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Jon Dretto: SNSはミュージシャンを自立歩行可能とする永久機関である

「10年前ならレコード契約が必要だった。でも、SNS のフォロワーのおかげで、レーベルの資金を必要としないんだ」

ジョン・ドレッドという名前を聞いてピンとこない人でも、彼の "動画" はすでに見たことがある人は多いでしょう。ニューヨークを拠点に活動する24歳のギタリストは、たった1年間で、彼の愉快なビデオシリーズ "初心者のふりをして、それからシュレッドをぶちかます"のオンライン再生回数が1億回を超えました。

どのクリップでも、ドレットは淡々と楽器店に入っていき、ギターの"初心者" を装い、店員や見物人からにやにや笑いを誘いながら、時には法外に高価なギターで悪戦苦闘してみせます。しかし雷鳴一閃。瞬く間に彼は、目もくらむような指板の魔術を披露するのです。さっきまで、ドレッドに上から目線だったり、同情的だった人たちが、もれなく顎を外してポカーンとなる様は爽快。ドリフ並の古典的でお約束なドッキリですが、だからこそ鉄板で思わず笑ってしまうんですよね。

「全体を通して、とても楽しかった。みんなに笑ってほしかったし、"この子はこれから来るぞ" と思ってほしかった。結局、みんな僕の冗談に付き合ってくれたし、店ではいい友達もできたんだ」

ドレットが "いたずら" で注目を集めることを思いついたのは、ナッシュビルにある "大手マネジメント会社" で門前払いをくらったことがきっかけでした。

「あのころ、自分のネット上のフォロワーが2万人というのは、何か意味があると思っていた。浮かれていた。だけど、そこの担当者は100万人がスタートラインだと言ったんだ。じゃあ、そこまで増やそうってね」

ただし、そうした飛び道具も、ドレッドのメロディックで、エモーショナルかつテクニカルなギターの腕前があってこそ輝くというもの。実際、7歳で初めてギターを手にし、延べ3000時間、過去18年間毎日を音楽の才能を磨くことに費やしてきたドレットは、音楽ビジネスの学士号、そして音楽理論と演奏の学位まで取得しています。

アデル、レディー・ガガ、Eminem, NICKELBACK など名曲のメロディ・ラインを、アンニュイからの突然の尊きキメ顔で弾きかまし始める彼の最新動画シリーズ "BEGGING FOR GUITAR" は、さまざまなプラットフォームで10億回、すべてのコンテンツを合わせると20億回という驚異的な再生回数を記録しています。

多くのリスナー、フォロワーを集めるようになった今、ドレットはコンテンツからの収入を得て、遂に自身の楽曲を発表し始めました。デビュー・シングルの "Broken Promise" は、ドレットの感情迸る歌声とソロワークが際立つポップ・バラード。

「この曲に対する反応は素晴らしいよ。これからもどんどん新曲を出していく。10年前だったら、今やっていることをやって、新曲を次々お披露目するにはレコード契約とその資金が必要だっただろうけど、ソーシャルメディアのフォロワーを増やして、自分自身でキャリアを構築してきたおかげで、レーベルの資金を必要としないんだ。それってとてもクールだよね」

特筆すべきは、800万人のフォロワーにふくれあがった SNS のフォロワーを活用して、ドレッドが音楽のみならず様々な分野に活躍の手を広げていることでしょう。サムスン、フェンダー、ジバンシィ、キーゼル・ギターなど、音楽、ファッション、テクノロジーの分野まで、最も有名な世界的ブランドと仕事を行うようになりました。そうして、そこで得た資金や知名度をさらに自らの音楽へと注いでいく。

タトゥーを入れながら演奏したり、撮影の角度に気を使ったり。ドレットは格別に魅せ方が上手く、自己プロデュース能力も高いのはたしかです。しかし、SNS は誰にでも挑戦できる、オープンで平等なプラットフォームであることもたしか。つまり、SNS という音楽の "永久機関" が存在する今日、アーティストはアイデアと工夫しだいで十分に自立歩行が可能であると、ジョン・ドレットは自らの活躍で証明しているのです。




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