"オフ・キルター"なリズムでMESHUGGAH 以前にメタルを抽象化した英傑たち: CONFESSOR の "Condemned" と CRIMENY の "Peat"
例えば、絵画にも写実派と抽象派があるように、おそらく音楽にも写実的な音楽と抽象的な音楽が存在するように感じます。そういう視点でみると、80年代のヘヴィ・メタルは、写実派や印象派、そして象徴派がほとんどだったのではないでしょうか。つまり、そこにある風景 (音楽) を正確に具体化したり、理想化したり、印象的に描くような音楽。
もちろん、FATES WARNING や WATCHTOWER のように難解で幾何学的なバンドも少なからず存在しましたが、彼らの難解は抽象やシュールというよりも、複雑さを織り重ねたパズルのようなもの。わかりやすい変拍子とでも言えるでしょうか。ここは何拍子、ここは何拍子と決まっていて、決して目に見えない心象音楽を描いていたわけではありません。
つまり、"そういう解釈もできるけど、ああいう解釈もいいし、こういう解釈もまた正しいよね" という、寛容で浮遊感のあるメタル音楽は当時、ほとんどなかったわけです。
「僕らはメタルを必要最低限まで削ぎ落とし、抽象的に再構築した」
そんな時代に彗星のごとく登場したのが MESHUGGAH でした。1995年の "Destroy Erase Improve" で彼らはまず、印象派や象徴派のメタルを削ぎ落とし、写実主義に立ち戻ったあと、抽象派のメタルを構築していきました。
「実際、僕らが変拍子でリフを弾くことはほとんどない。僕たちの曲で変拍子が聴かれるとみんなが言うのは、僕たちが音符をさまざまな方法でグループ分けしているからだと理解している。でも、ほとんどの曲が4分の4拍子なんだ」
具体的には、MESHUGGAH はリズムの中にシュールレアリスムを導入しました。音符をグループ分けし、アクセントを変えていくことで、ミクロの変拍子とマクロのシンプルな拍子記号を両立させました。ストレート?変拍子?ポリリズム?いずれにせよ、奇数拍子と複合拍子の鮮やかな共存は、独特の "オフ・キルター" "ずれている" "狂った" ような感覚をもたらし、抽象的で多様な解釈が存在するメタルを生み出したのです。
「シンコペーションの効いたギターやドラム…多くの人が MESHUGGAH が流行らせたと言っているけど、それはもっと後。当時あのスタイルを広めたのは俺らだけだった」
と FEAR FACTORY の Dino Cazares は主張していますが、その FEAR FACTORY 以前に "オフ・キルター" で抽象的なメタルを創造していたバンドがいます。CONFESSOR です。
「Earacheといろいろなことがあったんだ。当時はまだそういうバンドがいなかったから、僕らの売り出し方がわからなかったんだと思う(笑)」
1991年にリリースされた彼らのファースト・フル "Condemned" は、アルバムを通してその "オフ・キルター" なリズムが渦巻く非常に抽象的なメタルでした。その前代未聞の作品につけられた二つ名は "テクニカル・ドゥーム"。しかし、アートワークで進撃の巨人を予言したように、この作品はドゥームどころか20年先のモダン・メタルを見通した予言書だったのです。
「当時一番影響を受けたのは、Frank Zappa と MISSING PERSONS の Terry Bozzio と、TROUBLE の最初の2枚のアルバムで叩いていた Jeff Olson だね。何千人ものドラマーがそうであったように、僕がドラムを叩きたくなったきっかけは RUSH の "Moving Pictures" だったけど、CONFESSOR に加入する頃には、Bozzio の超抽象的な角ばったサウンドを、僕たちが作り始めていたヘヴィ・ミュージックに適用しようと取り付かれていた。Bozzio の影響は、オフタイム・リフの世界を探求するきっかけとなった。みんなは、僕がアクセント音を変えたり、ハイハットのタイミングを変えたりして、リフの感じ方を変えることを気に入ってくれたんだ。ドラムはとてもフィジカルな楽器だから、僕らドラマーが楽しめるようなつながりもある。ポリリズムや "オフ・キルター" のビートは、正しく演奏すると本当に "気持ちいい"。リフを書くことでドラゴンを追いかけているようなものだよ」
CONFESSOR の屋台骨とも言えるドラマーの Steve Shelton はバンドの "抽象化" の原点についてそう明かしています。ちなみに、彼のもうひとつのバンド LOINCLOTH も"オフ・キルター" なリズムがジリジリと脳を焼く実に立体的で空間を焦がすメタル。そうそう、この人は 97年に FLY MACHINE というバンドでもアルバムを出しているんですが、これがもう絶品!!拍子を抽象化したプログレッシブ・グランジ!
