sentiment Analysis のアプローチを参照するのがいいでしょう。(前述した Kellogg School of Management の研究でも同様のアプローチをとっています。)


また、そのようなツイート・投稿内容の分類や、それによる重み付けに関しては、上記に加えて、人間による評価を組み合わせた機械学習アプローチも有効です。いわゆる人間参加型アプローチ(Human-In-The-Loop)です。


インフルエンスの度合い

ソーシャルメディアのデータを需要予測へ反映する際の困難なポイントに、多くあるケースではありませんが、インフルエンサーの投稿というものもあります。Marketwatch の調査によると、セレブリティによる投稿は平均してその製品の4%の売上増加につながる可能性があることが示されています。もちろんこれはインフルエンサーマーケティングの有効性を示しているわけですが、偶発的にインフルエンサーが投稿した際に需要が急増したにも関わらず、体制が整えられず、販売機会を喪失したとあっては残念なことです。TV番組で製品がとりあげられて需要が想定外に伸びるというケースもあり、このようなイベント発生時に、センシングによって需要予測モデルを修正できることが必要となります。

また、過去のソーシャルデータの活用においては、そのような投稿や偶発的なイベントにおけるインフルエンスの影響を考慮してモデルのトレーニングをはかっていくことが大切です。


ノイズの除去

順番が前後してしまいますが、ソーシャルメディアデータの解析においては、そもそものノイズの除去が重要であることも述べておきます。

ソーシャルメディアは多くは開かれた場のため、投稿の多くが消費者を装ったものであることもあります。メーカーのマーケティング代理店やソーシャルメディアでのつぶやき代行業者、ボット等が書き込んだものが多いです。多くの製品カテゴリーにおいて、リアルな消費者からの書き込みは10%程度で90%はそれを装ったもの、ということも不思議な話ではありません。このようなノイズをフィルタリングし、予測モデルに使うデータは適切なセットになるように対策しておくことは大切です。


最後に

ソーシャルメディアは、マーケットや消費者のトレンドをピンポイントで把握できる嗜好の変化に関する多くの手がかりを提供しています。そのシグナルを掴み、予測に活かすことで、企業は自社の製品・サービスの人気や売上に関して正しく理解できます。

そしてソーシャルメディアは、世界中で活用されています。それらの分析は、ビジネス・ブランドがマーケットに、そして消費者にどう評価されているかを幅広く知る重要な手段です。ですが、それらは現時点の状況であり、そしてまた過去に自社が行ってきた活動の結果です。今後のビジネスの方向性は、本記事で紹介したようなソーシャルメディアデータも用いた未来の予測とそれによる意思決定、ビジネスアクションにかかっています。デマンドセンシングを行い、常に顧客やマーケットと向き合い、社会に対して価値を提供し続けるよう、ビジネスを成長させていきましょう。


おまけ

ソーシャルメディアデータを用いたデマンドセンシングは、必然的に企業をデータドリブンな組織へと変革していくための助けとなります。以下の記事もご笑覧いただければと思います。


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