「メディアが子どもの発達に及ぼす影響」の科学的根拠とは?
こんにちは,今福です。夏らしい暑さになってきましたね。熱中症には気をつけましょう。
今日は「「メディアが子どもの発達に及ぼす影響」の科学的根拠とは?」について書きたいと思います。
前回紹介した【「自然体験は子どもの発達に良い」に科学的根拠はあるの?】とは対極の内容ですね。自然と文明...。
皆さんはデジタルメディアを1日にどのくらい使用しますか?
私は,テレビは基本的に家に居るときは1日中つけていて,PCやスマートフォンも毎日欠かさず使用しています。お仕事(講義,研究論文の執筆,データ分析など)に必須です。SNSにも...。
日常にデジタルメディアのある生活が当たり前になっている現代では,デジタルメディアの使用は子どもの発達に影響を及ぼすのでしょうか。
(1)子どものデジタルメディア使用の現状
第1子が0歳6ヶ月~6歳までの就学前の乳幼児子どもを持つお母さん3400名を対象に,2013年と2017年時点での,家庭のデジタルメディア所有率と,1週間あたりに子どもがデジタルメディアを使用する頻度が調べられました(ベネッセ教育総合研究所 第2回乳幼児の親子のメディア活用調査, 2017)。
例えば,家庭でのスマートフォン所有率は2013年から2017年にかけて,60.5%から92.4%と増加しました。「1~3歳のスマートフォン使用頻度は,24%がほとんど毎日,22%が週に1~2日」でした。
子どもがスマートフォンを使うのは,「外出先での待ち時間,親が家事などで手をはなせないとき,子どもがさわぐときや使いたがるとき」などで使用の割合が増加しており,夕食後の20時以降に使用する頻度が多いよう。
ちなみに,「テレビの視聴については,1~3歳の時点でおよそ75%(未就園児の83.9%,保育所児の66.2%)がほとんど毎日視聴」しているようです。
(2)デジタルメディアから言語を学習できるか
早期教育のDVD教材なども世の中にありますが,子どもはデジタルメディアから言語を学習できるのでしょうか。発達心理学研究をいくつかご紹介したいと思います。
①ビデオ画面越しに外国語を学べるの?
英語環境に住む9ヶ月児が,外国語(中国語)の音声を学習できるかという実験が行われました(Kuhl et al., 2003)。乳児は4週間で1回25分のセッションを12回経験しました。学習方法がいくつか分かれていました。
グループ1:中国語をライブで学ぶ(※目の前にいる中国人から学習)
グループ2:中国語をビデオ画面越しに学ぶ(※映像と音声による学習)
グループ3:中国語を音声のみで学ぶ(※スピーカーの音源による学習)
どのグループの乳児が外国語を学ぶことができたでしょうか。正解はグループ1の乳児しか外国語を学ぶことができませんでした。
この結果は,乳児は対面して目の前にいる人からしか言語を学べないということを示しています。つまり,「ビデオやCDで外国語を見聞きさせても,乳児は外国語を学ぶことは難しい」ということですね。
出所:Kuhl et al. (2003) を改変
②1人より3人なら!
①の実験は,乳児は中国語をビデオ画面越しに学ぶことが出来ないという結果でした。
先ほどと同じ研究グループが,英語環境に住む9ヶ月児を対象に,中国語をビデオ画面越しに学ぶ実験を再度で行いました(Lytle et al., 2018)。
今度は,(A)1人でビデオ画面越しに学ぶグループ,(B)3人以上でビデオ画面越しに学ぶグループ,に分けられて中国語を学びました。
出所:Lytle et al. (2018)
その結果,(B)のグループでは中国語の学習が見られ,驚くべきことに,ビデオを一緒に見た人数が多かった子ほど,外国語の音声を学習していたようです。(A)のグループでは学習が見られませんでした。
これは,多数でビデオを視聴するなど,「学び方を工夫すると画面越しでも学習が起こる可能性」を示しています。
③教育用DVDは言語発達に有効なの?
ランダム化比較試験(いくつかのグループを設けて介入・治療などの効果を検証する研究方法)を用いて,0〜2歳の乳幼児の言語発達に教育用DVDが有効かを検証した研究があります(Richert et al., 2010)。
この研究では,(a)1歳2ヶ月未満の乳幼児に関しては,教育用のDVDは言語発達に影響がないこと,(b)1歳2ヶ月〜2歳の乳幼児に関しては,教育用DVDを視聴したグループの方が,語彙の獲得数が少ない傾向にあることがわかりました。
「年齢によっては,DVDの視聴はむしろマイナスの影響がでてしまう可能性」もあるようです。
④双方向型であれば学べる!
