山本正美

株式会社エピグラズム代表取締役。元SIE 外部制作部長/エグゼクティブプロデューサー。…

山本正美

株式会社エピグラズム代表取締役。元SIE 外部制作部長/エグゼクティブプロデューサー。『Bloodborne』『ソウル・サクリファイス』『みんなのGOLF6』などを制作。『勇者のくせになまいきだ。』シリーズ他、『TOKYO JUNGLE』などをプロデュース。

最近の記事

ボクはたぶん大人になれた?

『ボクたちはみんな大人になれなかった』 ゼロ年代は何もない時代と言われるが、こうして振り返ると、ファッション、音楽、映画、アニメ、街と、90年代は、(サブ)カルチャーとしてとても豊かな時代だったなと断言できる。 スマホもSNSもなかったけれど。なかったがゆえに、か。 上京してからアスキーを辞めるまでは新宿、SMEで最初の『天誅』を作ったときの職場が渋谷だったので、当時の風景とともに、がむしゃらに、そしてなんの迷いもなく働いていた毎日を思い出し、あの主人公に比べてどれだけ自

    • 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

      原作は遠い昔に読んだことがあった。ハサウェイの立ち位置はなんとなく覚えているが、全体的な物語やシャアの反乱以降の世界がどういう建付けだったかはあまり記憶にない。なのでそれほど観るつもりはなかったが、とにかくMSの戦闘シーンがカッコいいと評判なのと、文人さんが観たとポストされた映画は観ると勝手に決めているので、いそいそと映画館へ。 観る前に、「公開後3日間の興収が5億2000万突破」というニュースを目にし、え? という疑問が湧いた。歴代ガンダムシリーズ最高興収を狙えるというこ

      • 『バディミッション BOND』に見るアドベンチャーゲームの地平線

        『バディミッションBOND』 メインミッション6章までと、解放されているサブストーリーを遊ぶ。いわゆるコマンド入力形式を、手を替え品を替え分解し、バリエーション豊かな入力手法として取り揃え、物語上に再構成する。という方法論をやり切れば、アドベンチャーゲームというジャンルにもまだ拓ける大地があるんだなぁという印象。 アドベンチャーにありがちな、不自然にキャラが並んでこっちを向いて会話する…という表現が採用されている箇所もあるにはあるが、キャラパターンの物量を揃えること、喋っ

        • 令和に蘇った、ある種の『青春の蹉跌』

          娘に薦められて鑑賞。ドキュメンタリーという手法と、『桐島』的構造と、ひっくるめてのお笑いという、見応えある"作品"。 最近観た映画の中でも、圧倒的にあっという間の2時間だった。 学校や会社といった大きなコミュニティでは、人との関係を紡ぐ中で、さらに細分化されたコミュニティが発生する。そのコミュニティは、特別な存在にならんことに自覚的で、他者を排他することによりブランディングしていく。 そして多くの場合、そのコミュニティの周辺には、そのコミュニティを忌避する個が必ず存在し

        ボクはたぶん大人になれた?

          大事なのはルールの伝達じゃない。僕らはそれを『ヒカルの碁』で学んだ。

          主演女優の顔力と眼力が強すぎる。すごい。 映画ドラマに関わらず、作品において「孤児院」という場所での生活が取り上げられる場合、子供間の諍いや先生からの迫害など、負のシチュエーションが描かれることが少なくない。同様に、孤児院から抜け出し「里親」のもとに場所が移ったとしても、やはり同じような不愉快さがその後のカタルシスの源泉になっていたりするパターンも多い。 このドラマを見始めてしばらくはずっと、ドラッグや酒などのキーアイテムの存在も手伝って、「ああ、嫌な展開に入っていくのか

          大事なのはルールの伝達じゃない。僕らはそれを『ヒカルの碁』で学んだ。

          それは、素敵な五角形の物語

          綾部さんがシナリオを手掛けられた朗読劇、『作るカノジョと僕らのテ』を観劇させていただく。 朗読劇を体験するのは今回が初めてだったが、演劇のお芝居が醸し出す高圧力高濃度なエネルギーに比べ、聴かせることを軸とすることによる観客のイメージ増幅自由度が非常に高く、個人的に終始居心地が良かった。四人のまだ何者でもない男性と、一人の女性がシェアハウスを舞台に描き出す、恋愛と友情のイニシエーション。その物語の、六人目の登場人物になりたい。そう思えるナチュラルさがあった。 舞台を彩るプロ

          それは、素敵な五角形の物語

          才能の描き方、そのあるべき姿

          登場人物の「物凄い才能」について描くコンテンツは、多くの場合、その才能に対してバイアスをかけることでドラマを作る。 翼くんはケガによって、カペタは金欠によって、BECKは妨害によって、その素晴らしい才能を"発揮できない"。そのバイアスにどう打ち勝つのか、は確かに読み手の興味の源泉になるが、その才能の発露をストレートに楽しめないものか…というストレスもまた、同時に溜め込むことになる。 例えばのだめは、千秋が飛行機に乗れないためオーケストラの本場であるヨーロッパに行けない、と

          才能の描き方、そのあるべき姿

          『1917 命をかけた伝令』たった一か所のカットに感じたこと。

          「それから1年の時が経った」と書けば、わずか1秒で、1年の時を経ることができる。 その意味で物語は、人類が時間という無常な暴君を切り刻むための、ひとつの手段として開拓されてきた。思えば映画はこれを、“カットを割る”という技法を用いることで達成してきたのではないか。様々な時間軸を、時には並列に、時には点々に演出する。考えるにそれを逆手に取り、原点回帰として時間をあくまでも直列として繋いだらどうなるか、という発想で生まれたのが、たぶんワンシーンワンカットという技法なんだろうと思う

