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『前田建設ファンタジー営業部』を観た。

ゲーム音楽の世界で目覚ましい活躍をされている作曲家、株式会社ノイジークローク代表の坂本英城さん。多くのゲーム制作で仕事を共にさせていただいてきた氏が、劇伴の楽曲、それも映画音楽を手掛けられた。

その映画『前田建設ファンタジー営業部』は、かつて子供達を熱狂させたアニメ、「マジンガーZ」の”格納庫”を、資本金284億円の一部上場企業である前田建設が”本気”で作ろうとするお話し。いや、”本気”作ろうとする様を”面白おかしく”描いた、極上のコメディ映画というほうが正しい。ありがたいことに、坂本さんに試写会にご招待いただき拝見してきたが、ヨーロッパ企画の作品がお好きな方ならば間違いなし、そうでない方にも満遍なくおススメできる内容。特に、マジンガーZをこそ知らない、若い人に観ていただきたい一品だった。

格納庫を「本気で作る」ではなく、「本気で作ろうとする」と書いたのは、別に最終的な施工を目的としていない、という意味からだ。とかく”悪い”イメージが持たれがちな大手ゼネコンが、「もし架空世界から我が社に、架空世界に存在する建造物の発注がきたら…?」というあり得ない前提を本気で検討することで、前田建設が持っているノウハウや、建設業の果たしている役割を楽しく広く知らしめよう……ということを、WEB連載企画として立ち上げる、ボランティア広報チーム。この映画は、その連載企画を展開するにあたって巻き起こる数々の苦闘を描いた、コメディドキュメンタリーという建付けなのである。

まず出色なのは、おぎやはぎ小木さんの怪演。小木さん演じるアサガワという課長が「マジンガーZの格納庫を作ろう!」と言い出すことからすべてがスタートするのだが、本来もっと、「なぜそれをやるのか?」の動機が語られるべきなはず。そもそもなぜ数ある架空作品の中からマジンガーZなのか? 幼いころに余程の思い入れがあるのか……? しかし小木さん扮するアサガワは、そんなことまったくおかまいなし!「ブルーオーシャンだね!」「ニューフロンティアだね!」と、絶妙ハイテンションの一点突破で周囲を巻き込んでいくのだ。このテンションにまず、登場人物の誰よりも先に、観客が罹患してしまう。

最初はこの降って沸いたような仕事に辟易としているメンバーも、徐々にその気になっていく。もともとオタク気質のあったチカダ(本多力さん)はハナからここぞとばかりにノリノリで、自前のDVD-BOXを提供。先輩格のベッショ(上地雄輔さん)はそんなチカダに引きながらも、奥さんと息子さんのために一念発起。専門用語が飛び出すとすぐ宇宙に意識が飛ぶ(寝る)エモト(岸井ゆきのさん)は、掘削のスペシャリストヤマダとのプライスレスな出会いにより、恋心をパワーにこの仕事にのめり込んでいく。些かステレオタイプではあるが、しかし分かりやすく、各自のモチベーションの高まりが演出されていく。そして最後に残るのが、主人公である後輩社員ドイ(高杉真宙さん)だ。

映画自体は、ドイのモノローグから始まる。大学時代にしていたバカ騒ぎ、そんな楽しさは、社会に出るとなくなってしまう、と。どこか日々を惰性で過ごしていたように見えるドイ。さらにはそこに、「マジンガーZの格納庫を作る」という、なんの意味があるのか分からない仕事が飛び込んでくる。何に本気になればいいのか、何に本気になれるのかに悩みながらも、ドイはこの訳の分からない仕事に身を染める。その中で、チームの一生懸命さと出会い、自分の所属している会社が成し遂げてきたことを知り、成し遂げてきた場所に赴き、それを支えてきた人や受け継ぐ人らと語らい、搾取されようのない「やりがい」を見出していく。

格納庫に必要な掘削、扉の開閉、台車の横移動。数々の難問が彼らを襲う。そうしてアサガワ率いるこのチームは、必要に迫られ「他社」の技術者をも巻き込んでいくことになる。あまりに高い技術ハードルに初めは難色を示す他社の技術者だが、全員が一様に、前向きなアイデアでそれらを解決していく。彼らは誰も、このミッションのことを「単なるWEB企画」とは考えていない。みな口を揃えて、「人類を守るために必要だ」という理由で、惜しみなく技術ノウハウを提供してくれるのだ。そう、業界の慣例や商習慣を超えて、彼らも楽しんでいるのである。

すべての技術要件が達成され、見積もりと積算が終了。総工費が算出されプロジェクトは完了、かと思いきや、マジンガーZの世界から通信が入り、敵が襲ってくるという事態に陥る……が、これはドイの夢。他人事で始めた仕事だが、自分事としてのめり込み、そして成し遂げたミッションの先を夢で見てしまうほどに、結果的にドイはこの仕事に打ち込んだのだ。

この映画はまごうことなきコメディである。しかし、「楽しく仕事をする人達の清々しさ」には、まごうことなきリアルを感じる。それはまさに、音楽を手掛けられた坂本さんと僕らが、これまで一緒に仕事をする中で大事にしてきたことでもある。

「笑っているうちに終わっている仕事って最高ですね」。いつも坂本さんと交わしていた言葉を体現するような内容の作品が、ゲームだけではなく映画でも成し遂げられてしまったということが、すごく嬉しくもあり、そして、ちょっと悔しくもあるのだった。

#前田建設ファンタジー営業部

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