ビデオでも,Skypeなどの双方向型のものであれば言語(動詞)を学習できるという2歳児を対象とした研究があります(Roseberry, 2014)。
この研究は,幼児の学習において「社会的随伴性 (social contingency)」が重要であることを示しています。
(3)デジタルメディアは悪影響か
テレビやスマートフォン,タブレット端末などの画面を見る時間のことを,総称して「スクリーンタイム」と呼びます。スクリーンタイムと子どもの発達の関係を調べた研究をいくつか紹介します。
①生活習慣への影響
オーストラリアの2~5歳児を対象とした研究においても,スクリーンタイムの増加は,睡眠時間の減少や就寝時刻の遅れにつながることを示しています(Xu et al., 2015)。ちなみにこの研究では,屋外での遊び時間が増加すると,夜中に目が覚める可能性が低くなることも明らかにしています。
②行動・症状・認知への影響
中国の3~6歳児8900名を対象にした研究では,1日のスクリーンタイムが2時間以上の幼児では,睡眠時間が短く,情緒の問題・行為の問題・多動/不注意・仲間関係の問題・向社会的な行動の問題がより多く見られることがわかりました(Wu et al., 2016)。
さらに,1日のスクリーンタイムが2時間以上の幼児は,自閉スペクトラム症の行動症状がより多く見られました。(※これは因果関係ではなく,あくまで相関関係の結果です)
アメリカの15~16歳の高校生2587名を対象とした研究では,デジタルメディアの使用頻度の多さがその後のADHD症状の強さに関連することが示されています (Ra et al., 2018)。
また,オーストラリアの大規模な研究では,2歳時のスクリーンタイムの多さは,その後の自己制御能力に負の影響を及ぼす可能性があることがわかっています(Cliff et al., 2018)。自己制御能力は,自分の行動や感情をコントロールするための能力です。
一方で,中国の研究では,スクリーンタイムが就学前の子どもの実行機能と正の相関関係にあることを示しています(Yang et al., 2017)。
③親のスクリーンタイムの影響
それでは,子どもの母親がデジタルメディアを使用する場合はどうでしょう。どうやら,母親のスマートフォン,テレビ,コンピュータの使用時間が長いほど,子ども(3歳児)の内在化・外在化問題行動が多いことがわかっています(McDaniel & Radesky, 2018)。
内在化問題行動(internalizing behavior)は不安やうつ,ひきこもり,身体愁訴など自分に起こる問題を含むものです。
外在化問題行動(externalizing behavior)は攻撃や非行,かんしゃく,多動性など他者や環境との葛藤として起こる問題です。
(4)まとめ
以上のように,「デジタルメディアの長時間の使用は,子どもの生活習慣や発達に負の影響を及ぼす可能性がある」ことを示す研究が多いようです。
しかし,デジタルメディアは使い方によって良い影響を及ぼす場合も大いにありますので,生活に上手く取り入れて活用しましょう。
「現在のように対面が難しい場合」や,「遠くに住む人とやりとりをする場合」などにも,デジタルメディアは大活躍します。
デジタルメディアと子どもの発達については,旦(2013)のレビュー論文も参考にしてみてください。
さいごに,今日撮影した夏の夕焼けを。
引用文献
Cliff, D. P., Howard, S. J., Radesky, J. S., McNeill, J., & Vella, S. A. (2018).
Early childhood media exposure and self-regulation: Bidirectional
longitudinal associations. Academic Pediatrics, 18, 813-819.
旦直子. (2013). メディアと子どもの発達. 教育心理学年報, 52, 140-152.
Kuhl, P. K., Tsao, F-M., & Liu, H-M. (2003). Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(5), 9096-9101.
Lytle, S. R., Garcia-Sierra, A., & Kuhl, P. K. (2018). Two are better than one: Infant language learning from video improves in the presence of peers. Proceedings of the National Academy of Sciences,115(40), 9859-9866.
McDaniel, B. T., & Radesky, J. S. (2018). Technoference: parent distraction with technology and associations with child behavior problems. Child Development, 89(1), 100-109.
Ra, C. K., Cho, J., Stone, M. D., Cerda, J. D. L., Goldenson, N. I., Moroney, E., et al. (2018). Association of digital media use with subsequent symptoms of attention-deficit/hyperactivity disorder among adolescents. JAMA, 320(3), 255-263.
Richert, R. A., Robb, M. B., Fender, J. G., & Wartella, E. (2010). Word learning from baby videos. Arch Pediatr Adolesc Med, 164(5), 432-437.
Roseberry, S., Hirsh-Pasek, K., & Golinkoff, R. M. (2014). Skype Me! Socially Contingent Interactions Help Toddlers Learn Language. Child Development, 85(3), 956-970.
Wu, X., Tao, S., Rutayisire, E., Chen, Y., Huang, K., Tao, F. (2017). The relationship between screen time, nighttime sleep duration, and behavioural problems in preschool children in China. European Child and Adolescent Psychiatry, 26(5), 541-548.
Xu, H., Wen, L. M., Hardy, L. L., & Rissel, C. (2015). Associations of outdoor play and screen-time with nocturnal sleep duration and pattern among young children. Acta Paediatrica, 105(3), 297-303.
Yang, X., Chen, Z., Wang, Z., & Zhu, L. (2017). The relations between
television exposure and executive function in Chinese preschoolers:
The moderated role of parental mediation behaviors. Frontiers in
Psychology, 8, 1833.
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