とにかく、興味深いことに、そんなマエストロがスティックを手にしたのは若干遅めの17歳の時でした。
「初めてドラムセットを手にしたのは17歳になった頃だった。 遅かったけど、30年経った今まで、ずっとドラムを叩いていたような気がする。
CONFESSOR がどんどん曲を書いていくにつれて、僕のスタイルは発展していった。 リフの響きを変えられるものはないかと、いろいろなものを試してみたんだ。 ある音を強調する代わりに別の音を強調することで、耳が気づくことを変えることができた。 リフを十分に変化させれば、実際よりももっと多くのことをやっているように聴こえるし、バンドがその感触を気に入れば、変化を維持することができた。そうして効果的な変化をいくつか学んだ後、僕は "トリックのバッグ" をたくさん開発し始めた。
よくシンバル・グラブを僕の演奏スタイルと結びつける人がいるけど、それは当然だ。 僕はいつも、メタルにおけるパンチの効いたアクセントが好きだった。 RUSH も他のバンドより多く使っていたし、クロージング・ハイハットを使ってビートにアクセントをつけるのと同じように、シンバル・グラブを使えることに気づいたんだ。 それからはずっとそうだった! 時々、いろいろなドラマーのビデオを見るんだけど、彼らがほとんどシンバル・グラブを使わないことに驚くよ。 もしかしたら、アクセントとして使うドラマーがいるかもしれないが、彼らの頭にはその発想はなかったようだ。 僕にとってシンバル・グラブは本当に面白いサウンドだし、もし僕がシンバル・グラブをよく使うから目立つのだとしたら、それはそれで構わないよ」
面白いことに、というか当然と言えば当然ですが、CONFESSOR の中にドゥームという強い意識はありませんでした。
「正直なところ、TROUBLE が僕にとって大きな魅力を持った唯一のドゥーム・バンドだった。サバスをドゥームと考えるなら、彼らもそうだったが、僕のドラマーとしてのスタイルは、非常に多くのストップ&ゴーで展開し、いつも忙しくあることを好んでいたので、ドゥームは僕が自由になる機会をあまり与えてくれなかった。他のドゥーム・バンドには、好きなリフや曲もあったけれど、フルタイムでドゥームを演奏するのは難しい。僕には挑戦が必要なんだ。聴くのが好きな音楽と演奏するのが好きな音楽があり、この2つには大きな違いがある。
僕の好きなヘヴィ・バンドは、長い間 GODFLESH だ。CONFESSOR は彼らよりずっと複雑なので、奇妙に思う人もいるかもしれないが、事実だ。彼らはドゥーム・バンドのように遅いが、ドゥームは彼らを受け入れているのだろうか?