          『1917 命をかけた伝令』たった一か所のカットに感じたこと。

          去年と今年の誕生日で違った、小さなこと。

          1月28日は、一般的には星野源さんの誕生日らしいが、僕と息子の誕生日でもある。 というわけで本日誕生日だったわけだが、思うに10年という単位に、人はメモリアルな感傷を抱きがち……ということを、去年の今日に、Facebookに書いた自分の文章から感じた次第。 =====一年前の感傷===== 49歳になったときから、50歳になるのが嫌だった。 嫌というより、50代の自分をまったくイメージできなかった、というほうが正しい。 思えば30歳のときは、「天誅」を一緒に作った仲

          去年と今年の誕生日で違った、小さなこと。

          『前田建設ファンタジー営業部』を観た。

          ゲーム音楽の世界で目覚ましい活躍をされている作曲家、株式会社ノイジークローク代表の坂本英城さん。多くのゲーム制作で仕事を共にさせていただいてきた氏が、劇伴の楽曲、それも映画音楽を手掛けられた。 その映画『前田建設ファンタジー営業部』は、かつて子供達を熱狂させたアニメ、「マジンガーZ」の”格納庫”を、資本金284億円の一部上場企業である前田建設が”本気”で作ろうとするお話し。いや、”本気”作ろうとする様を”面白おかしく”描いた、極上のコメディ映画というほうが正しい。ありがたい

          『前田建設ファンタジー営業部』を観た。

          『アイリッシュマン』を観た。

          スコセッシの映画の中では、構造的には『グッドフェローズ』に近い。バイオレンスと往年の名曲のミクスチャー。監督演者、共に老境に差し掛かったこともあるのかさすがにバイオレンス成分は薄めだが、そこは破格の名優揃い。通底する、ピンと張りつめた緊張感は他に類を見ない。 時間軸の扱いが結構面白く、「今」をベースに「過去」を振り返りつつ、平行して展開される「デトロイトへの旅」という本線において、「過去」がいつしかその旅へと追いつき、そのまま「今」へと収斂されてゆく。手の込んだ脚本だなあと

          『アイリッシュマン』を観た。

          『点描の唄』が彩った点描

          娘の通っている中高一貫校の文化祭には、部活の発表やクラスの出し物とは別に、好きな仲間と自由にユニットを組み、ダンスなどのパフォーマンスを観客に発表できる、文字通り“有志”というイベントがある。 ステージに立てるのは、といってもそれは大きめの教室なのだけれど、熾烈なオーディションをくぐり抜けたパフォーマーのみ。 娘はダンス部に所属していて、もちろんそれら部活の発表会も感涙モノだったのだが、例えばダンス部の踊りは、先生や先輩の指導が入り、コンテストなども絡むいわば教育の一環と

          『点描の唄』が彩った点描

          アナログ外部記憶を持ち歩こう。

          日曜日。インバウンド客が日本で買って帰るおみやげランキングの番組を見ていたら、恥ずかしながら知らなかったんですが、「トラベラーズノート」という、言ってみれば昔でいうシステム手帳のすごいラフなやつ…が結構上の方の順位に入っていた。 チョッチ恣意的なナニカは感じつつ、中目黒の小さいお店にツーリストがこぞって買いにやってきて、世界中にファンがいる、ということだそうで。基本、本体は皮カバーだけで、中にどんなリフィルを挿すかはアナタ次第。絵を描くひと、写真を貼る人、使い方は様々。

          アナログ外部記憶を持ち歩こう。

          『ターミネーター ニュー・フェイト』を観た。

          個人的には、期待値と鑑賞後の感覚が大体一致。単純に「面白かった」と思えた内容だったが、興行収益は想定よりかなり低い状況だそうで…。何がダメだったのか、と言えば、まあ思い当たる節はいくつかある。 まず、冒頭の家族説明→ターミネーター来訪→工場での戦闘→カーチェイス→サラ・コナー登場…の滑らかな連打。もう、ワクワクで涙が出るほどに完璧だった。ジョン亡くなりし後の指導者が女性。その彼女を、強化人間として守りに来るのも女性。その二人を手助けするサラ・コナーもまた女性。分かりやす過

          『ターミネーター ニュー・フェイト』を観た。

          『イエスタデイ』を観た。

          ビートルズの楽曲を聴いたことがなくとも、ビートルズというすごいバンドがあった、ということさえ知っていれば、気持ちよく楽しめるラブコメディだった。そして、それが即ち物足りなく感じた理由でもある。 ビートルズの曲が、物語のシチュエーションに合わせて流れる。主人公の境遇と、それに沿った歌詞を213曲の中から選曲する脚本執筆は、さぞや楽しかっただろう。繰り返すが、その成果を味わうだけで、基本的には十分。ただ、もうちょっと驚きが欲しかったのである。 着想を記事で読んだとき、これは面

          『イエスタデイ』を観た。

          息子の卒業と僕の石ころ

          昨日、息子が高校を卒業した。 今年の大学受験は、入学定員充足率が1.1倍を越えると私学助成金が交付されない、いわゆる定員厳格化の影響で、例えばGMARCHの定員は三年前に比べて各校軒並み2,000人から3,000人減った。生徒の首都圏集中を避けるための措置とはいえ、受験生には酷な状況が続いている。 という中、どうなることかとハラハラしつつも息子の大学受験は終了。掛けた時間と労力に比して「燃費がいい」、とは本人の弁だが、一定の成果を勝ち取る結果となり、晴々とした気持ちで卒業

          息子の卒業と僕の石ころ