見出し画像

ガールズ・メタルとヘア・メタル

ベネヴォレント・セクシズムという言葉がある。ベネヴォレントには、"善意の" とか "慈悲深い" という意味がある。つまり、善意や配慮からくる一見ポジティブに思える言動が、実際は性差別を助長していることを指している。

これのやっかいなところは、配慮のつもりが差別になってしまうことだ。例えば、「ここは男の俺がやるから、君は黙って見ていてくれ」。一見、女性を気遣った男気のある発言に見えるけど、これによって受け手は従属的な存在であることを刷り込まれ、自由を奪われ、自らの挑戦を阻害されてしまう。

「私は “フィーメール・フロンテット” って言葉が好きじゃないの。だってこの言葉はただフロントを務める人物のジェンダーのみによって、サブジャンルのようなものを形成してしまうから。その女性ボーカルを擁するバンドたちが生み出す音楽関係なしにね。その行為はとても限定的で、逆効果だと思うの」

英国気鋭のメタリック・ハードコア VENOM PRISON のボーカリスト、ラリッサの弊誌インタビューに対する回答だ。

「例えば DESTINY’S CHILD も EMPLOYED TO SERVE もどちらもフィーメール・フロンテットのグループだと言えるけれど、実際両者の音楽を聴けばその違いに驚くでしょ?!(笑)。
みんながフィーメール・フロンテットという言葉に踊らされるのはわかるのよ。だって女性を擁するメタル/ハードコアバンドはとてもレアだからね。悪意がないのもわかっているの。だけど結局その言葉は音楽のジャンルではないのよ」

同じく、英国の激烈メタリック・ハードコア EMPROYED TO SERVE のジャスティンの回答。

つまり彼女たちは、"フィーメール・フロンテット" という言葉が、ある種の呪いであり、ベネヴォレント・セクシズムのひとつであると主張しているわけだよ。

"女性がフロントを務めるメタル・バンド" という謳い文句は、たしかに注目を集めやすいだろう。一見、女性を特別扱いした優しい行為にも思える。ただし、そこに音楽は関係ない。性別でのみで括られたジャンル。それは、"ヘア・メタル" と同様に、音楽ジャンルではないだろう。

ドゥームなのか、スラッシュなのか、正統派なのか、どんな音楽をやっているのか皆目見当もつかない。ただメタルで勝負したいと願うアーティストにとっても、スタートラインが歪になった失礼な行為ではないか。実力を棚に上げられ、0からの挑戦を阻害するというかね。女性にとっても、男性にとっても、まったく公平じゃないよね。長い目で見れば、きっとマイナスなんだ。

だからね、METALLION の "ガールズ・メタル特集" を見かけた時に、唖然としたわけだよ。2024年にこんなド差別的な言葉、企画が、有名超巨大出版社様からでてくるのか?!と。どんだけ時代巻き戻すん?!と。いくら本が売れなくて苦しいからって、よくゴーサイン出せたな?!と。たしかにこの本は売れるだろうけど、これじゃまるでチンポー・ミュージックじゃないか。

取り上げられるアーティストたちはおそらく感謝しているだろうし、ファンもうれしいだろうし、出版社も儲かる。すべてが Win-Win に見える構図も、この問題の難しさを象徴しているかもしれないね。僕は LOVEBITES や BAND-MAID にインタビューしたこともあるし、その界隈に素晴らしいアーティストが多いことも知っている。それでも、僕はメタルが "芸能界" にはなってほしくないんだ。

せっかく盛り上がっているのに水を差すなって思われるだろうし、僕だって以前はたくさん読んでほしいからついつい "フィーメール・フロンテットの!" みたいな宣伝はしたことがあるけど…よくないよね…少しづつでも減らしていかないと…良いバンドはほっといても売れていくんだから、変に括って枷を背負わすのはやめてあげましょうよ…

いやーでもねぇ…ガールズ・メタル。これ、言い続けたら、定着させたらダメな言葉だよ。ヘア・メタルが最高のバンドがたくさんいたにもかかわらず、ほとんど侮辱的な言葉として残っているのをみんな知っているでしょ… しかもガールズって…少女限定…せめてフィーメール・メタルにしなさいよ…

僕はね、ポリコレにはたしかに行きすぎている部分がたくさんあると思う。思うんだけど、ポリコレが行きすぎてるからといって、差別自体が許されるとは微塵も思わない。むしろ最近では、ポリコレに対する反感を利用して、差別自体をOKにすりかえる人たちが多くて辟易してしまう。互いに少しずつ譲り合って、非を認めるところは認め合って、世界を良くしていくことはできないのだろうか?

「人はその生い立ちで判断されたり、虐待を受けるべきではないのよ。私はそういった悲しい出来事が徐々に減ってきていると感じているの。だからうまくいけば、時間の経過とともにいつか消えればいいのだけど」Justin Jones

「音楽シーンにおけるセクシズムと正面から闘うことが重要だと思う。このトピックにアプローチする方法はたくさんあるわね。だけど最近、性差別について話しすぎると報復を多く受けてしまうように感じるわ。それが実際に人々をこの話題から遠ざけている可能性もね!だからデリケートなテーマなのは確かね…。だから女性が素晴らしく優れていると示す最善の方法は、表現と内面の強さ/粘り強さを通してそれを示していくことだと思うの。だから (SVALBARD の) Serena のセクシズムをテーマとした音楽を作る情熱が大好きよ。創造的な方法で、人々に認識と態度を変えるように刺激するそのやり方を支持するわ!
個人的には、世界には固定観念や先入観がたくさん漂っているように感じるわね。だから私はもっともっと頑張りたいわ。それで若い女の子たちにとって、女性が何ができるかを示すための良いお手本になれればね。
私は成すことすべてにおいて、自分自身に問いかけているの。どんなシーンに存在していたい? ミュージシャンが性別や肌の色を問わず本当に活躍できるシーンとは?その場所へどうやって貢献できる?仕事やパフォーマンスをしているときは、いつもそれを心に留めておくのよ。シーンの将来に希望を抱いているわ 」 Yvette Young


この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?