TROUBLE について僕がとても好きだったのは、彼らのリフがとてもエモーショナルだったことだ。僕たちもよくそれを追求するけど、僕らのやっていることの多くは、ドゥームが使っているようなアクセントやリズムの変化よりも、ずっと句読点が多いんだ。ドゥームというよりは、もっと変な METALLICA のようなバンドなんだ。僕らが "より大きな" 何かの一部だったとは言えないけど、僕らのインスピレーションは、ドゥームに代表されるヘヴィ・ミュージックの一片よりもずっと広かったんだ」
残念ながら、レーベルのサポートは満足のいくものではありませんでした。
「当時のマネージャーが Earache にコンタクトしてきたんだと思う。彼らはかなり過激なバンドと契約することで定評があり、僕たちのような風変わりなバンドを臆することなく引き受けたのだと思う。Earacheの前に Peaceville とも話をして、オーナーは僕らと契約することにとても興味を持ってくれたけど、当時は僕らをプッシュするのには限界があると言っていた。レーベルの成長痛があったのかもしれないが、きっと合っていただろうね!Earache の関係は熱かったり冷たかったりで、結局アメリカではほとんどプッシュされなかった。僕たちは本当にこの国で人々を驚かせたかったが、自宅から数時間以内で自分たちだけでできるショーをやり続けなければならなかった。繰り返しになるけど、フロリダ以外の南東部にはメタルの大きなマーケットがなかったんだ。僕たちはここノースカロライナで演奏していたけれど、他の都市で存在感があったのはアトランタ、ナッシュビル、リッチモンドだけだった」
それでも CONFESSOR は CARCASS, ENTOMBED とのヨーロッパ・ツアーに出ることができました。
「Gods of Grind のツアーではヨーロッパをかなり見て回った。とても贅沢な経験だった!ランチタイムに会場に入り、準備を整えてから、サウンドチェックに戻るまで、時には何キロも歩き回って、すべてを吸収していたね。ヨーロッパ本土に着くと、ツアーはケータリングだったので、毎晩おいしい食事ができた。僕たちが最初に演奏し、セットが終わってシャワーを浴びる頃には、ENTOMBED か CARCASS がステージに上がる準備を整えていた。どちらのバンドも素晴らしかったけど、CARCASS は毎晩素晴らしかったね。彼らがステージに立つたびに、今まで見た中で最もヘヴィなバンドだと感じた。あまりにも素晴らしいツアーだった!ここ数年、CARCASS のメンバーはツアーを続けていて、何度か会うことができた。彼らはツアーで一番長い時間を一緒に過ごしたし、何年経っても純粋にフレンドリーでオープンなままだった。彼らはアンダーグラウンドの JUDAS PRIEST だと思う。真面目で、過激で、センスが良くて、何よりも楽しませてくれる」
そう、瓦解したのち、再び集結した彼らは今でもそのキャリアを続けています。もちろん、手にしてしかるべき栄光すべてを受け取ったわけではありませんが、それでも NILE と CARCASS のメンバー、そして Phil Anselmo が、2005年の "Sour Times EP" のライナーノーツでこのバンドに敬意を表したことは大きな報酬でしょう。抽象的で万人向けではないが、それを手にした者は決して忘れることはない。そうした意味で、CRIMENY の "Peat" も同様に重要な作品かもしれませんね。
テキサス (こうしたバンドはなぜか南部出身が多い) のバンドですが、ニューヨークのギター・コンテストで1位と2位を獲得した Derek Taylor と Scott Stine を中心に結成。Derek はボーカルとギター、Scott はベースを担当しています。その唯一のアルバムが "Peat"。94年なのでこれも "Destroy Erase Improve" より前ですね。シュラプネルからのリリースで、恐ろしいことに日本盤も出ていました。たぶん6枚くらいしか売れていません。でも、CONFESSOR を ALICE IN CHAINS に寄せたような素晴らしさ。拍子も調も非常に抽象的で、正解がまったくわかりません。
ちなみに Derek Taylor のソロ・アルバム "Dystrophy" はもっとギターカオスな名品で、メンバーが兼任している HAJI'S KITCHEN はより PANTERA 的でオリエンタルでファンキーですが同様に拍子の謎を極めています。Derek はそのギターが評されて、のちにあの Rob Halford による 2WO に引っ張られたりもしていますね。たぶん、今挙げた人たちはみんな7弦使いかな。
振り返ってみると、TODAY IS THE DAY の初期作もそうよね…とにかく、そうした "オフキルター" なリズムは、今日でも PYRRHON や ULCERATE に脈々と受け継がれているわけです。だからこそ、この機会に抽象化し多様化したモダン・メタルの源泉をぜひチェックしてみてくださいね。ちなみに僕はここに懺悔し告白しますが、伝統を蹂躙する CONFESSOR のリズムが体に染み込んだ拍子ガキです。発想が貧困なので令和にまるまる一曲コピーするザーコザーコなのです。令和に CONFESSOR をまるまる一曲コピーすな!素人が思い上がるなよ。座して待て!
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