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ヘヴィ・メタルに"ドレスコード"は必要なのか?

例えば、大事な商談にロブ・ハルフォードのようなムチでしばき上げるタイプの猫メタル完全武装で向かう人はいないだろう。高級レストランにヨレヨレの PANTERA テーシャツと短パンで突入するのもやはり相当に気が引けるものだ。まだ全裸の方がマシかもしれない。このように、社会には服装について、暗黙のルールのようなものが存在する。その是非はともかく、"ドレスコード" は人類が長年にわたって積み上げてきた"空気"の一部であり、前田慶次か窪塚洋介レベルの KABUKI 者でもないと、たった一人でその空気に抗うのは難しい。

では、僕がずっと寛容で自由な逃避場所だと信じているメタル世界に "ドレスコード" は存在するのだろうか?

デスメタルの自由を謳歌する TOMB MOLD の最新作 "The Enduring Spirit" が心底素晴らしい。まさにその "不屈の精神" は様々な場所で高く評価され、最近では名門 "Decibel Mag" の表紙を飾ったほど。しかし、その雑誌の表紙について、ネット上で一部のデスメタル・ファンたちから、"ふさわしくないルックス" だと大きな非難を浴びたんだ。

「TOMB MOLD の新譜はとても好きだ。しかし、デスメタル・バンドは、雑誌の表紙を飾ることの意味を理解する必要がある。完全に対応に失敗しているよ。デスメタルならもっと AKERCOCKEのような服装をしないと!」

「スーパーに買い物に行くのか?」

「これだから "ゲートキーピング" "門番" はいいんだよ。シーンにやって来る、いっちょかみの観光客のノロマは歓迎されないし、抑制されるべき」

「彼らは QUEEN じゃなくて TOMB MOLD だよ。もうこの世界にルックスなんてないんだ。少し前までは、痩せていて、イケメンでなければロック・スターにはなれなかったのに。今はキモい人ばかり」

こうした意見が TOMB MOLD の表紙に対してガツガツ寄せられたわけだね。そう言われてみれば、たしかにメタルのライブでメタルT以外を着ている人はあまりみかけない。もちろん、日本だと仕事帰りの社畜スーツは散見されるわけだけど、アレは許される。許されるどころかかむしろ誇り高く尊い。まさにオッケー・カフ。

とにかく、そのメタルにはメタルらしいドレスコードがある理論でいけば、ダウンロードに猫チャンTで参加した僕は完全に場違いの、フルチンより恥ずかしい BTL  (Breaking The Law) 野郎だったのではないか?いや、黒Tだったからギリギリ、パプアニューギニアのペニス・ケースであるコテア装着くらいの羞恥で踏みとどまっていたのか?

そんなわけないんだよね。TOMB MOLD のメンバーがSNSでこの議論に参加したんだ。

「あの写真で僕たちは文字通り気楽なTシャツと短パンしか着ていない。なんでそれだけでワーワー言うんだ?特集全体を見るまで待ってくれよ。なぜ君らは、自分ではない何かになりたいと思うんだ?そんな必要ある?僕らの外見を見て、外見だけで批判するなら、ぜひとも僕らのバンドを聴くのをやめてくれ。あのジャケット写真は、僕らが何者であるかを完全に正直に描いたものだ。完全に僕らの正体を表しているんだ。これは、現代で最も興味深く野心的なエクストリーム・メタル・バンドのひとつである、強大な AKERCOCKE にも失礼だよ。彼らも僕たちと同じように、自分たちに誠実なだけなんだから」

アートってね、自分に正直であることなんだよ。それがすべてなんだよ。だからね、自分に正直に愛するメタル・バンドのテーシャツを着るもよし、彼らのように自分に正直にバイオハザードや攻殻機動隊をリスペクトしたオタバレをするもよし、メタルらしく屍山血河にステ振りするもよし。それを批判することは、きっと誰にもできないんだ。

TOMB MOLD を応援して賛同する意見も多く上がり始めた。KEN MODE, UNDEATH, IMPERIAL TRIUMPHANT といったバンドも TOMB MOLD に同意する。

「TOMB MOLD の服装の悪口を言っている人たち、一体何をやっているんだ?彼らが普通の人に見えることに腹を立てているのか?漫画のようなキャラクターではなく、実際の音楽ファンのように見えるからダメなの?」

「メタルは、はみ出し者や個性主義者のためのシーンだとおもっていたのに。みんな同じ格好をして、ドレスコードに従わなければならないのか...。まるでかつてのブラックメタルを思い出すよ」

「オマエら、12歳のままかよ?このシャバ僧が!」

そうなんだよね。そもそも、僕はヘヴィ・メタルが異端であるところが気に入っている。みんなが聴いている音楽じゃないところが気に入っている。右へならえじゃないところが気に入っている。自分に正直でいられるところが気に入っている。誰にもゴマをすらないでいられるところが気に入っている。誰にも指図されないところが気に入っている。

なのに、ヘヴィ・メタルの中に入ると突然、ヘヴィ・メタルの外と似たような厳格なルールが登場するなんてオタオタ詐欺もいいところじゃないか?

仮初の自由、仮初の一体感、仮初のつながり…そんなのは虚しいだけだ。TOMB MOLD が吊し上げられた SNS だって同じだよ。自分を偽って、嘘に嘘を重ねて、みんなにあわせて、会ったこともない誰かに媚を売ってまで得る人気や賛同やインプレッションにどれほどの意味があるだろう? 

もちろん、メタルのライブに大好きなバンドのメタル・テーシャツを着ていくのは楽しい。誰かとカブるだろうか?もしかしたら PAIN OF SALVATION 女子に声をかけられるだろうか?電車の中で突き刺さる奇異の視線に危うく勃起してしまわないだろうか?そんなこんなを考えながら選ぶ時間は至福だ。

だけどね、それでもヘヴィ・メタルにはやっぱりドレスコードは似合わないと僕は思う。メタルは好きだけどメタルっぽい格好は好きじゃないはもちろんアリだし、その逆に、メタルは知らないけどメタルTは好きー!だって許されてこそのヘヴィ・優しい・メタルなんじゃないかな?


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